お問い合わせ

BCP(事業継続計画)の策定方法

Twitter
Facebook
Pinterest
Pocket

BCPを策定する上での重要点をとは何か、経営上や社会上どんな意義があるのかを前回の記事でご紹介してきましたが、今回はそれらのポイントを踏まえた上で、中小企業にとって必要不可欠な内容だけに絞った、具体的な計画の策定方法についてみていきます。

BCP策定方法

BCPの策定方法には、大きく分けて以下の2つの方法があります。

自社独自に作成する方法

自社でBCPを策定する方法としては、書籍など読んで作成する方法や、中小企業庁や各種団体が作成しているテンプレートを活用する方法、専門のコンサルタントに指導を受けながら作成していく方法などがあります。

また、それらを併用して作成する方法も考えられます。また、中小企業庁では策定のためのセミナーも開催されていますので、まずそのセミナーに参加してから作成していくのも良いでしょう。

国際規格を活用する方法

一方、最近は国際規格に則って作成する方法も注目されています。

国際規格というと、品質マネジメント(ISO9000シリーズ)や環境マネジメント(ISO14000シリーズ)が良く知られており、導入済みの企業も多いことでしょう。

それらと同様に、事業継続をひとつのマネジメントシステムと捉えたものが、2012年5月15日に正式発行された国際規格「ISO22301」です。特に海外との取引がある企業においては、信頼度を高める経営戦略という面からも有効です。

BCP作成手順

基本方針の策定

(1)BCPの目的確認

そもそも、BCPを作る目的を確認します。目的として挙げられることは、

①人命の安全を守る
②自社の経営を維持する
③顧客に対する取引を維持し、顧客の信用を得る
④従業員の雇用を守る
⑤地域の経済に貢献する

などが挙げられます。

その他にもその業種、企業によって追加する目的もあるでしょう。BCPの目的は経営理念に似ています。BCPを作成するにあたって、経営理念に立ち返るという効果も期待できるわけです。

(2)考えられる災害を調査

事業所が立地する地元の市町村で配布されているハザードマップや防災情報をもとに、潜在的に可能性のある災害の種類とその程度を把握しておきます。

(3)社内体制の決定

災害発生時の組織体制を決定しておきます。経営層をトップとする組織体制という意味では、平常時に似ていますが、業務内容は操業再開に必要な業務に限定されます。

指揮命令系統や連絡手段を事前に設定しておきますが、被災して担当できない社員もいることを想定して、指揮命令者は第二、第三の順位を決めておきます。

中核事業(対象範囲)を検討

基本方針が決まったら、次にBCPの適用する範囲を決めておく必要があります。つまり、災害が起こった際にどの事業や製品を優先して再開するかということです。

全ての業務を一気に再開したいところですが、それは現実的ではありません。

そのため、企業の存続に欠かせない業務は何かを分析して決定していきます。中核事業を決めるためには、一般的に次の基準を考えると良いでしょう。

【中核事業選別の基準】

・自社の売上、利益に貢献している製品・商品・サービスは何か。

・取引先や顧客に提供を約束している製品・商品・サービスのうち、提供出来なかった場合に自社にとって最も影響が強い製品・商品・サービスは何か。

・法律によって自社に課せられている事業は何か。

被害状況を想定

基本方針で調査した、その地域で考えられる災害が発生した場合、どんな被害がどの程度想定されるかを分析します。

以下の事例は、地震が発生したときの被害を想定しています。

(1)インフラへの影響

・ライフライン
電気、ガス、水道が停止している状況が考えられます。

・通信
基地局が被災した場合、固定電話が使えなくなったり、繋がりにくくなったりします。さらにインターネットなどの通信網が一時的に使えなくなったりします。

・交通網
道路は、ひびや割れが生じて通行不能となり、交通規制が行われ、大渋滞が予測されます。また、鉄道は一旦完全に運行が止まり、線路の点検整備や余震の状況によって運転再開していきます。

(2)自社への影響

・人
家具や設備、耐震性の弱い家屋の倒壊により、負傷者や死亡者が発生します。また、道路や鉄道網の寸断により、出社出来ない社員が発生します。

・物
店舗や工場などの建物が倒壊し、充分に固定していない什器や機械も倒壊することが考えられます。

また、備品や商品が落下し、破損します。部品や商品の仕入先も被災していることが考えられるため、供給が絶たれることが予測されます。

・金
部品や商品の仕入れが出来なくなり、従業員の出社が出来なくなるため、売上が急低下し、資金不足に陥ります。また、建物や設備の修理に対する資金が必要になります。

・情報
パソコンが破損したりインターネットなどの通信網が使えなくなったりするために、仕入管理、顧客情報、製品情報(設計図など)の運用が出来なくなり、多くの業務がストップします。

対策立案

企業の存続に必要な中核事業を定めた後、想定される被災状況を踏まえて、具体的に対策を決めていきます。

(1)リスク分析・ボトルネックの把握

災害が起きた場合、事業を行っていく上で具体的にどんなリスクが発生するかを分析し、その後、事業を継続する上で最重要点(ボトルネック)を抽出していきます。

ボトルネックとは、操業再開時に必要であるが、被災時には使用や調達、運用が困難になると予測される経営資源のことです。

例えば、災害が起きた際、わが社にとってのボトルネックは、「部品調達先の確保」なのか、「製造設備」なのか「必要な技術者」なのか等をあぶり出しておくということです。

(2)経営資源を通じた対策立案

リスクを分析し、ボトルネックを特定した後、具体的に対策を決定していきます。基本的には経営資源毎に対策を決めていきます。

・人的対策
安否確認・連絡網の設定。不足する人員の代替対策など。

・物的対策
建物の耐震診断、設備の固定化、生産・仕入の代替方法の決定など。

・資金的対策
当面の運転資金需要量の把握、資金の手当て、損害保険の加入など。

・情報的対策
パソコンの破損や通信回線が使えないことを想定した上で、代替機器の準備やデータのバックアップなど。

(3)目標復旧時間の設定

被災時に復旧可能なライフラインの応急復旧目標(地域の防災計画を参照)と、自社の経営資源の復旧目標とを考慮したうえで、操業再開可能な時間目標を設定します。

文書化

策定した計画は、全社員がいつでも見ることが出来るようにマニュアル化し、各部署で保管します。その際、パソコンのデータで作成するとともにペーパーでも印刷しておくことが重要です。

【参考】中小企業庁 中小企業BCP策定運用指針

まとめ

BCPを具体的に作成する手順をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?

BCPはその必要性を理解した後、具体的に書面化していく事で、事業継続への備えにするとともに、自社の経営資源の点検にもなります。

また、初めてBCPを検討・作成する場合中小企業庁や商工会議所で配布されている無料のテンプレートを活用する方法も有効です。具体的な一歩を踏み出すことで自社の事業継続力向上を目指しましょう。

著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。

メルマガ登録

付加価値の高い商品・サービスの開発も含めた生産性向上のアイデアは、「人」が生み出していきます。
このように「人」の重要性がますます高まっていく時代において、弊社は世界NO.1の高生産性・高能力の一流中堅企業を育てるために、クライアントの経営・人事諸制度の改革、人材育成をバックアップしていきたいと思っております。

メルマガでは、抽象的な思考概念から実際に活用できる具体的なノウハウを提供しています。
現状を打破したい、改善のためのヒントになればと思っています。

錬成講座のお知らせ

「錬成講座」は、新卒社員が将来の経営幹部になるという、長期雇用慣行に基づいた日本的経営を前提に、先の見えない経営環境の中で企業の存続・発展を担う力のある次世代幹部人材を異業種交流の合同合宿により育成するプログラムです。
「錬成講座」は「新人」「若手リーダー」「管理職」「経営幹部」と階層別に別れております。

様々な業種の一部上場企業および同等クラスの優良中堅企業のリーダーとともに、講義時間も含め議論や対話を重ねるなかで、自分の業界や自分自身が知らず知らずのうちに囚われている固定観念に気づき、視野を広げることができます。

メルマガでは、抽象的な思考概念から実際に活用できる具体的なノウハウを提供しています。
現状を打破したい、改善のためのヒントになればと思っています。

RECOMMEND

こちらの記事も人気です

記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

このメディアの読者になる

ブログの読者になると新着記事の通知をメールで受け取ることができます。

サイト内検索

弊社最新コンテンツ

弊社人気コンテンツ