男性も子どもが生まれたときには育児休業を取ることができるのですが、これまでは取りたくても取りたいとは言えない男性が多く、取得率は低いものでした。
しかし、育児・介護休業法の改正により、今後は男性も取得しやすくなると考えられます。企業は育児休業の対象となる従業員に対して、制度の周知義務が発生するからです。
今回は、男性社員が育児休業を取得することで、企業にはどのようなメリット・デメリットがあるのか確認していきましょう。
男性社員が育児休業を取るメリット
男性社員が育児休業を取得することで、企業にもさまざまなメリットがあります。まずは男性が育児休業を取ることで、企業はどのようなメリットが得られるか確認していきましょう。
従業員のモチベーションアップ
子育てを妻任せにせず、しっかりと関わりたいと考えている男性も少なくありません。育児休業を取得して育児の時間を確保することで、ワークライフバランスを両立できます。
男性だからといって育児への参加を諦めず、産後の妻をしっかりサポートできることで、仕事へのモチベーションもアップすると考えられます。
会社に対する満足度アップ
男性が育児休業を取りたいと言い出せない雰囲気であれば、男性社員の中には不満が募る人もいるでしょう。男性でも育児休業を取得しやすければ、会社に対する満足度がアップします。
社員の幸福度を重視することは、離職率の低下にもつながるといわれています。
企業イメージが良くなる
男性の育休取得に積極的な企業として知られたら、企業イメージアップにつながります。
将来子どもが生まれたとき、育休を取得したいと考える独身男性は決して少なくありません。就活生に対して、良いイメージを与えることは間違いないでしょう。
また、男性社員の育休取得を推進すれば、ワークライフバランスを両立させやすい企業として、既婚の中途採用者へのイメージもアップするため、優秀な人材確保につながる可能性があります。
業務の効率化を図れる
長期間休業するために業務の棚卸をおこない、他の従業員に引き継ぐ必要があります。その過程でムダな業務が見え、業務の効率化が図れます。
また、情報を共有することで業務の属人化を解消できるでしょう。
仕事に復帰してからは、できるだけ早く帰宅できるように、仕事を早く終わらせようと効率よく仕事するようになるため、タイムマネジメント力を高めることにつながります。
男性社員が育児休業を取得するデメリット
男性社員が育児休業を取得することによって企業にはデメリットもあります。どのようなデメリットがあるか知って、解決する方法を探りましょう。
労働力が減少する
男性社員が育児休業を取得すると、その部署は労働力が減少するため、他の従業員の負担が増えることになります。もともと人手不足の企業であれば、育休中の人の業務まで受け持つのは負担が大きすぎるかもしれません。
しかし、男性社員が育児休業を申請した際に、「他の社員に迷惑がかかる」として断れば、パタハラ(パタニティハラスメント)になります。
今後、育休を取得する男性社員が増えると考えられるため、スムーズに対応できる仕組みを考えておく必要があります。
また、育休の申し出期限は原則として1ヵ月前ですが、育児・介護休業法が改正されると期限が2週間前までに短縮されます。しかし、短期間では十分な引き継ぎができない可能性が高いです。
社員は育休を取得する権利があるとしても、周りの負担をできるだけ減らすため、育休取得を希望する場合はできるだけ早く上司に相談するように周知しておきましょう。
取得しなかった社員に不公平感が生じる
令和元年度の男性の育児休業取得率は7.48%です。男性の育児休業取得率はまだまだ低く、浸透していない企業も多いでしょう。
男性社員が取得する雰囲気ではない企業であれば、「自分は育休を取らなかったのに彼だけ取って不公平だ」と不公平感が生じる可能性があります。
育休を取りたくても言い出せなかった男性社員に、育休中の社員の業務が上乗せされたら、会社への不満が大きくなる可能性もあります。
風土醸成への負担
これまでに男性が育休を取得することがなかった企業では、育休を申し出る雰囲気ではないため、諦めてしまう男性社員も少なくないでしょう。
「育休は女性が取るもの」という考え方が根付いていれば、社内での告知や研修など、男性が育休を取得しやすいように職場の風土を変える取り組みが必要です。
2022年4月には、企業から従業員へ育休取得を働きかけることが義務化されます。男女に関係なく、育休制度について説明し、取得の意思を確認する必要があるのです。
職場全体で男性の育休の重要性を認識し、業務の見直しなどをおこなっていくことが求められます。
育休を推進する企業には助成金が支給される
男性の育休を推進している企業には、助成金が支給されます。助成金は中小企業と中小企業以外で金額に差があります。中小企業の範囲は以下の通りです。
- 小売業(飲食業含む)…資本額または出資額が5千万円以下、または常時雇用する労働者の数が50人以下
- サービス業…資本額または出資額が5千万円以下、または常時雇用する労働者の数が100人以下
- 卸売業…資本額または出資額が1億円以下、または常時雇用する労働者の数が100人以下
- その他…資本額または出資額が3億円以下、または常時雇用する労働者の数が300人以下
また、企業の生産性向上の取り組み支援のため、事業主が次の条件を満たしている場合は助成金の割増がおこなわれます。
- 助成金の支給申請をおこなう直近の会計年度の生産性が、3年前に比べて6%以上伸びている
- 助成金の支給申請をおこなう直近の会計年度の生産性が、3年前に比べて1%以上6%未満だが、金融機関から事業性評価を得ている
それでは助成金の内容や金額を確認していきましょう。
出生時両立支援コース
男性が育休を取得しやすい職場づくりに取り組み、実際に男性労働者が育休や育児目的の休暇を取得した事業主には助成金が支給されます。
子の出生後8週間以内に、中小企業の場合は連続した5日以上、大企業の場合は連続した14日以上の育児休業を取得した男性労働者が生じた事業主へは、次の金額の助成金が支給されます。
生産性向上の要件を満たした事業主には( )内の金額が支給されます。また、個別面談をおこなうなど、育児休業の取り組みを後押ししている場合、個別支援加算が適用されます。
【中小企業】
- 1人目の育休取得…57万円(72万円)。個別支援加算は10万円(12万円)
- 2人目以降の育休取得…育休5日以上で25万円(18万円)、14日以上で23.75万円(30万円)、1ヵ月以上で33.25万円(42万円)。個別支援加算は5万円(6万円)。
【中小企業以外】
- 1人目の育休取得…5万円(36万円)。個別支援加算は5万円(6万円)
- 2人目以降の育休取得…育休14日以上で25万円(18万円)、1ヵ月日以上で23.75万円(30万円)、2ヵ月以上で33.25万円(42万円)。個別支援加算は2.5万円(3万円)。
また、国が法律で定めた育児休業とは別に、独自で「育児休暇」を導入している企業もあります。育児休暇制度を導入し、男性労働者が出産の支援や育児のために利用した場合にも助成金が支給されます。
- 中小企業…5万円(36万円)
- 中小企業以外…25万円(18万円)
【参考】厚生労働省「2021年度の両立支援等助成金の概要」https://www.mhlw.go.jp/content/000754580.pdf
まとめ
男性が育休を取得すれば労働力の減少が心配でしょうが、日頃から情報を共有し、誰かが休んでも仕事が回るような仕組みを構築しておくことが必要です。
誰もが気兼ねなく育休を取得できるようになれば、会社に対する満足度が上がり、生産性もアップする可能性があります。
男性の育休というとデメリットに目が向きがちですが、ご紹介したように企業にとってもたくさんのメリットがあります。
助成金を活用しながら、男性が育休を取得しやすい職場づくりを推進しましょう。
著者:早瀬 加奈子
会社員時代は、楽器小売業の会社で10年以上経理に携わっていました。
現在は専業のWEBライターとして活動しています。
香りを楽しむことが好きなので、夜はアロマテラピーでリラックスするのが私にとってのストレス解消法です。
趣味は街歩き、美容、料理、映画鑑賞など。