ビジネスにおいて、「顧客管理」という業務は、売上を左右する重要なファクターです。
重要なのは分かっているのですが、多くの企業がいまひとつ有効な手立てが打てていないのが、顧客管理であるともいえます。
この、ビジネスの永遠のテーマである顧客管理は、今どうなっているのでしょうか?
顧客管理の昔と今を比較しながら、今後の有効な顧客管理の方向性・手法について考えてみたいと思います。
ビジネス上の顧客の重要性
当然ですが、ビジネスを展開する上で、「顧客」はとても重要な存在です。
売上は「顧客数×客単価」で導き出されます。
人口が減少し、少子高齢化の時代になると、消費者そのものの数が減少していきます。つまり、パイの奪い合いが始まるわけです。
現代の消費者は相変わらず低価格志向を持っています。
企業としては、依然として顧客を確保するということが重要なテーマになっているわけです。
従来の顧客管理
高度成長期まで、顧客管理は、実はあまり重要ではありませんでした。
こんなことを言うとお叱りを頂く向きもあるかもしれませんが、現代ほど重要視はされませんでした。
当時は人口も増加傾向でしたから、生産量を増やしたり、営業拠点を増やしたりすることが、売上の増加に直結していました。いわゆる「売上至上主義」の時代です。
特に、消費者向け販売の場合の顧客管理は、あまり重要ではないと思われました。
その方法のほとんどは、「名簿管理」です。
名簿管理とは、会員制度に加入した場合に、個人の氏名や住所などを管理の主な対象にする顧客管理方法です。
「名簿」というのは、言わば台帳です。台帳データというのは、コンピュータ的に言うとマスターデータであり、氏名・住所などからなる、「固定データ」です。
高度成長期までは、この固定データを活用したダイレクトメールでチラシを送ることが、販売促進の主な行動でした。
変化する顧客像
人口減少とビジネスの関係
わが国の人口は、2004年をピークに減り続け、今後100年間で100年前(明治時代後半)の人口に戻っていくと言われています。
つまり、客数の増加を当てにしたビジネスは成り立たなくなるということです。
消費者ニーズの多様化
ターゲット顧客の激減と合わせて企業を悩ませているのが、消費者ニーズの多様化です。
分かりやすい例を挙げると、ランドセルは昔、「黒か赤」と相場は決まっていました。ところが昨今はクレパスの色数と見間違えるほど、カラフルになっています。
完全に消費者側に主導権が移ってしまっていますね。メーカーとしても製造コストが上がり、収益を圧迫していますが、消費者のニーズには逆らえないところです。
多くの新規客が離脱
消費者の数に比べて、店舗やメーカーの数が多くなっている現代、消費者は店や商品を自由に選べる立場にいます。
当然、ブランドスイッチ(購入先を変えること)も頻繁に行われます。
今は商品の流行情報に関しては、スマートフォンのWebやSNSを通じて、瞬時に入手することが出来る時代です。新規客が固定化しにくい状況にあります。
これからの顧客管理
そのような、顧客をコントロールしにくい現代ですが、それでも売上は何とか上げなくてはなりません。
では一体、どんな考え方で顧客管理をしていったらよいのでしょうか?
名簿管理から行動管理
変化する顧客像でご紹介したとおり、お客様は常に変化するまさに「生き物」です。
その変化を捉えていくことが、現代の顧客管理の必須条件になります。
これまでの顧客管理は名簿管理であり、お客様の行動や嗜好の変化を知る上ではデータが不足しています。
今後はお客様の動き(購買履歴など)を追っていくことが求められます。
そのため、ポイントカードシステムのような、その行動データを追跡できる仕組みが必要になります。
特定の顧客と長く付き合う
多くの新規客が離脱する現代のビジネス環境では、新規客はあてに出来ないと考えたほうが無難です。
新規客を獲得するためには、膨大な広告費用がかかります。携帯通信業界を見ればよく分かりますよね。
他社からの乗り換えに対して「乗り換え割」や「キャッシュバック」などの名称で、何とか新規のユーザー数を増やそうと躍起になっています。
そのために、長く利用している顧客が高い通信料を支払っている構造です。総務省もこの収益構造に異を唱えて業界に対する指導を行っています。
これからの顧客管理は、不特定の新規客より、特定の固定客と長く付き合っていこうという考え方が主流になりつつあります。
そうした方がコスト的には有効であると言われています。
特定の顧客と一生涯の付き合いをしていこうというLTV(ライフタイムバリュー)という考え方が広がっています。実に理にかなっていますね。
FSPの考え方
顧客の行動データ(主に購買履歴)を入手できると、実に様々なことが分かってきます。
「このお客さんは、購入額は少ないが、長い間買ってくれているなぁ」とか、「このお客さんは、以前は沢山買ってくれていたのに、最近は全然来てくれていない」などです。
行動データが把握できていなかった名簿管理の時代は、全ての顧客に同じ販売促進をかけていました。非常に無駄の多い販売促進だったことでしょう。
これからは、FSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)といわれる、多頻度で買い物をしてくれる固定客を探し出し、優遇する考えが重要です。
パレートの原則を考える
FSPの考え方を実践に移していくと、さらに新たな発見があります。
行動データを集計してみると、その企業や店舗の売上を支えているのは、実はごく少数の固定客であるということです。
商品や業種によって差はありますが、上位約20~30%の顧客で、売上の70~80%を占めていると言われています。
この事は、「パレートの原則」とか「2:8の原則」などと言われています。
顧客データは資産
顧客の行動データを収集・分析するメリットは、販売促進だけではありません。
自社商品・サービスの品揃えを改善したり、経営戦略そのものを転換する、重要な意思決定をしたりする場合にも活用されます。
更に近年では、顧客の行動データそのものを「ビッグデータ」として販売したり、AIを活用して行動モデルをつくり、別の用途に活用したりする、資産としての活用も見られます。
顧客管理の考え方まとめ
顧客管理の考え方の新旧を通じて、今後の顧客管理の考え方をお伝えしてきましたが、いかがだったでしょうか?
時代の変化に応じて顧客管理の在り方も変えていく必要性を感じていただけたのではないでしょうか?
更に、顧客管理が必要な事、つまり「コスト」と捉えるだけでなく、資産として、企業収益を積極的に押し上げてくれる側面もあることをご理解いただけたと思います。
ぜひ、この機会に自社の顧客管理の在り方も見直しを図られてはいかがでしょうか?
著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。