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中国の特色ある社会主義(後編)

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こんにちは!栗原誠一郎です。

鄧小平時代後の中国

前回の記事では、鄧小平時代までの中国が何を実現しようとしていたのかについて考えていきました。

そして鄧小平が実現したかったことは「文化大革命までの失策により極貧化した人民の生活を豊かにする」ということが私の結論でした。

鄧小平が「小康社会」(衣食住が満たされ、比較的余裕のある生活を送れる経済社会水準)という言葉で表した構想は、その後、江沢民、胡錦涛、習近平各主席に引き継がれ、中国が定義した下記の経済発展段階でいうところの「全面的小康社会」を2020年までに実現しようというところまできたわけです。

(1)貧困社会:貧窮状態。世銀の貧困ライン以下
(2)温飽社会:衣食が満ち足りた状態。世銀の低収入国
(3)小康社会:部分的にいくらかゆとりのある状態。世銀の中低収入国
(4)全面的小康社会:全面的にいくらかゆとりのある状態。世銀の中上収入国
(5)富裕社会:裕福な状態(最富裕層も含む)。世銀の高収入国

既に世界銀行の基準では「中上収入国」にはなっていますし、2008年に国家統計局統計科学研究所が経済発展、社会調和、生活の質、民主法律、文化教育、資源環境の6つのカテゴリと23個の具体的な計測指標によって構成されている「全面小康社会の建設の統計計測方」による達成度でみても、2017年は97.6(2010年は80.1)まで進んだとのことです。

鄧小平が思い描いた「小康社会」は正にもうすぐ実現しようとしているのです。

 

新たなビジョン「社会主義現代化強国の実現」

「全面的小康社会の建設」という鄧小平以来のビジョンの実現を間近に迎え、新たに習近平が打ち出した新たなビジョンが「富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国の実現」です。

「強国」という文字をみて、中国が覇権を目指していると言われてしまっていますが、このビジョンの自体には「覇権」の要素はありません。

しかし、胡錦涛も掲げていた「社会主義の現代化」や「中華民族の偉大な復興の実現」から一歩進んで、21世紀中葉までに「あらゆる面で国際社会のリーダーたる国になる」という意志は感じ取れます。

 

「新時代の中国の特色ある社会主義」思想

習近平が第19回全国代表大会での報告の中で語っているように「新時代において、どのような中国の特色ある社会主義を堅持し発展させるのか、いかにして中国の特色ある社会主義を堅持し発展させるのか」という問いへの答えが、「新時代の中国の特色ある社会主義」思想ということになります。

習近平は先述した報告の中で、思想の8つのポイントと14の基本方針を説明しています。

①中国の特色ある社会主義を堅持し発展させる上での総任務は、社会主義現代化と中華民族の偉大な復興を実現し、小康社会の全面的完成を土台に、二段階に分けて今世紀中葉までに、富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国を築き上げることである
→基本方針⑿「一国二制度」と祖国統一の推進を堅持する

②新時代のわが国の主要な社会矛盾は人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要と発展の不均衡・不十分との矛盾であり、人民を中心とする発展思想を堅持し、個々人の全面的な発展と全人民の共同富裕を不断に促進しなければならない
→基本方針⑵人民を中心とすることを堅持する
→基本方針⑻発展の中での民生の保障・改善を堅持する

③中国の特色ある社会主義事業の総体的配置は「五位一体」であり、戦略的配置は「四つの全面」であると明確にし、道・理論・制度・文化への自信を固めるよう強調
→基本方針⑺社会主義の核心的価値体系を堅持する
※「五位一体」:経済、政治、文化、社会、生態(エコロジー)文明という国家建設の5つの要諦
※「四つの全面」:小康社会の全面的建設、改革の全面的深化、全面的な法による国家統治、全面的な厳しい党内統治

④改革の全面的深化の総目標は、中国の特色ある社会主義制度を充実・発展させ、国家統治体系・統治能力の現代化を推し進めることである
→基本方針⑶改革の全面的深化を堅持する
→基本方針⑷新たな発展理念(革新・調和・グリーン・解放・共有)を堅持する
→基本方針⑼人間と自然との調和的強制を堅持する

⑤法に基づく国家統治の全面的推進の総目標は、中国の特色ある社会主義法治体系を整備し、社会主義法治国家を建設することである
→基本方針⑹全面的な法に基づく国家統治を堅持する

⑥新時代における党の軍隊強化目標は、「党の指揮に従い、戦闘に勝利でき、優れた気風をもつ」人民軍隊を建設し、人民軍隊を世界一流の軍隊に築き上げることである
→基本方針⑽包括的国家安全保障観を堅持する
→基本方針⑾人民軍隊に対する党の絶対的指導を堅持する

⑦中国の特色ある大国外交は、新型国際関係の構築を促し、人類運命共同体の構築を促さなければならない
→基本方針⒀人類運命共同体の構築の促進を堅持する

⑧中国の特色ある社会主義の最も本質的な特徴は中国共産党の指導であり、中国の特色ある社会主義制度の最大の優位性は中国共産党の指導であり、党は最高の政治的指導勢力である
→基本方針⑴全活動に対する党の指導を堅持する
→基本方針⑸人民主体を堅持する
→基本方針⒁全面的な党内統治を堅持する

正直、このポイントと基本方針を読んでも、結局、習近平が「何を」「どの様に」実現しようとしているのかは読み解き難いというのが私の感想ですが、習近平の様々な機会における発言をもとに、考えれば以下のようになるかと思います。

 

習近平の世界観

まずは、習近平がどのように現在の世界を捉えているか?すべてはここからスタートしていると思います。

習近平の世界観は2014年11月の中央外事工作会議における以下の談話(「習近平 国政運営を語る 第二巻」外文出版有限責任公司)に表れています。

世界の発展に関する体制を認識し、時代の流れについていくことは、日常的に取り組んでいかなければならない極めて重要な新たな課題である。中国が発展を続けるためには、世界の発展の流れに順応しなければならない。…さまざまな現象の中から本質を発見しなければならず、特に中期的すう勢をはっきりととらえなければならない。国際構造の発展と変遷の複雑さを十分に見通すべきだが、それ以上に世界多極化の状況は変わらないという点をはっきり認識しなければならない。世界経済の調整には曲折があることを十分に見通すべきだが、それ以上に経済グルーバル化のプロセスは変わらないという点をはっきり認識しなければならない。世界の矛盾と闘争は先鋭化していることを十分に見通すべきだが、それ以上に平和と発展という時代のテーマは変わらないという点をはっきり認識しなければならない。国際秩序をめぐる争いは長期にわたることを十分に見通すべきだが、それ以上に国際システム変革の方向は変わらないという点をはっきり認識しなければならない。わが国周辺環境における不確実性を十分に見通すべきだが、それ以上にアジア太平洋地域の全体的繁栄と安定の状況は変わらないという点をはっきり認識しなければならない。

・・・今日の世界は変革の世界であり、新しい機会や新たな試練が続出する世界であり、国際システムと国際秩序が深く調整されている世界であり、国際的な力関係が大きく変化し、平和と発展に有利な方向へと変化している世界だ。

習近平の世界観を説明するとすれば、「平和と発展」を求めるという変わらないテーマがある中で、アメリカ一強を前提としたアメリカ主導による国際秩序から、多極化、グローバル化した世界における新しい国際秩序が生まれ始めている、というところでしょうか?

だからこそ、習近平は自らの思想の中で、「中国の夢の実現は、平和的な国際環境、安定した国際秩序と切り離しては考えられない。」という前提のもと「人類運命共同体の構築を促進」し、「常に世界平和の建設者、世界発展の貢献者、国際秩序の擁護者として役割を果たさなければならない。」と言っているのです。

 

南シナ海や東シナ海での動きは「覇権」の証拠か?

一方、中国が南沙諸島で軍事拠点化を行っていることや、尖閣諸島への領海侵犯を高頻度で繰り返しいることから、やはり中国は「覇権主義」的であるという見方がありますが、中国から見れば、南シナ海は他国によって自国海洋権益が浸食されていく中での対抗措置でしかなく、1970東シナ海での問題も、領有権を争っている尖閣諸島を日本が一方的に国有化(2012年)したことに対する対抗措置でしかないとも言える訳です。

※中国社会科学院中国辺疆史地研究センター教授の李国強の論文(p48~)によれば、「第二次世界大戦後の比較的長期間、いわゆる南シナ海問題は存在しなかったし、南シナ海の周辺国も中国が南沙群島及び周辺海域に主権を有することに対し異議を唱えなかった。

しかし、1960年代末から70年代初めにかけ、南シナ海に石油資源の存在が有望視されてから、 ベトナム、フィリピン、マレーシアなどが南沙群島の部分島嶼を軍事占領し、その周辺海域で大規模な資源開発活動を行い、主権を求めたことによって、南シナ海の主権をめぐる熾烈な争いが始まった。」というのが中国側の認識。

また、中国は二国間協議を通じて、14の隣国の内、12カ国と陸上国境問題を解決してきており、そして南シナ海の問題も、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、九段線とその囲まれた海域に対する中華人民共和国が主張してきた歴史的権利について、「国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する」とする判断を2016年7月に下して以降、仲裁を申し出た当事国であるフィリピンと協議を行い、2016年10月、南シナ海判決については棚上げして各方面の協力をすることで合意、その後、2018年8月にはASEANとも、南シナ海における紛争の平和的解決のための「行動規範」策定に向け、外相会議で交渉の土台となる文書の取りまとめに合意しています。

海洋権益も含め自国の主権を主張する行為は何も中国に限ったことではないですし、現状の状況だけでは中国を「覇権主義」であると断定はできないでしょう。

 

米国は世界の「平和と発展」に貢献しているか、米国式民主主義が唯一の民主主義か?

習近平がその思想にある「中国の夢」という言葉を使う前、2010年に中国人民解放軍国防大学教授の劉明福が「中国の夢」というタイトルの本を執筆し、中国で大ベストセラーになりました。

この劉明福と米ニューヨークタイムズの中国語版コラムニスト加藤嘉一との共著「日本夢」(晶文社発行)の中で、劉明福は以下の様に述べています。

冷戦終結後、米国は勝利者として世界中で相手がいなくなり、一超独強の局面を築き上げました。…しかし、米国は勝利に酔い、…冷戦思考を依然として運用し、文明の衝突を喚起し、各地で色の革命を行い、新たな競争相手や戦略的敵国を探し、戦争を発動し、世界最大のトラブルメーカーとなりました。

 

今日、グローバル・ガバナンスにとって一つの重大な問題は世界各地で米国モデルの民主主義を広げることではなく、まずは米国自身が民主主義を反省し、…真実の民主主義に回帰させることなのです。…米国の民主主義は改革、イノベーション、アップデート、世代交代が必要です。例えば、米国民主主義は如何に世界に学ぶか、米国民主主義の「形式」は中国民主主義の「効率」に如何に学ぶべきかなどは米国の民主主義建設と発展にとっての重大な課題なのです。

劉明福の主張は、確かに一面その通りでしょう。第19回全国代表会議で報告された習近平思想も、このような現状認識にあるものと思われます。

考えてみれば、中国における「改革・解放」は、国家運営の大転換でした。人民の困窮という、現実を踏まえ、自らの定義する社会主義を反省し、アップデートさせたといって良いでしょう。

中国は三権分立や多党制を採用してはいませんが、鄧小平の時代から「党組織、党員、党の幹部は、大衆と一体になるべきで、絶対に大衆と対立してはならない。

もしもある党組織がひどく大衆から浮きあがり、しかもきっぱり改めることができないなら、力の源泉を失い、かならず失敗し、人民に見捨てられてしまう」と強調し、習近平思想の中でも、「人民主体の堅持」を基本方針としています。

インターネット上の検閲や人権派弁護士の大量身柄拘束が行われる一方で、政権側である北京大学国家発展研究院の副院長である姚洋が「経済成長と引き替えに共産党の絶対支配への同意を勝ち取る中国共産党の戦略はもはや限界にきている。

中国共産党が経済成長を促し、社会的な安定を維持していくことを今後も望むのであれば民主化を進める以外に道はない。」というような論文を出しても、拘束もされないし、その後昇格(現在は院長)もしています。

習近平自身も

中国の特色ある社会主義民主は新しいものであり、良いものである。もちろん、これは中国の政治制度が完全無欠であり、改善と発展が必要でないということではない。制度への自信とは思いあがりや自己満足ではなく、ましてや現状に甘んじて進歩を求めないということでもなく、制度に対する自信とたゆまぬ改革・革新を統一し、根本的政治制度と基本的政治制度を維持した上で、制度体系の整備と向上をたゆまず推進するということである。

(「習近平 国政運営を語る 第二巻」外文出版有限責任公司)

と言っており、中国の民主政治の形態である「協商民主」(選挙ではなく協議により民主的コンセンサスを構築する)を発展させることにより、人民主体を堅持すると習近平思想の中でも基本方針の中で表明しています。

中国の歴史や社会の実情を無視して、米国的民主制度をそのまま移植しても、近年のムーブメント的に行われた民主改革が実証しているように混乱を起こすだけであり、中国は中国の実状を踏まえて、自ら必要な改革・革新を行っていかなければならない。

したがって、中華人民共和国という国の建設時の基本である「社会主義の道」「人民民主主義独裁」「中国共産党の指導」「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想」を全面否定するような議論を主導するような人物は徹底して取り締まり、そうでなければ「協商民主」の中で、意見に耳を傾ける。ということが、習近平の言いたいところでしょう。

先ほど述べた、「経済成長と引き替えに共産党の絶対支配への同意を勝ち取る中国共産党の戦略はもはや限界にきている。」と論文で書いた北京大学国家発展研究院の姚洋も、その本文の中で、GDP成長のみに中国共産党が主眼を置く中で、強制立ち退きなど人民の経済的・政治的権利が踏みにじられているという現実に起きている問題を指摘し、その解決のためには多くの人民が参加する開放的政治プロセスが必要と主張しています。

この様な主張であれば、基本原則の否定にはなりませんから、身柄の拘束もされなかったのでしょう。

 

「格差是正」「腐敗撲滅」「イノベーション」「台湾統合」

改革・開放から40年、中国の一人当りGDPは実質指数で23倍になり、先述したように「全面的小康社会」の実現は目の前にきており、改革・開放を主導した鄧小平でさえ想像できなかったスピードで豊かさを実現してきました。

1989年の天安門事件以降は大きな政治的混乱もなく、またそれが更に経済成長を後押ししてきました。

習近平が21世紀中葉におけるビジョン「富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国の実現」の為には、「平和と安定」が不可欠であるということは、習近平自身良く理解していることでしょう。

国際社会におけるリーダーシップも、自ら他国に干渉していくというよりは、第三諸国の代表として「協商民主」的発展プラットフォーム(「一帯一路」等々)を創っていくということが目的でしょう。

実際、中国は国連会議において決議案を出したり、拒否権を多用したりしていません

したがって、習近平が何を実現していくかという優先順位を考えれば、
①腐敗撲滅、②産業イノベーション、③格差是正、④台湾統合という順番になるかと思います。

腐敗撲滅

政権の安定は経済成長にとって不可欠であり、共産党の指導的立場を保持するためには、腐敗撲滅は必須です。歴代の中国政権が腐敗によって人民の離心を生み、つぶれて行った過去を考えれば当然のことです。

但し、取り締まられるのは習近平派以外ばかりで、泣いて馬謖を切るといった事例は聞こえてこないことは確かに懸念されますが、腐敗撲滅は末端まで徹底されてきているようです。

産業イノベーション

「中進国の罠」と言われるように、賃金の安さを武器に先進国からの投資と輸出による成長モデルにより経済成長を実現した発展途上国は、経済成長に伴う賃金の上昇により今までの成長モデルが崩れ、経済成長が鈍化します。

また、中国は一人っ子政策を長く続けたため、生産年齢人口のピークを既に迎えており(参考:現在の人口ピラミッド)、経済全体の成長のためにも、一人当りの所得の成長のためにも、生産性の向上、つまり産業のイノベーションが不可欠です。

産業構造上、生産性向上余地が最も大きいのは製造業であり、したがって中国が取り組んでいる「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」は中国にとって覇権のためというより、現実的に必要不可欠な施策なのです。

また生産性向上のためには、国有企業改革も非常に差し迫った課題でしょう。

社会主義国家として「国民経済の命脈にかかわる需要な業種や主要分野では、国有経済が支配的地位を占め」るのは当然としても、昔ながらの生産性の低い国有企業であっては意味がありません。

しかし、現実は借金まみれの状態であり、政府としても改革の必要性を認識していますが、足元で米中貿易摩擦等による景気の低迷をうけ、痛みを伴う改革は難しくなっています。

格差是正

改革・解放施策による経済成長の中で、中国では所得格差が大きくなり、09年以降縮小傾向がみられたものの、また直近では拡大傾向にあります。

そもそも09年以降格差が縮小した理由が不明ですが、直近で拡大傾向にあるということは、中国共産党の安定という意味でも、また習近平がその思想の中でいつも語っている「共産主義の遠大な理想」(ひとりひとりの自由な発展が、すべての人々の自由な発展の条件となる、一つの共同体が現れる。能力に応じて働き、必要に応じて受け取る社会の出現)を目指す上でも、放置する訳にはいかないでしょう。

台湾統合

「中華民族の偉大な復興の実現」ということを考えた時、台湾統合なくして復興とは言えません。

台湾独立の動きに対しては武力行使も排除しないと習近平は言っていますが、敢えて武力を行使するメリットはありませんから、独立の動きを牽制しつつ、経済的なつながりを益々高めていくということかと思います。

その結果、21世紀中葉までには一国二制度という形で台湾を統合することができればよいし、それは充分可能だというのが習近平の考えではないでしょうか。

 

国家主席の任期撤廃

習近平が国家主席の任期を撤廃したことで、習近平が「独裁者」になろうとしていると世間で言われていますが、東京福祉大学国際交流センター長、遠藤誉氏が中国高官にインタビューした内容によれば、腐敗撲滅が目的とのこと。

国家主席の任期撤廃というような重大な改憲であれば、中国メディアでも任期撤廃についてさすがにその理屈を説明しているのではないかと思い、色々探してみましたが、改憲説明文章のようなものはあまり出ていません。

そういう状況も踏まえれば、上記インタビュー内容にある理屈には納得感があります。

 

韜光養晦(とうこうようかい)

韜光養晦。この言葉は、鄧小平が1992年の「南方視察講話」中で、「目立たないようにしながら何年か一生懸命に働けば、国際社会でもっと影響力をもてるようになるだろう。

そうして初めて、国際社会で大国になれる」と話したところから、それ以降、中国の外交方針を表す表現となっています。中国に警戒心をもつ側からは、「爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術」のように受け取られているますが、本来は、「謙虚に働いていけば、立派な国になれる」という意味だと分かります。

その後、江沢民は1999年に「冷静観察、穏住陣脚、沈着応対、韜光養晦、有所作為」(冷静に観察し、しっかりと足場を固め、沈着に対処し、能力を隠して力を蓄え、力に応じ少しばかりのことをする)を中国外交の基本方針とした後、2000年以降中国が急速に国力をつけていく中で、胡錦涛により、「韜光養晦、有所作為」という抑制的な外交方針は「堅持韜光養晦、積極有所作為」(能力を隠して力を蓄えることを堅持するが、より積極的に少しばかりのことをする)と修正されました。

2010年の中国国際関係学会の年次総会では、「韜光養晦」パラダイムが今でも効果的かどうかを激しく議論した結果、今でも中国外交の指針としてふさわしいとの結論が出たそうですが、日本やインドが常任理事国入りを目指しているように、国力がつけば大国として相応しい役割を発揮する「国」であってほしいと思う「人民」の気持ちはごく自然なことでしょう。

しかし、習近平自身もよく認識しているように、中国は国内の課題が山積しています。したがって、覇権など考える余裕はなく、国内の充実を図ることを主眼に、一帯一路など経済も含めた対外政策を行っていくものと思います。

先述した、「中国の夢」の著者、劉明福は、米国は他国に干渉しはじめてから停滞していると述べていましたが、確かに、米国が孤立主義をとっていた時代、米国の国力は充実していました。

習近平が、対外的強さに目を向ける人民や軍をどうコントロールできるか、中国が今後も発展しつづけられるかどうかは、そこにかかっていると思います。

 

さて、皆さんはどう考えますか?

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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