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BCP(事業継続計画)の業種別事例②(主に非製造業の事例)

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2011年3月に発生した東日本大震災においては、全国から次々と支援物資が送られてきたものの、道路の寸断や配送拠点の混乱に伴い、物資がなかなか届かないことが問題視されました。

しかし一方、流通業においては被災地内外で困難な状況にもかかわらず生活必需品の販売が行われました。

このことは、流通業に対する価値を再認識させられるものでした。

今回は、流通業にスポットを当てて、BCPの取り組みを見ていきます。

株式会社マイヤ (岩手県 小売業) の事例

事業内容

岩手県沿岸部を中心に、スーパーマーケットを15店舗経営している小売業です。

同社は1960年のチリ地震津波災害の翌年に、当時同地域で最大の被災地大船渡市に創業しました。

復興の先陣を切って沿岸初のスーパーマーケットを開店し、地域の消費者に大きな希望と勇気をもたらしました。

BCP取り組みのきっかけ

東日本大震災により発生した津波により、岩手県大船渡市の本部、大船渡市・陸前高田市・大槌町にある6店舗が全壊するという、企業活動としては、致命的な被害を受けました。

同社では震災前から「防災マニュアル」の整備や、「火災防災訓練」を年に数回行っていたため、災害発生時にも従業員・顧客ともに被害者は出ませんでした。

災害発生後、安全が確保される内陸部の店舗では、停電中にもかかわらず商品の販売を継続しましたが、高台にある大船渡インター店では電源喪失に加え、電話・FAXなどの通信手段が途絶えたため、発注が出来なくなり、電話がつながる場所に担当者が移動し、発注をせざるを得ませんでした。

さらに、大船渡市の本社社屋に設置していた同社のシステムサーバーが消失し、バックアップも無かったため、商品の棚割りや投入計画を立案している営業データが無くなり、同社にとって新店舗や営業再開後の事業計画を一から再構築しなくてはならなくなりました。

BCPの取り組み内容

同社では震災での経験を踏まえ、情報通信面では使用可能であったにも関わらず活用できていなかった衛星電話や、ポータブル発電機の使用訓練を開始しました。

また、営業データに関しては内陸部にバックアップサーバーを設け、データの二重化を図っています。

さらに、災害時の物資の供給体制に課題を感じていたため、取引先と情報共有や物資供給に関する協力体制や有事協定の契約を締結、地震保険への加入も行っています。

本事例の特徴、学ぶべき点

同社では被災前から、かなり高い意識で防災やBCPに取り組んでいたことが、最大の特徴です。さらに、実際の被災で学んだ体験をすぐにフィードバックし、対策を強固にしている点が評価できます。

また、操業再開に際しては、従来積み上げてきた「営業データ」が重要な役割を果たしていることも、同業の小売業に示唆を与えてくれます。

【参考】内閣官房 「国土強靭化 民間の取り組み事例集」

【参考】株式会社マイヤ

株式会社鈴三材木店(静岡県 建材卸・小売業) の事例

事業内容

建設用木材の仕入・販売、構造材・合板類のプレカット加工、内装建材・住宅機器・サッシの仕入・販売、住宅リフォーム工事の下請けなどを行っている企業です。

BCP取り組みのきっかけ

同社社長鈴木諭氏がBCP策定を検討したのは、東日本大震災後に参加した全国工務店協会の災害対応に関する勉強会で、「災害時には物が入らないことが一番の問題になる」ことを知ったのがきっかけでした。

また、工務店はBCPを積極的に導入しようとする流れに対し、供給元である同社のような木材物流業界に危機意識が低いことを痛感したことも、強い取り組みの動機になりました。

BCPの取り組み内容

同社は地震による建物が毀損することを被災想定として、顧客である工務店等への建材の供給を継続事業としました。

また、基本方針として、災害時に雨漏りや屋根瓦の損壊など、一部損壊はしているが住める状態にある住宅の修繕に、同社のヒト・モノなどのリソースの大半を注ぎ込んで、災害時に不自由を被る人を少しでも少なくすることと定めています。

そのための対策として、まず資材の洗い出しを行いました。

BCPの策定前は、「壊れたものを同じように元に戻す」という復旧の固定観念に捉われていましたが、被災地では先ず「応急処置」が大事であると考え、代替えが利くものは代替えで対応するという発想に切り替え資材を準備しました。

これにより、災害発生直後から爆発的に発生する修繕需要に柔軟に対応することが出来ます。

さらに、展示場を社員の避難所として食料や水を備蓄しておいたり、災害時の連絡手段として公衆電話など連絡が取れる手段を各社員が調べ、マップとして準備したりしました。

また、同社は地域の工務店約100社に同社が策定したBCPに賛同してもらい、災害時には同社と同様に木造応急仮設住宅の建設に協力してもらう体制を整えています。

本事例の特徴、学ぶべき点

同社は災害後の自社の役割をしっかりと想定していることに大きな特徴があります。

災害復旧に直接当たる工務店の復旧作業にどう貢献できるか、材料供給企業としての役割を見据えた施策を行っています。

また、製造業の場合は通常、災害に備えて代替生産の手段を準備しますが、建設関連事業の場合、それが出来ないばかりか、爆発的な修理需要が発生します。

そのために、「応急修繕」を優先するという柔軟な考え方で対応していることも、同社から学ぶべき点であると言えます。

【参考】株式会社鈴三材木店

【参考】静岡県公式ホームページ 災害対応・BCP事例集

まとめ

内閣府が平成30年3月に発表した業種別事業継続計画(BCP)策定状況によると、小売業のBCPを策定した企業の比率は17.6%と、10業種中「宿泊業・飲食サービス業」に次いで策定率が低い状況です。

しかし、実際の災害発生時には、最も重要なライフラインとしての役割を果たしているのも小売業であり、災害後の復旧を支えるのも材料卸売業の重要な役割であると言えます。流通業にも積極的な取り組みが求められています。

【参考】内閣府防災担当 「平成29年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」

著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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