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イノベーションは辺境の地から生まれる(中国経済成長の源泉:深セン)

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こんにちは!栗原誠一郎です。

「一線城市」深圳(シンセン)

2018年、中国の主要都市でGDPが最も大きいのは上海市(3.3兆元、前年比6.6%増)、次が北京市(3.0兆元、前年比6.6%増)で、3番目が深圳市(2.4兆元、前年比7.6%増)でした。

中国では、「一線城市」という表現で、最も重要で影響力の強い都市として、上海、北京、深圳、広州がランク付けされていますが、上述したようにGDPの大きさ、そして上海、北京を上回る成長率を見ても、正に深圳は「一線城市」と言えますね。(ちなみに広州の2018年のGDPは、2.3兆元、前年比6.2%増)

実は、先日、初めて深圳(シンセン)を視察してきたのですが、現地を案内して頂いた方(10年以上深圳在住)の話によれば、「米中貿易摩擦でマスコミ的には中国経済の停滞が懸念されているが、ここ(深圳)にいて停滞感は感じることはない。」とのこと。

深圳市統計局が発表している統計(p5)によれば、2011年から2015年の第12次5ヵ年計画期間における年平均GDP成長率は9.7%でしたから、数字的には成長は鈍化していることは事実です。

それでも絶対値としての成長率は依然高く、停滞感は感じないとの話はもっともな話でしょう。

 

工業都市としての成長力

深圳の産業構造を詳細に見ていくと、深圳で停滞感を感じない理由が更に見えてきます。

上述した深圳市統計局の資料によれば、2011年から2015年における第二次産業の年平均GDP成長率は8.8%でしたが、2018年の第二次産業のGDP成長率は9.3%増と逆に加速しているのです。

金融業や不動産業のような第三次産業と異なり、第二次産業は産業内で関わる人が多くなるため第二次産業が成長すれば活気が生まれやすい訳です。

ここで上述した他の「一線城市」と産業別のGDP構成比率を比較すると、下記のとおり深圳市だけが際立って第二次産業の比率が高いことが分かります。

上海市:第一次産業0.3% 第二次産業29.8% 第三次産業69.9%
北京市:第一次産業0.4% 第二次産業18.6% 第三次産業81.0%
深圳市:第一次産業0.1% 第二次産業41.4% 第三次産業58.8%
広州市:第一次産業1.0% 第二次産業27.3% 第三次産業71.7%

深圳で中国最初の電気街であり世界最大の電気街である「華強北」を視察した際、案内者から、

「ここ(華強北)に来れば必要な部品は全て集まるし、郊外にはその部品を使って試作品を作成してくれるメーカーもある。同じことをシリコンバレーでやろうとすればすごく時間がかかる。」

との説明がありましたが、それはつまり、深圳が単なる組立加工地ではなく、部品製造も含めた電子・電気産業の集積地であることを意味します。

 

産業集積の歴史

深圳がなぜこのような産業集積を実現できたのか、その歴史とメカニズムについては、元アジア経済研究所の研究者だった丸尾氏の論文に詳しく説明されています。

1970年後半に国際競争力を失った香港の中小製造業が、中国の改革・開放を機に、後背地である広東省へ製造工程を移転した。

1980年代後半にプラザ合意を契機とした香港ドル安で競争力を強めた香港企業が、急増する海外需要を香港内で捌ききれず、広東省進出を加速させた。

1992年の鄧小平の「南巡講話」を契機に改革・開放が加速すると、香港は中国ビジネスの拠点と化し、経済が過熱、慢性的なインフレが続いたため、賃金や不動産価格の急騰に苦しむ香港製造業は、労働集約的な製造工程だけでなく製品開発から最終チェックまでの全製造工程を広東省へシフトした。

こうした香港・広東省のつながりを活用する形で、1990年代には日本の複写機メーカー(リコー、東芝、コピア、シャープ、コニカ、富士ゼロックス)が、下請企業を引き連れて深圳に進出した。
また同時期に台湾のPC関連機器メーカーも進出。

1997年のアジア経済危機後は、競争激化による価格引下げ圧力とリードタイムの短縮の必要性に迫られ、部品調達の現地化が進んだ。

概略は以上のとおりです。

前述した丸尾氏も指摘していますが、電子・電気産業の特徴は、

①コスト競争が激しい
②多くの部品からなる組立産業
③製品ライフサイクルが早いことです。

したがって、こうして一旦産業集積ができてしまうと、試作品開発のスピードアップ、調達品の輸送コストや在庫コストの低減が実現し、事業環境としての効率性が良くなるため、賃金上昇によるコストアップがあっても、製造業が深圳から逃げて行きにくくなるのです。

 

深圳が発展しつづける理由

改革・開放政策の中で、深圳が経済特区に指定された理由は、「香港に隣接する有利な条件を利用し、積極的に対外経済交流を展開できる」ということでした(ちなみに、この提案をしたのは、現在中国の国家主席である習近平の父親である当時、広東省共産党委員会書記だった習仲勲氏です。)から、目論見通り、いやそれ以上の結果になったと言えるでしょう。

世界トップクラスのシェアを誇る通信機器メーカーであるZTE(創業1985年)やHuawei(創業1987年)、出荷量世界1位2位を争うリチウムイオン電池メーカーであり、電気自動車メーカーでもあるBYD(創業1995年)、世界最大のドローンメーカーであるDIJ(創業2005年)。また製造業ではありませんが世界最大のゲーム会社であり、10億人を超えるユーザー数をもつSNSアプリ「微信(WeChat)」を提供しているTencent(創業1998年)。

これらは全て深圳で創業し、今や世界トップクラスにまで成長した企業です。

そして今も、深圳では新しい企業がどんどん生まれてきており、登記企業数は年平均30%で増えています

その中には、2012年創業し、まだ具体的な製品をあまり上市していないにも関わらず、すでに時価総額が5,000億円程度まで大きくなっているフレキシブルディスプレイメーカーのROYOLEのような会社もあります。

こうした将来有望な企業を見つけ、資金を提供するベンチャーキャピタル(VC)も深圳には沢山集まっています。

2009年、深圳株式取引所に新興企業向け市場「創業板」が開設されて以降は、更に資金は増加傾向にあり、こうしたことも深圳が発展しつづける要因になっています。

 

イノベーションは辺境の地から生まれる

そして深圳政府の存在自体も深圳が発展しつづける要因と言えます。

前述の資料によれば、深圳が経済特区に指定される際、鄧小平氏は「一部のエリアを特区と呼ぶ地域にすることは可能」と述べたうえで、「中央政府は、資金はないが、政策は与えることができる」と発言したとのこと。

計画経済の失敗で中央政府の財政は破綻している訳ですから当然ですね。

しかし、それは深圳も同じこと、いや中国の中でも発展していない辺境の地ですから、もっとお金がない訳です。

したがって、深圳政府は経済特区という立場を利用し、「政府のお金」を使うことなく、インフラも含めた環境整備を行い、企業と人を深圳に呼び込まなければなりません。

そのために今までの常識では考えられないような大胆な施策をどんどん実行していく。

現在は経済発展により使える資金も増えてきてはいますが、そういう大胆な姿勢が今も深圳政府にはあります。

1983年には建設投資資金調達のために株式(実態としては債権に近い)を発行、1987年には知的財産権による現物出資を可能にする規定『科技人員による民営科技企業設立奨励に関する暫定規定』を中国で初めて公布、そのほかにも上述した深圳株式取引所や「創業板」の開設も含め「とにかくやってみる」的な話は数多くあります。

今回、深圳を視察した際、サービスや製品としてまだ完成度は高くないけれども、試験的に上市し、その後改良を続けているというものを沢山みました。

深圳は改革・開放の流れの中で経済特区という立場を得ましたが、北京から遠く、中央政府のコントロールが行き届かなかったことから、もともと自由で寛容な風土があったように思います。

そのような自由で寛容な風土にも引かれ、一攫千金とまではいかなくても成功を夢見て、地方からどんどん人が流入してくる。

結果として、人生これからの若い人の多い都市となり(改革・開放から40年経った今でも人口の平均年齢32歳、60歳以上は2%しかいない)、ますますチャレンジを許容する風土ができあがるのだと思います。

米中貿易戦争の影響で、ZTEやHuaweiには今逆風が吹いていますが、深圳はまだまだ成長余地が大きいと改めて思った次第です。

さて、皆さんは深圳の未来をどう予想しますか?

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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