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MMTと世界経済の構造変化

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こんにちは!栗原誠一郎です。

白熱するMMT論争

今年11月に米国大統領選挙が行われるため、今、民主党では候補者同士による激論が繰り広げられていますね。
その中で一気に注目を浴びてきたのがMMT(現代貨幣理論)です。

MMT支持派の主張は、「自国通貨を発行する政府は(市場の)供給能力を上限に、貨幣供給をして需要を拡大することができる。したがって、政府は財政赤字を気にせず景気対策に専念すべきだ」ということです。

今までの主要経済学者は財政赤字が拡大すれば、いつかデフォルトになり、経済は大混乱を起こすとして、財政規律を重視すべきだと主張しています。

しかし、日本は現実にGDPの200%を超える債務があるが、破綻する気配さえない。この事実がMMT支持派を更に勢いづけていることは確かでしょう。

お金は「物」か?

今までの経済学では、お金の供給量を増やすと物価が上昇するされてきました。それはお金の供給量を増やすと、市場原理に沿ってお金の価値が下がるからという理屈です。

つまりお金も通常の「物」と同じだという考えに基づいているのです。

しかし、この点こそがMMTが「現代」貨幣理論と言われるゆえんで、MMTでは、現代の貨幣とは「物」ではなく、債務と債権の単なる「記録」でしかない、だからいくら貨幣を供給しても、貨幣を発行する「行為自体」がインフレを起こすことはあり得ないのです。

「デフレ」は共通の敵だが。。。

ここで「行為自体」と強調したことには意味があります。そもそもMMT支持派の政策目的は、デフレの解消です。

デフレは、既にあるお金の価値を高めるので、格差を広げることになります。
またお金の使用を先送りする力が働くため消費が伸びず、経済も成長しません。したがって緩やかなインフレの状態にコントロールしたいと考えるのです。
この緩やかなインフレこそが理想という考え自体はMMT支持派も、今までの経済学者も同じです。

MMT支持派が違うのは、単にお金の供給量を増やすだけではインフレにはならないため、国債を大量に発行してでも実際に政府がお金をつかって需要を創らなければならない(財政政策)と考えているところなのです。

しかし、今までの経済学者は、金融政策(政策金利の調整・民間銀行との間での金融資産の売り買い・支払準備率の操作)によって貨幣の供給量をコントロールするのは良いが、政府に通貨供給量の決定権を与えると、通貨供給量が増えすぎ、インフレが行き過ぎてしまうと「信じて」います。だから、MMTの主張を徹底的に攻撃するのです。

MMT攻撃①:「最後は『財政破綻』する」

MMTに対する攻撃の一番典型的なものは、「このまま借金を増やすと最後は『財政破綻』する」というものです。

財政破綻とは「『国が』資金調達や利払いといった資金繰りが行き詰る」ということ、いわゆるデフォルト(債務不履行)です。

しかし、MMT支持派は政府が発行した円建て国債を中央銀行が全て買い取れば良い(資金調達可能)し、また政府が中央銀行に利払いをしても、それは結局国庫に入る(利払い可能)ので破綻はありえないと説明します。実際、これは事実でしょう。

日本の中央銀行である日本銀行の利益のおおもとは、通貨発行益(銀行券の発行と引換えに保有する金融資産から生じる利子収入等)であり、国が日本銀行に銀行券の発行権を独占的に与えたことにより生じるものであります。

したがって、内部留保の充実や出資者への配当に充当する以外は、国民の財産として基本的に国庫に納付されることが法律(日本銀行法第53条)に定められています。(ちなみに平成30年度の剰余金は5,869億円、ここから法定準備金積立額293億円(当期剰余金の5%)、配当金(500万円、払込出資金額の年5% の割合)を差し引いた残額5,576億円を国庫に納付している。)

MMT攻撃②:「『円』に対する信用がなくなり、通貨危機が起こる」

また、財政赤字が拡大すると「円」に対する信用がなくなり、通貨危機が起きて、激しいインフレが起きるという攻撃もあります。

しかし、財政赤字が原因で通貨危機が起きるのは外貨建債務に頼っている場合です。

日本は輸入金額の20カ月相当の外貨準備高(国際的に安全な水準とされているのは3カ月)があり、外貨建て債務に頼る必要がありません。

この潤沢な外貨準備高は、「日本の恒常的な経常収支黒字による円高進行」の抑制の為に為替介入(典型的なものは米国国債の購入)によって蓄積されたものです。

したがって、日本で財政赤字が膨らんでも通貨危機も起きることはありません。少なくとも財政赤字とは何の関係もないのです。

経済構造の変化

今までの主要経済学者が過度にインフレを警戒するのは、歴史上、先進国においてもインフレが経済を低迷させるということが繰り返されてきたからであり、中央銀行の役割もインフレ対応が主要な役割だったのです。(1694年に設立された世界で2番目に古い中央銀行であるイングランド銀行は対フランス戦のための資金調達目的で設立されたましたが。。。)

物価目標も、そもそもは「物価を押さえる」目標であり、今の様に「物価を引き上げる」目標ではなかったのです。

しかし、インフレを起こす経済の構造が昔と今では大きく変わってしまったのです。

一つは中国が市場経済に組み込まれたことです。このことにより圧倒的に供給力(特に労働力)が高まりました。

そしてもう一つはシェールガスの開発により原油の供給力も高まったことです。
エネルギー価格の上昇は物価に大きな影響を及ぼします。ガソリンに限らず、経済全体の需要が増加した時に、エネルギーの需要は特に高まるので、原油価格が安定するようになったことは物価を考える意味でも非常に重要です。

当たり前ですが、インフレは需要が供給を上回る場合に起きます。でも、このように昔に比べて今は供給力が圧倒的に高まったため、特殊な経済不安要素でもない限り、過度なインフレは発生しなくなったのです。

MMT「支持派」の問題

このようにMMTに対するよくある反論は全く間違っているといって良いでしょう。というより、敢えて論点をずらして、論戦で決定的に負けないようにしているようにさえ見えます。

しかし、MMTはMMT「支持派」(MMTを全面に押し出し、政府にお金を使わせようとしている人達)の多くが主張しているような「夢のような」話ではありません。

それは本家MMT学者であるランダル・レイ自身も著書で述べています。
「支出する能力があるからというだけで、政府が支出を増やすべきだということにはならない」と。

つまり、今起きている議論の中でもっとも問題なのは、政府が需要をつくりだすとして、どこに需要を創りだすべきかという答えがないことなのです。

前述のランダル・レイは「公的な目的」(社会全員の物質的、社会的、身体的、文化的、精神的幸福を改善する)の為に支出すべきとし、「公的な雇用提供プログラム(Job guarantee program)」(失業者を政府が採用し、景気が良くなれば自然と民間企業に採用されるので政府の支出が低下する)をインフレコントロールの土台に置くべきと主張しています。

例えば失業率自体が既に低い日本で現実的なコントロール効果は期待できないだろうと思います。

結局のところMMTは、「自国通貨を発行する政府が支出する能力には限界はない」ということを説明する理論でしかないないのです。

ところがMMT「支持派」は、「政府が支出する能力には限界はない」という点を強調し、どんどんお金を使えと主張します。
しかし、それは「大きな政府」そのもので「大きな政府」が継続的な成長に繋がらないことは既に歴史が証明しているのです。

確かに景気が不安定な中で財政収支を改善するために消費税を導入することは間違っているでしょう。しかし、本家MMT学者が言うように、「支出する能力があるからというだけで、政府が支出を増やすべきだということにはならない」のです。

結局、それは我々日本人自身、とくに企業人が需要を創りだして行くしかないのだと私は思います。

さて、皆さんはMMTに対してどのように理解していますか?

国の将来を考えるため、そして自由主義の活力の源泉たる経済的自立の意義を考えるためにも、一度MMTに向き合ってみてください。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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