前々回の記事において説明した障害者雇用の進め方のうち、今回は「障害者雇用の採用」について解説していきます。長くなりますので、2回にわけて説明します。
「障害者雇用の進め方=①企画×②採用×③定着サポート」
一般の採用と同様、障害者の採用においても様々な採用方法があります。
障害者の採用に関わる支援機関には、主に以下のようなものがあります。公的サービスもありますが、昨今は様々な民間サービスも出てきています。
障害者雇用に関わる主な支援機関
ハローワーク | ・障害者の求人情報を管理、マッチングしている。各種助成金を活用する際はハローワークを通すことは必須です。通常のハローワーク以外に、障害者専門ハローワークの窓口もあります。 |
障害者職業
センター |
・全国の都道府県に1ヶ所設置される公的職業リハビリテーション機関です。職業評価や短期訓練も実施するため紹介できる障害者情報を持っています。
・就職の際に企業と障害者の調整や業務・環境へのサポートをしてくれる「職場適応援助者(ジョブコーチ)」の派遣などの機能を持っています。 |
障害者就業・生活支援センター | ・障害者の就業面と生活面の支援を一体的に行う機関であり、都道府県に1ヶ所以上存在します。
・就労移行支援事業所の紹介など、地域のハブ的な存在です。 |
就労移行支援事業所 | ・障害のある人の就労支援を行う機関であり、就職に向けたトレーニング、就職先とのマッチング、就職後の定着サポートを行う機関で全国に3,000カ所以上存在します。 |
特別支援学校 | ・障害者が、小~高校に準じた教育を受けることを目的とした学校で、全国に1,000カ所以上存在します。 |
民間サービス | ・そのほかに、民間の人材紹介会社や障害者採用メディア、採用代行などがあります。それぞれに強みがあり、最近はその種類も増えてきています。 |
その他 | ・大阪府、京都府などの地域行政が独自の就労支援機関を保有し、企業の障害者雇用支援を行っている場合があります(例:Osakaしごとフィールド、京都ジョブパーク)。
・昨今、高等教育機関における障害学生の人数が急増しており、今後、採用の大きな選択肢になる可能性があります。 |
採用ニーズ毎の採用の進め方
いくつか採用ニーズの例を元に、どのように採用を進めていくか考えてみます。
例1:身体障害者の雇用を想定している場合
中途、又は新卒の身体障害者を採用する場合は、ハローワークや行政が主催する合同説明会を活用するか、障害者採用メディア(ウェブ・サーナやクローバーナビなど)、人材紹介会社(パーソルチャレンジや、ゼネラルパートナーズなど)といった民間サービスを使うのが一般的です。
民間サービスの場合は、紹介手数料や、広告掲載料を支払って採用することになります。
身体障害者は、障害者雇用率の高まりを背景にして企業からの採用ニーズが高まっており、大手企業であってもなかなか採用が難しくなってきています。
専門領域を絞ってのアプローチ、より良い雇用条件の提示、各人個別の障害への配慮など、各社が工夫していますが、それでも採用につながりにくいのが現状です。
例2:どのように進めたら良いか分からないので、まずは相談に乗って欲しい場合
一律に障害者雇用といっても、地域によって障害者雇用の事情は異なります。地域の障害者職業センターや、障害者就業・生活支援センターといった、地域の事情に詳しい事業者と対話をすることでそれぞれの地域の全体像を理解しやすくなります。
企業ニーズに基づいて、採用方法をアドバイス頂けたり、具体的に障害者の訓練を行っている就労移行支援事業所や支援学校を紹介頂けたり、障害者をコーディネート頂けたりすることもあります。
例3:障害者本人の事を理解している支援機関の支援付きで採用したい
全国に1,000カ所以上ある特別支援学校では、多くの障害のある生徒が学校生活を送っています。
また、全国に3,000カ所以上ある就労移行支援事業所では、障害のある方が就職に向けたトレーニングを行っています。
障害者本人と日々向き合っている教員や支援者がいますので、本人の事をよく理解しており、就職にあたってもどんなことが得意でどんな配慮が必要なのかを丁寧に説明頂けるため、採用後の業務イメージや必要な関わり方について事前に想定しやすいことがメリットです。
例4:大人数の障害者を雇用したい場合
企業によっては、障害者雇用率を大幅に下回っており、行政指導のもと、多くの障害者雇用を一度に進めるケースもあるでしょう。大人数の障害者雇用を一度に進める場合は、第三者に相談をしながら進めるのが安心です。
ハローワークや就業・生活支援センター、障害者職業センターに相談に行くのが良いでしょう。ただし、行政系のサービスの場合は、都道府県単位で管轄が分かれていたり、役割が限定していたりしますので、都道府県をまたぐ場合のサポートや企業のニーズに応じた事細かな支援が受けられないケースもあります。
そのような場合は、障害者雇用コンサルテーションを行っている民間企業など、全体を統括したり、アドバイスを頂けるサービスを活用したりするのも一つでしょう。
また、会社の物理的環境や人事労務制度を障害者雇用向けに変更するのが難しいこともあるでしょう。
そのような場合に特例子会社の立ち上げも選択の一つとして考えておくとよいと思います。
(参考)特例子会社とは?
特例子会社とは、障害者雇用の促進を図るための会社のことです。親会社が障害者を雇用するために子会社として設立することが一般的であり、障害特性に対する配慮環境や制度が整っているところが多いです。
特例子会社で障害者を雇用した場合、親会社の法定雇用率として換算できますので、物理的な環境や制度上の理由から親会社内で障害者雇用が難しい場合にメリットがあります。
親会社以外に、グループ会社にも適用範囲を広げ、グループとして障害者雇用の達成を目指す場合もあります。
<特例子会社認定の主な条件>
・親会社との人的関係が緊密であること(具体的には、親会社からの役員派遣等)
・雇用される障害者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること。
・また、雇用される障害者に占める重度身体障害者、知的障害者及び精神障害者の割合が30%以上であること。
・障害者の雇用管理を適正に行うに足りる能力を有していること。
(具体的には、障害者のための施設の改善、専任の指導員の配置等)
・その他、障害者の雇用の促進及び安定が確実に達成されると認められること。
定着サポート
障害者雇用の場合、採用と同時に、その後どのように継続して長く働いてもらえるかも重要になります。
上記で述べた支援機関の多くは、採用して関係が終わりということではなく、採用後も継続して、職場での定着サポートに関わって頂くことがあります。定着サポートの取組として、例えば以下のようなものがあります。
・職場環境や指示・指導の方法など、障害者本人と周囲との関係性を調整
・障害者との定期面談による悩み相談・目標設定・課題解決や企業との調整
・企業からの悩みや質問に対する助言
企業が自分一人で悩むのではなく、以上のような多くの支援機関を知り、彼らの助言や協力を受けながら進めていくことで、より良い障害者雇用の実現に近づくことになります。
著者:窪 貴志
2010年以降、中小企業から大手上場企業まで、企業への障害者雇用コンサルティングを行っている。特例子会社の立ち上げも含め、障害者の採用支援や職場環境構築に積極的に取り組む。 民間企業、地方公共団体等において、障害者雇用促進のための研修やセミナー実績多数。