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「人材版伊藤レポート2.0」とは

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「人材版伊藤レポート2.0」作成された背景

「人材版伊藤レポート2.0」とは

人材版伊藤レポート2.0」とは、2021年7月に経済産業省が発表した人的資本経営の実践マニュアルです。

人的資本経営とは、2020年経済産業省が発表した概念で、「人材の価値を最大限引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる」経営です。

その概念の詳細が20年9月に「人材版伊藤レポート」として発表され、実際に人的資本経営を導入する際のマニュアルとして「人材版伊藤レポート2.0」が作成されました。

*伊藤とは、「人的資本経営の実現に向けた検討会」座長で、一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏です。

「人材版伊藤レポート2.0」作成された背景

出典:「人材版伊藤レポート2.0」経済産業省4年5月https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

以上のような経営環境の変化で、経営戦略と人材戦略の連動が難しくなり、人的資本経営の重要性が増していることが、実践マニュアルである「人材版伊藤レポート2.0」が作成された背景として紹介されています。

また、21年6月に改訂された「コーポレートガバナンス・コード」(金融庁及び東京証券取引所)に「人材版伊藤レポート」が反映され、サステナビリティ項目に「人的資本への投資と開示」が追加されました。

こうした人的資本情報の開示に向けた機運を形式的なものに終わらせないため、より実践的なマニュアルとして作成された、ともレポート2.0は述べています。

さらに、実践実例集と共に発表された経緯から、人的資本経営のデータの蓄積が進んで、マニュアルを作成できるようになったことも一因でしょう。

しかし、実際の主たる原因はその逆で、経済産業省が思っていたほど導入が進んでいないことに背景があるように思います。

同時期に公表された人的資本経営導入アンケートである「人的資本経営に関する調査 集計結果」で、経営資源の豊富な上場企業でさえ、重要性は認識されているが、「対応策が未検討」の企業が最も多い結果となっています。

そこで、導入の際の手順やアイデアの助けとなるよう作成されたのが「人材版伊藤レポート2.0」と考えられるのです。

「人材版伊藤レポート」と「人材版伊藤レポート2.0」の相違

「人材版伊藤レポート」では、
・経営環境変化への人材戦略変革の方向性
・変革をリードする経営陣・取締役会・投資家の役割・アクション
・経営陣が主導して策定・実行する、経営戦略と連動した人材戦略について

の3つを提示しています(下記図表1~3参照)。

「2.0」では、
「経営陣が主導して策定・実行する、経営戦略と連動した人材戦略について」で示した「3つの視点・5つの共通要素」を具体化する際の施策について、「取組の概要・取組の重要性・本取組を進める上で有効な工夫」に分けてアイデアを提供しています。

「人材版伊藤レポート2.0」の体系

「人材版伊藤レポート2.0」は「経営陣が主導して策定・実行する、経営戦略と連動した人材戦略について」の「3つの視点・5つの共通要素」の実践アイデア集です。

まず、3つの視点に提供されているアイデアは以下のようになっています。

CHROの設置や社外取締役登用など、中堅中小企業に導入する余地の少ないアイデアもあります。

しかし重要なのは、急速な経営環境変化に対応する経営戦略を実現する人材を育て・獲得することです。

育て・獲得すべき人材を出来るだけ具体的に把握し、育成・獲得できる労働環境を、人材戦略の実行を通じて企業文化として醸成していくことです。

施策アイデアは「取組の概要・取組の重要性・本取組を進める上で有効な工夫」に分類され、アイデアごとに以下のように詳細にまとめられています。

次に、5つの共通要素に提供されているアイデアは以下のようになっています。

博士等専門人材の積極的採用や社内起業・出向起業など、中堅中小企業が導入するのに難しいアイデアもあります。

しかし重要なのは、環境変化に対応した経営戦略実現に必要な人材の質と量を充実・維持することです。

求められるのは生産的でイノベーティブな労働です。動的人材ポートフォリオやダイバーシティは経営資源の少なく、人材獲得が大きな課題となっている中堅中小企業には非現実ともいえます。

むしろ既存のステークホルダーとの関係を強化していくことが望まれます。

既存の従業員に十分に能力を発揮してもらうには、働き甲斐を感じ、主体的に業務に取り組める労働環境が必要です。

そのためには5つの共通要素のうち、従業員エンゲージメントを重視した施策を展開することが有効です。

実践事例集の体系

実践事例集の概要

「人材版伊藤レポート2.0」と同時に発表された実践事例集は、日本の著名企業19社が取り組む人的資本経営の概要と取組のポイントをまとめたものです。

最初に「エグゼクティブサマリー」として各社の人的資本経営の概要が3行程度にまとめられ、本編では各社から提供された資料をもとに取組のポイントを4ページ程度で紹介しています。

実践実例集のエッセンス

ここでは、実践事例集の取組のポイントから代表的な仕組みを作っている企業を紹介します。

(1)人的資本経営全体像~伊藤忠商事の場合
伊藤忠商事は、近時、様々な調査で「学生が就職したい企業ランキング」1位に選出されています。

その原因は、総合商社として多様な機会が提供され、入社後成長していくサイクルが外部の学生にもわかるよう積極的に公表している点です。

下記図は実践事例集に掲載されている人材戦略ですが、伊藤忠商事の「統合レポート2022」ではより詳細な仕組みが公開されています。

(2)ダイバーシティ&インクルージョン~サイバーエージェントの場合
統合報告書「CyberAgent Way 2022」で、「目指しているのは、自分の才能に驚く会社」と述べているように、サイバーエージェントはダイバーシティと称して、若手でも経営幹部と接触する機会が多数設けられ、入社後すぐに社長に抜擢される等インクルージョンに優れています。

(3)動的な人材ポートフォリオ~双日の場合
双日は総合商社として様々な事業を展開し、多種多様な人材が行き来しています。

それだけ人材ポートフォリオも広く、支援した独立・起業後の元社員や定年後の元社員とのネットワークを構築し人材の流れをつくっています。

(4)企業文化~丸井グループの場合
丸井は、小売業から始まり、金融業を経て「小売×フィンテック×未来投資」企業としてビジネスモデルを変遷させてきました。

投資対象も有形投資から人材教育等の無形投資に傾斜し、今ではその規模は有形投資の約2倍に達しています。

その人材重視の企業文化の柱が「手上げ文化」です。

企業理念の改定をはじめ、公認プロジェクトや研修等への参加、グループ間職種移動も、全て社員の自主性に基づく手挙げ方式に変更しています。

おわりに

「人材版伊藤レポート2.0」及び実践事例集は具体的施策とアイデアが豊富な有益なレポートです。

しかし、同時に発表されたアンケート「人的資本経営に関する調査 集計結果」(令和4年5月)では、経営資源の豊富な上場企業でさえ、施策の進捗が思うように進んでおらず、最重要と位置付けている「経営戦略と人事戦略の連動」の遅れが目立っています。

経営資源が充分でない中堅中小企業ではなおさらでしょう。

第2回記事では、中堅中小企業でも実現できる「人材版伊藤レポート2.0」の活用方法を紹介しています。

著者:maru
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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