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変わる日本、変わる世界への中堅中小企業の対応方法

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中堅中小企業の対応方法総論

変わる日本への対応方法

(1)90年代アメリカの生産性に追いついたドイツと追いつけなかった日本

95年に始まるICT革命時、GAFAをはじめとするIT企業の躍進でアメリカはニューエコノミクスと呼ばれる高成長と低インフレが両立する経済の復活を遂げます。

教育訓練と設備投資をシステマチック化したドイツはアメリカの生産性に追いつき、日本は追いつけませんでした。

80年代に自動車・電気・半導体分野でアメリカを追い抜いた日本企業は、プロセスイノベーションが起きて水平分業(ファブレス経営)が主流になったにもかかわらず、既存設備と雇用確保のため従来の垂直統合にこだわるイノベーションのジレンマに陥りました。

バブルの負の遺産で教育訓練費が91年にピークアウト、設備投資も企業収益が増えても減らされました。

95年生産年齢人口もピークアウトしたため、経済成長3要素全て低下したためアメリカの生産性に追いつけなかったのです。

(2)競争環境が似ているドイツとの近時の格差
・ドイツは、地方の中小企業が経済を支えGNT(グローバル・ニッチ・トップ)世界一
・日本はDXが進まず企業競争力が急低下

IMD世界競争ランキング評価項目で日独は、科学インフラや健康・環境分野は一桁順位と高い一方、政府効率性分野では、日本は財政、ドイツは租税が最下位グループ、ビジネス効率性では金融分野に強みがあるなど共通点が多いです。

日本政府はレガシー企業を円安誘導で保護する一方、個々の企業の生産性向上は18年のDX推奨まで放置しています。その結果、企業競争力は低下しています (第1回記事参照)。

ドイツは生産年齢人口が98年にピークアウトするも、陸続きの近隣から外国人労働者を受け入れ、マイスター制度と呼ばれる職業訓練に多額の投資を続け、成果の出ている地方振興策とEU27か国との国際分業でイノベーションを生み出す構造を作り上げました。

その結果、経済成長3要素がいまだに全部プラスに寄与し日本と格差が生じています。

(3)DXによる生産性向上の必要性
・中堅中小企業こそDXによる組織イノベーションを
・多重世界に対応するにはDX

平成30年版情報通信白書によれば、ICT革命を営業利益につなげたのはプロダクトイノベーションやプロセスイノベーションではなく組織イノベーションでした。

appleはファブレス経営へ移行し、その他GAFAは組織の多様性と新陳代謝で大躍進しました。従って現在のAI×クラウド革命でも組織イノベーションから取り組むべきで、組織イノベーションこそDXの本質です。

事業そのものへの影響が大きい組織イノベーションは大企業より中堅中小企業こそ取り込み易い特徴があります。

デジタル社会が実用的になる多重世界では、企業そのものがデジタル企業になる必要があります。そして、DXこそデジタル企業への道です。

変わる世界への対応方法

(1)多重世界で想像以上に大きくなる中国
・アフリカへの直接投資(FDI)で資源と市場を同時獲得

今後拡大する多重世界で、資源を獲得ことは何よりも重要な戦略の一つです。
アフリカへの中国のFDIは市場と資源を同時獲得する非常に有効な手段となっています。

(2)多重世界でチャンスが増える中堅中小企業
インターネット登場後、イノベーションの起き方は変化しました。

デジタル世界の実装化の進行によりサイバー上で試験可能なことが増えたため、力・金・権力のある企業でなくても、小さく始め早く回すアジャイル&リーン方式でイノベーションは起こしやすくなったのです。

しかも最初に起こすべきは組織イノベーションですから中堅中小企業の方がチャンスは広がります。

(3)グローバルニッチ(GN)という成長市場、主役は中小企業
・機械・加工部門:2.34倍
・素材・化学部門:2.07倍
・電気・電子部門:1.16倍
・消費財・その他部門:3.40倍

製造産業局令和2年調べでは、GN市場は前年比2.21倍の成長市場とのことです。
製造部門別ではBtoC傾向が強い消費財が、一番成長性があり魅力的な部門です。
しかし、この分野で強いのがGNTダントツトップのドイツです。

出典:「ドイツ経済を支える強い中小企業『ミッテルシュタンド(Mittelstand)」
独立行政法人経済産業研究所
https://www.rieti.go.jp/users/iwamoto-koichi/serial/013.html

独立行政法人経済産業研究所レポート「第4次産業革命を生き抜くための日本企業の生産性向上(4)」では日本の中小企業の生産性が低い最大の要因は、「国際化していない」こととの指摘があります。

同じような競争環境のドイツに企業競争力で差をつけられている理由が「国際化」にあることにGNT企業数の大きな差からもうかがえます。

そして、GNT世界一のドイツの主役は中小企業です。
フォーチュン・グローバル500企業が日本は68社ですが、ドイツは34社しかありません。

日本の中小企業の国際化の遅れの理由に大企業の系列企業が多いことを同レポートは指摘しています。

中堅中小企業の対応方法各論

DXによる生産性向上の具体的手法

(1)直ちに取り組むべき事
・レガシーシステムの把握
・現状エンジニアの把握と定年の影響
DXの最初の壁になるのがこの2点です。経済産業省のDX推進指標回答フォーマットをチェックし提出すれば次に取るべきアクションがわかります。

(2)短期的対応
・トップが決意して「何をしたいか」の定義づけ
DXで一番重要なのがトップの決断です。DXの本質は単なるアナログデータやデバイスのデジタル化でも、市販のツールを導入し業務プロセスを効率化することでもありません。

常に変化する顧客・社会の課題をとらえ素早く変革「し続ける」能力を身に付けるマインドセット、組織イノベーションがDXの本質だからです。

「何をしたいのか」定義づけも戦略というものまで昇華させなくても、「需要予測できれば食品ロスが減らせて、効率的な業務で従業員の疲弊を減らせる」(第3回記事第一章事例参照)といったもので充分です。

詳細な計画はベンダー等第三者との打ち合わせで煮詰めていく方が近道です。

・従業員を動かす
属人化している要素が多い中堅中小企業では、従業員の関与、従業員への説明、従業員への期待内容を事前に明確にすること、つまり公正プロセスを踏まえDXを導入することが大企業以上に重要です。

(3)中長期的対応
・DX人材の確保
第3回記事第一章事例では、大衆食堂の店長がエンジニアに、土産物店の販売員がAIシステムの構築担当にDX人材を内部から確保・育成しています。

・「デジタルトランスフォーメーション」(マインドセット)
カリスマ経営者の経験と勘による属人的経営から、環境変化と様々な試みをデータに基づき素早く把握・判断するデジタル経営へのマインドセットがDXの本質です(第3回記事第一章事例参照)。

グローバルニッチトップ(GNT)になる具体的手法

(1)日本のGNT企業の共通項

共通項をみると、高い競争力を作る地盤を固めることで、自然な形で海外に進出しています。「模倣されない工夫」については第3回記事第二章の事例を読んで頂ければその真摯な取組が大変参考になります。

世界最高レベルのQCDを提供できる体制を構築してもなお、現場を大事にし、開発した技術を練磨し続け基幹技術を育てています。

(2)GNT世界一を支えるドイツの制度・環境(日本との比較)

2位以下を圧倒的に離すGNT大国ドイツの強さが、システマチック化した教育制度と設備投資をバックアップする融資慣習、成果を出し続ける地域振興策にあることがわかります。

おわりに

「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」

「DX推進ガイドライン」でも引用された、IT専門調査会社IDC JapanのDXの定義です。
『すべてが「加速」する世界』では組織イノベーションしなければ生き残っていけないのです。

第3回記事では組織イノベーションを実現した大衆食堂と2回連続グローバル・ニッチ・トップ企業100選に選ばれた企業を紹介していますので、是非お読みください。

著者:maru

2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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