令和3年6月11日に「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険等の一部を改正する法律」が交付されました。
この中で育児休業等期間中の保険料免除要件が見直しになっています。
これまでの育児休業期間中の社会保険料免除制度にはある問題がありました。そのため新たな免除要件が令和4年10月1日から適用されることになったのです。
この記事では、育児休業期間中の社会保険料免除制度が現行とどのように変わるかご紹介します。
育児休業等期間中の社会保険料免除とは
育児休業期間中は、事業主が年金事務所または健康保険組合に申出をすることで、労働者と事業者側の両方が社会保険料の免除を受けられます。
労働者は社会保険免除期間中も納付した期間として扱われるため、将来受け取る年金額は変わりません。賞与や期末手当などにかかる保険料も免除されます。
まずは現行の社会保険料免除制度の内容についてご説明します。
満3歳未満の子を養育するための育児休業等(育児休業および育児休業に準ずる休業)期間について、被保険者から申し出があった場合に事業主が「育児休業等取得者申出書」を提出することで、被保険者負担分も事業主負担分も保険料が免除される制度です。
保険料を徴収しない期間は「育児休業等を開始した日の属する月から、終了日の翌日が属する月の前月まで」とされています。
現行の社会保険料免除制度はなぜ問題視される?
育児休業等期間中の社会保険料免除制度が見直されたのはなぜなのでしょうか。
改正前の社会保険料免除制度は主に次の点が問題視されました。
月末をまたがなければ免除にならない
現行の社会保険料免除制度が適用される要件は、「育児休業等開始日の属する月から、終了日の翌日が属する月の前月まで」となっています。
つまり、月末日に育児休業を取得していれば、その月の社会保険料が免除されます。賞与が支給される月であれば、賞与の分の社会保険料も免除されます。
たとえば育児休業を6月30日まで取得していれば、翌日は7月1日なので6月分まで免除されます。
しかし、6月29日まで取得した場合、翌日は6月30日なので5月分までしか免除されません。復帰する日が1日違うだけで社会保険料の免除期間が1ヶ月分違うことになります。
社会保険料免除のためと思われるような育休取得が見られる
この制度は月末1日だけでも育児休業を取得すればその月は社会保険料が免除になることから、賞与の支給月の月末に社会保険料免除のためと思われるような育休取得が目立つようになりました。実際、男性の育休中の保険料免除対象者数は、12月が圧倒的に多いのです。
賞与は金額が大きいため、社会保険料が免除された場合、手取り金額が10万円程度違うこともあります。
このように育児休業を本来の目的とは違う趣旨で申請する人が増えたため、公平性を欠くことから社会保険料免除制度が見直されることになったのです。
企業の実態に合っていない
男性社員の育休取得率は上がりつつあるものの、いまだに取得期間は短い傾向です。
育児休業を取得する期間が短いのに月末をまたがなければ免除にならない制度は、企業の実態に合っていません。
そのような実態を踏まえ、男性も育児休業を取得しやすい環境を整えるために柔軟な制度が必要と考えられました。
改正後はどう変わる?
令和4年10月1日から育児休業等期間中の保険料免除の要件が変わります。具体的にどのように変わるのか確認していきましょう。
従来の要件に加え同月内に14日以上の育児休業等を取得した場合
改正前は、月末時点で育児休業を取得していなければ社会保険料免除の対象になりませんでした。
改正後は適用される範囲が広がり、従来の要件に加えて「同月内に14日以上の育児休業を取得した場合」にも当月の保険料が免除されます。
例を挙げると、6月10日から6月25日まで育児休業を取得した場合、同月内に16日間取得しているため、6月の保険料は免除されます。
社会保険料免除制度の要件が緩和されたことで、自分が取得したいときに育児休業を取得しても要件を満たしやすくなります。
賞与に係る保険料は育児休業等の期間が1ヶ月超の場合
改正前は、賞与が支給される月の末日にわずか1日の育児休業を取得した場合でも保険料免除の対象になることが可能でした。
しかし、改正後は1ヶ月を超える期間にわたって育児休業を取得しなければ、賞与から保険料は免除されません。
従来のように短期間の育児休業を取得するだけでは免除されなくなりました。
たとえば改正前は12/30〜1/1まで育児休業を取得した場合、12月が賞与の支給月であれば、12月分の保険料と賞与に関わる保険料が免除されました。
しかし、改正後はどちらも免除されません。
改正後は12月15日〜1月20日まで育休をとった場合のように、育児休業期間が暦日で1ヶ月を超えた場合に賞与に係る保険料が免除されます。
改正前のように社会保険料免除が目的のような育休取得は不可になりました。
連続する2つ以上の育児休業等を取得している場合の取り扱い
連続した2つの育児休業を取得している場合、2つの育児休業を1つの育児休業とみなして保険料が免除されます。
たとえば1月5日〜2月10日、2月11日〜2月26日まで育児休業を取得した場合、1月も2月も14日以上の育児休業を取得しています。
しかし、連続する育児休業等を2つに分割して取得した場合は、1つの育児休業等とみなされます。
このケースでは、1月5日〜2月26日を1つの育児休業等とみなすため1月分の保険料は免除されますが、2月分は免除されません。
育児休業における「14日間以上」の判定方法
2022年10月1日からは同月内に14日間以上の育児休業を取得した人も社会保険料免除の対象になります。この「14日間」の計算方法について確認しておきましょう。
就業日数を除く
労使間で合意した上で就業した日数は除いて計算します。開始日から終了予定日までの日数から就業日数を除いた日数が育児休業等日数です。
月内に育児休業等が複数ある場合
開始日と終了予定日の翌日が同月に属する育児休業等が複数ある場合、育児休業等日数を合算して14日以上あれば、その月の保険料は免除されます。休業は連続していなくても可とされています。
土日等の休日の取り扱い
育児休業等の開始日から終了予定日までの間に土日等の休日など、労務に服さない日が含まれていても、育児休業日数から差し引きません。育児休業等日数に含まれます。
前月以前から取得している場合の計算方法
前月以前から育児休業を取得していて、最終月は14日以上の育児休業期間があるものの、月末まで育児休業を取得していない場合、最終月の前月までの保険料が免除されます。
今回の改正で設けられた「同月内に14日以上」の要件は、育児休業の開始日と終了予定日の翌日が同一月に属する場合に適用されます。
月末を含む育児休業においては14日の要件が適用されません。したがって前月以前から育児休業を取得している場合、最終月の保険料は「月末日が育児休業期間中」であるか、「その月に連続しない別の育児休業を14日以上取得している」場合のみ免除されます。
まとめ
今回の法改正で、賞与にかかる社会保険料の免除を目的とした育休取得はできなくなりました。
そのかわり月末をまたいで育休を取得するのが難しい人でも同月以内に14日間以上の育休を取得していれば、当月の社会保険料は免除されます。
今回の改正で、本来の目的通りに育児休業をとる人のための免除制度になったといえるでしょう。
著者:早瀬 加奈子
会社員時代は、楽器小売業の会社で10年以上経理に携わっていました。
現在は専業のWEBライターとして活動しています。
香りを楽しむことが好きなので、夜はアロマテラピーでリラックスするのが私にとってのストレス解消法です。
趣味は街歩き、美容、料理、映画鑑賞など。