障害者雇用を推進する中で、トラブルや失敗が発生することが多々ありますが、できれば避けたいものです。
今回は企業における障害者雇用で実際に発生したトラブル、失敗事例を取り上げます。
障害者雇用で発生したトラブル、失敗事例
企業における障害者雇用で実際に発生したトラブル事例、失敗事例となります。
以下、7つの事例を取り上げます。
コミュニティが強固となりすぎた事例(聴覚障害者事例)
「聴覚障害1級、2級、20代女性、30代女性のケース」
ある職場で重度の聴覚障害者の方が2名同じ職場に入社しました。
同じ障害であれば、二人協力し合って長期就労できると期待しての配属でした。
二人とも女性で年齢も近かったことから、職場で休憩時間も含めて常に一緒に過ごす時間が多くなっていきました。
入社当初、ある男性社員が業務指導を担当していたのですが、徐々にその二人から指導員へ不満の声が出てくるようになってきました。
不満を聞いてみると「教え方が厳しい」「優しくない」という内容でした。
業務上の指導であり、一般の企業が健常者の方に指導する際と変わらない指導方法ではありましたが、不満の声は徐々に大きくなっていきます。
業務指導教育期間も終了したのですが、その後職場環境上の不満など様々な内容の不満が噴出してきました。
二人は職場で常に二人だけのコミュニティを形成してしまい、他の一般社員にもあまり挨拶をしなくなっていきました。
結果、他の一般社員との関係性を悪化させてしまい、半年も経過せずに、お二人共同時に退職していきました。
一般的に、同じ職場内で聴覚障害者が複数名在籍している場合、聴覚障害者同士で関係性が強くなる傾向があります。
入社当初は同じ職場の一般社員からも聴覚障害者へ積極的に筆談や手話などで話しかけてくれるのですが、だんだんとその頻度が少なくなっていきます。
聴覚者同士は手話でスムーズなコミュニケーションが取れますので、必然的に関係性が強固となっていきます。
仲が良いのは好ましいことですが、ただ、聴覚障害者同士の関係性が強固となりすぎ、一緒に働く健常者を排他的な関係性に発展しまうケースは問題です。
一般的に職場では業務上でのミスに対するアドバイス、コミュニケーションの行き違いなど、上司や同僚への不満が出やすくなるのは事実です。
この不満を聴覚障害者同士のコミュニティで共有・共感することで、他の社員に対し排他的な状況を作ってしまうこともあります。
障害が悪化した事例(視覚障害者事例)
「視覚障害6級、50代男性のケース」
ある職場に視覚障害者6級の50代男性が入社しました。
前職は倉庫での段ボール組立などの作業系業務をしており、今回はパソコンを使用する業務へ転職してきました。
その男性の障害は視野が狭い、視力も弱いという傾向がありました。
ただ、パソコンは多少使用できるということから採用に関するメール等の対応業務に配属されました。
一般的なパソコン画面では見にくいということから、助成金を活用し拡大読書器を職場で購入し、問題なく業務ができるようになりました。
ところが、1年経過した頃、急に退職を申し出てきました。
理由は視力、視野共に悪化し、業務遂行が難しくなってきたという内容でした。
障害者等級も5級となり、元の職場ような作業系の職場に転職を決めたという内容です。
職場の配置転換の話も出しましたが、その方は新たな転職先に移って行きました。
このように、視覚障害者に関わらず、障害内容は常に変化していきます。
障害状況が改善するケースもありますが、悪化するケースもあります。
常に障害状況には気を配り、状況によっては配置転換も視野に入れる必要があります。
症状悪化した事例(統合失調症事例)
「統合失調症、40代女性のケース」
統合失調症の40代女性の方が入社してきました。
元々学歴も高く、障害を発症する前は大手企業にも在籍していた方で業務能力は問題ない方でした。
入社当初は健常者社員と変わらず、テキパキと業務をこなし、コミュニケーションも他の社員とスムーズで良好な関係でした。
ところが、3か月を経過した頃です。
遅刻があったり、他の社員への不満の声が出てくるようになってきました。
ある月曜の朝、上司に「体調が悪くて出社できない」という内容の電話がありました。
その日は、そのまま休暇するように伝えましたが、その後も頻繁に同じようなことが発生してきました。
最終的には出社できない日が続き、結果、退職となりました。
精神障害者に多いケースですが、入社当時は健常者社員と遜色ないほど障害状況が良好な方が殆どです。
精神障害者の方に多く見られるのは、症状が良かったり、悪化したりする「波」が激しいことです。
年間での波、月間での波、週間での波、また1日の中でも波があります。
その波を管理者が理解し、休息や声かけ、場合によっては半休、早退なども有効な対策となります。
精神障害者が前職を退社する理由として最も多いのが、症状が悪化して退職するケースです。
退職後、ゆっくり休養し症状が改善し、新たに転職活動を開始しますが、多くの精神障害者の場合、面接するタイミングは非常に症状が落ち着いて一番良い状況となります。
つまり、入社当初は症状が一番良いタイミングとなることが多いのです。
採用する企業としては、そのような精神障害者の状況を理解した上で、面接の際、症状が悪化した時どのようになるのか、どうすれば予防できるのかなどをヒアリング、理解する必要があります。
また精神障害者の中には「トリガー」と呼ばれる、障害を悪化させるきっかけを有する方もいます。
ある一言、ある環境が症状を悪化させる要因となる方です。
採用する際、又は配属する際、このような「トリガー」があるのかないのか、本人または支援機関からヒアリングする必要があります。
てんかんが発症した事例(てんかんの方の事例)
「てんかん、20代男性のケース」
てんかんの障害を持つ方、20代男性が入社してきました。
あまり感情を上げすぎず常に一定の感情を保つ方で人柄は良い方でした。
てんかんの発生頻度は年1度か2度ほどで、高頻度に発生する方ではありませんでした。
入社して1年ほどてんかんは発生せず、業務もそつなくこなし順調に勤務できていました。
ところが、ある日、昼食を終えた午後、仕事開始間もない時間帯、急に発作が発生しました。
意識はあったものの、念の為救急車を呼び、一人社員が付き添って病院へ行きました。
病院到着後、無事何事もなく、その日は上司と相談の上、早退することとなりました。
翌日、問題なく出社してきました。
前日の状況を聞いてみたところ、朝からてんかん特有の嫌な感覚があったそうです。
また、詳細にヒアリングして判明したのですが、そのてんかんが発生した数日前に、病院医師からの提案で薬の量を減らしたタイミングであったそうです。
1年ほどてんかん発作が無かったことから、薬を減らして状況を観察する期間にあたっていました。
このことを職場は把握できず、通常の業務を通常の態勢で実施してしまい、急な対応を余儀なくされることとなりました。
てんかんの方が発症するのは良くあることで、発症すること自体、全く問題ありません。
しかしながら、このように医師から薬の量を調整している期間など、障害状況が大きく変化する可能性のあるときは、上司または管理者が把握することは重要となります。
また、このケースではてんかん発作の当日、本人に発作の前兆がありました。
些細な感覚だったとのことから職場には言わなかったということでしたが、些細な内容も話せる職場環境、コミュニケーションは障害者と一緒に働くうえで非常に重要なポイントとなります。
職場での恋愛感情を表出した事例(発達障害者事例)
「発達障害、30代男性のケース」
発達障害30代の方が入社してきました。
業務レベルもある程度しっかりしており、入社当初問題なく従事していました。
業務指導担当が20代女性でしたが、この女性に恋愛感情を抱いたようでした。
ただ、その恋愛感情は暴走気味となり、ラブレターなどを渡すようになり、相手の感情を無視して自分の気持ちだけを伝える行動にでてしまいます。
業務指導担当者がその方の指導業務に従事したくないというところまで発展、業務指導担当者を交代することとなりました。
この交代が気に障ったのか、些細なことでも会社批判をしはじめ、不満の声を表面化、周りとのトラブルも増えていきました。
結果、約3か月で退職していきました。
恋愛感情自体、いたしかたないこともありますが、その後の会社批判や周りとのトラブルなどの言動は問題です。
総合的に鑑みるとこの発達障害の方の場合、就業不可のレベルだった可能性もあります。
職場で暴言を吐いた事例(発達障害者事例)
「発達障害、50代女性のケース」
発達障害50代の女性が入社しました。
高学歴で海外留学も経験した方で、業務レベルも非常に高い方でした。
当初3ヵ月間は問題なく就業していましたが、3か月を経過した頃から徐々に不満を口にするようになってきました。
きっかけは同じ職場の同僚に対する言動に対する不満でした。
その後、上司へ業務量が少ないという不満が出たので業務量を増やすと、今度は業務が多いという不満に変わっていきます。
職場環境の批判から対人関係を含めて不満は増加、上司との面談日には約2時間、不満を訴える状況になりました。
ついには言葉だけではなく、ゴミ箱を蹴ったり、机をたたいたりする行動にまで発展、周りとの関係性が悪化し、退職していきました。
この発達障害の方の場合、支援機関も以前支援していたようですが、その支援機関ともトラブルがあり、疎遠となっていたとのことでした。
また、その方のお住まいのハローワーク担当者にも転職先の不満を次々と口にし、過去には就職先との訴訟問題にまで発展していたケースもあったそうです。
履歴書では短期間での転退職を繰り返していたため、同じようなトラブルが発生していた可能性はあります。
採用時になかなか見定めることは難しいですが、できる限りの情報収集は有効な施策の一つとなります。
障害者チーム担当管理者が退職した事例
企業によっては障害者チームを組成し、清掃チームであったり、総務事務業務を集約してチーム体制にする企業もあります。
しかし、多くの場合、障害者チームの管理者を配置し、その管理者に丸投げするような体制の会社もあります。
ある会社も同じような体制のチームを持っており、健常者の既存社員一名が障害者チーム管理者として配置されました。
その方は障害に対する知識やスキルは一切なく、また配置転換も自らの意思に反する形での異動でした。
最も問題だったのは会社組織全体が、障害者雇用に無関心であったことです。
トラブルが発生した際、組織としては無関心、担当者一人だけに押し付けるような状況でした。
結果、その健常者の担当者社員が退職するという形となりました。
障害者雇用は組織全体の問題です。
1つの部署、1人の管理者だけに押し付けるようなものではありません。
組織トップ、そして組織全体で障害者雇用を推進、サポートしていくことが重要です。
以上、障害者雇用におけるトラブル、失敗事例でした。
しかし、トラブルや失敗事例は障害者雇用のみならず、一般社員でも同じように発生しているはずですし、また、そのトラブルや失敗事例があるからこそ、次の成功に結び付いている企業は多く存在します。
次回は【障害者雇用実践編】第5回、最終回「障害者雇用推進による企業メリット」です。
筆者:嵐 正樹
■プロフィール:
障害者雇用サポート支援として、身体・知的・精神障害者全ての雇用サポート実務を経験。
障害者雇用コンサルタントとして、東証一部上場企業を含めた10社以上の障害者雇用体制立ち上げを経験。
業務切り出しから採用、定着までの一貫した雇用サポートに強み