実際、障害者雇用は多くの企業にとって義務として実施している現状かと思います。
そもそも企業としてどのようなメリットがあるのでしょうか。
今回は障害者雇用を推進する上で、どのようなメリットがあるのか、お伝えします。
自治体による入札等優遇措置例
自治体によっては障害者雇用に積極的な企業に対し、各種優遇措置を有する自治体もあります。
一方、大阪府「ハートフル条例」のように、入札条件に障害者雇用率達成という形で入っており、入札自体受付できない条例も存在します。
つまり、罰則を設けている自治体です。
このように障害者雇用を推進しない企業には、地域によって事業推進における足かせとなりかねません。
現在、各自治体では、条例や制度を新たに整備し、企業の障害者推進を図る動きが増えてきています。
以下、静岡県と三重県の事例を取り上げます。
静岡県事例「障がい者雇用企業登録制度」
【概要】
障がいのある方の雇用の促進を図ることを目的に、障がいのある方の雇用に積極的に取組む事業所に対して県の行う入札・随意契約等において優遇する制度を実施
【優遇制度について】
・庁舎等管理業務:競争入札参加資格者名簿の審査付与数値に各発注者において、追加点数5点を別枠で付与する
・情報システム開発等業務:総合評価一般競争入札において、障害者雇用に関する項目を追加し加点する
(出所:静岡県ホームページより抜粋)
静岡県の場合、ポイント制度を導入しています。
一定以上の障害者雇用を推進している企業は、競争入札案件においてポイント付加される制度です。
三重県「障がい者就労施設及び障がい者雇用促進企業等からの物品等の調達方針」
【概要】
障がい者就労施設等への優先的な調達を一層推進するため、障がい者が「やりがい」と「責任」をもって働くことのできる社会の実現をめざす。
県が取り組んできた障がい者雇用に積極的な企業に対する優遇制度についても、障がい者の就労を促進するために必要な措置として継続して取り組みを実施する。
【優遇制度について】
・物品等情報の公表・活用:障がい者就労施設等が公表する物品等に関する情報を積極的に活用するとともに県においても障がい者就労施設等が取り扱う物品等の一覧情報を整理し公表する。
・実績の公表及び方針の見直し:毎年度、調達実績を公表するとともに、調達実績や受注体制の状況などを勘定して本方針の見直しを実施する。
(出所:三重県ホームページより抜粋)
三重県の場合、障がい者就労施設を中心とした内容ですが、一般企業でも障害者雇用を推進している企業からの物品購入を積極的に進めています。
また、この物品調達は毎年見直しも実施され、三重県に物品を販売している企業は継続的に積極的な障害者雇用を推進することが求められます。
障害者雇用を推進する上で享受できるメリットについて
ご存知のように、障害者雇用をしない企業は納付金(不足1人5万円/月)の他、最悪の場合、厚生労働省より社名公表がなされてしまいます。
一方、障害者雇用を推進することで、企業として多くのメリットも享受できます。
【障害者雇用推進7つのメリット】
イメージアップ:一般ユーザー、クライアント、株主等
障害者雇用を積極的に推進する企業は一般的にイメージアップにつながっています。
特にBtoC事業の場合、一般ユーザーからのブランドイメージは非常に重要です。
株式公開企業にとっても障害者雇用を積極的に推進することで好影響が期待できます。
ES(従業員満足)向上
障害者雇用を推進することで、障害者の目線から組織改革の必要性が出てくる場合があります。
働きやすい職場環境の改善、通勤手段、就業時間等の就業規則など弾力的に再構築することが求められます。
この再構築が既存の一般社員が働きやすい環境に結び付き、結果ES向上に結び付くことが期待されます。
業務効率化推進
障害者向け業務を切り出すことで、専門人材がより専門的業務に注力することが可能となります。
一方、障害者向け業務は再雇用の高齢者や女性活用の業務としても併用可能です。
特にBPO(Business Process Outsourcing)を検討している企業においても有効かもしれません。
優秀な人材のリクルートにつながる
企業ブランドや働きやすさなどの口コミはイメージアップにつながります。
優秀な人材のリクルートにつながりやすくなります。
資金調達の円滑化(金融機関からの評価等)
株式公開企業にとっては株価などにも影響し、銀行や証券会社等にも影響を及ぼします。
また、地域に根差した金融機関の場合、地域貢献企業への支援は積極的になります。
自治体や行政などの入札条件クリア、または入札優遇
前項の通り、自治体への入札の際、障害者法定雇用率を条件とするケースや入札優遇措置としている自治体もあります。
また行政は社会福祉とも密接なため、障害者雇用積極企業は行政全体からの評価は高い傾向はあります。
仕入先や協力企業との安定取引
特に大手企業や大手系列企業との新規取引の場合、取引先の社会的イメージを重視します。
仮に厚生労働省から社名公表などに至った場合、各取引先にも懸念が広がります。
協力企業や仕入れ先を安定的に確保する上でも障害者雇用推進は有効です。
障害者雇用からスタートする未来創造とは?
昨今、大手企業を中心にダイバーシティ(多様性)の考え方が広がってきています。
なぜ、今ダイバーシティが必要なのでしょうか。
それは戦後からの日本人の消費性向からも理解できます。
日本は戦後、高度成長期を迎え、総中流社会を実現させました。
モノ不足もあって、多くの消費者は皆と同じモノやサービスを求め、一つの商品やサービスが大ヒットします。
「だっこちゃん」ブームや「ファミコン」ブーム、TVでは「ドリフターズ」や「ピンクレディ」など、大晦日には家族そろって「紅白歌合戦」を見る。
皆同じような価値観で同じような消費性向が見られました。
しかし、豊かになった日本はモノに溢れ、インターネットの発達から情報が溢れます。
特にインターネットからは個人個人が世界中の新しい価値観を享受できるようになります。
結果、一つの商品が爆発的大ヒットを続けられるということが非常に少なくなってきたと言われます。
つまり、売れるモノやサービスも「多様化」「短期化」してきたと言えます。
生き残る企業は、この一般個人、一般社会のニーズ、ウォンツの変化にしっかりと対応できる企業でした。
「多様化」した消費者ニーズに答えられる企業はその「多様化」した価値観を理解できる人材が必要です。
女性向け商品であれば、女性目線での製品開発が必要です。
海外からの旅行者が増加したならば、外国人目線でのサービス開発が必要となります。
高齢者など体の不自由な人が増えたならば、体の不自由な人の目線が必要となります。
メンタル不調者が職場で増えたならば、メンタル不調者やその経験者の目線が多いに役立つはずです。
女性や外国人、高齢者や障害者の目線による商品・サービス開発は「多様化」した消費活動において非常に重要な意味を持つと言えるのではないでしょうか。
また、ご承知のように、障害者雇用は企業組織、各種制度そのものを柔軟にする効用があります。
「社会全体のニーズが多様化する」中において、一つの価値観で企業運営することはあまりにもリスクは高いと言えます。
ただ、現状では障害者雇用は法定雇用率を達成することが目的になっている企業が多いのも事実です。
同じように女性や高齢者、外国人採用も人材不足の単なる埋め合わせとして考えている企業も多く見られます。
しかし、その価値観が既に古いのかもしれません。
今、障害者、女性、外国人、高齢者が、組織の柔軟性のみならず、事業そのものの新しい未来を創造できる人材の一人として考えることができるのではないでしょうか。
筆者:嵐 正樹
■プロフィール:
障害者雇用サポート支援として、身体・知的・精神障害者全ての雇用サポート実務を経験。
障害者雇用コンサルタントとして、東証一部上場企業を含めた10社以上の障害者雇用体制立ち上げを経験。
業務切り出しから採用、定着までの一貫した雇用サポートに強み