前回の記事において説明した障害者雇用における3つのステップのうち、今回は障害者雇用の企画について解説していきます。
障害者雇用の企画を上手く進めることが出来ずに頓挫してしまうケースも数多くありますので、ここでは、障害者雇用を軌道に乗せるための4つのポイントについて説明します。
障害者雇用の進め方=①企画×②採用×③定着サポート
①企画:雇用の狙いの明確化、社内啓発、職域開拓、推進体制など
前回の記事で、障害者雇用の狙いとして、業務の再構築や人材の採用・育成といった会社としての重要課題と紐づく形で考えると成果が出やすい、と書きました。
一方で、障害者雇用を会社としての重要課題と紐づけるには、トップダウンで会社を動かしていく必要があり、合意形成のハードルが高いことも事実です。
ですから、理想論はあるにせよ、現実問題として、まず目の前にある採用ニーズからボトムアップ的に考えて進めていくことも必要になります。
トップダウンにせよ、ボトムアップにせよ、大切になるのは社内啓発です。
ポイント1:社内啓発の重要性
現在、人事部などの間接部門だけの部署で、障害者雇用率を達成するのは困難になりつつあります。
例えば、従業員数1,000人の会社があったとした場合、この会社の障害者雇用率は1,000人×2.2%=22人です。
人事・総務・経理などの間接部門の人員は、あまり大きな規模でないことがほとんどであり、仮にこの会社の間接部門の人員を全社員の10%の100名と仮定した場合、100名の中だけで22名の障害者を雇用することになります。
これでは、周りの負担が大きくなってしまいますので、営業や生産などの直接部門での採用が求められます。
しかし、直接部門では、障害者雇用の経験がないケースが多く、拒否反応が出ることもあるため、採用の取り組みと併せて、障害者雇用の必要性についての啓発も進めていくことが必要になります。
もう一つ、啓発が大切な理由として、最近は企業に採用される障害者の種類が大きく変わっている点が挙げられます。
2017年度のハローワークを介した就職マッチング97,814件の障害種別の内訳は、身体27%、知的22%、精神46%となっています。
これが10年前の2008年度においては、同43,968件のうち、身体51%、知的27%、精神22%となっており、身体障害の割合が大きく減少し、精神障害の割合が大きく増えていることが分かります。
精神障害はぱっと見た目で分かりにくく、どのような関わり方をしていけばよいか、現場も不安になりがちです。
したがって、どのような障害があるのか、またどのような配慮をすればよいのか、といった事を伝えることで、現場の不安感を取り除くことが必要になります。
ポイント2:引き算型と足し算型の職域開拓
職域開拓とは具体的にどのような仕事に取り組んでもらうかを考える事です。
職域開拓の基本は、当たり前のことになりますが、採用ニーズがある所です。
例えば、既に求人がある、時間外労働が多い、今後社内で成長させていきたい分野である、派遣スタッフを多く活用している、といったところに採用ニーズが発生します。
おそらく採用側としては、その採用ニーズに直接当てはまる人材を採用したい、というのが本音ではないでしょうか。しかし、それだけで上手くいくことはめったにありません。
そこで必要となる考え方が<引き算型の職域開拓>です。
これは、例えば既にある求人の業務を細かく分解して、障害者が苦手な業務や障害特性上できない仕事だけを除いて実施してもらう、という考え方です。
車椅子の身体障害者は、思い荷物が運べないかもしれませんし、人とコミュニケーションが苦手な発達障害者の場合は、電話応対が出来ないかもしれません。
このように、多くの業務は通常通りやってもらうのですが、一部の業務だけを差し引く(=引き算)形の職域開拓になります。
メリットとしては、基本的な業務やオペレーションは変わらないので、比較的スムーズに取り組みやすいことが挙げられます。しかし、対象となる障害者が限定されてしまいやすいのがデメリットです。
次に、やってもらいたい仕事はありますが、社内で既にある職種として求人が出せない、という事があるかもしれません。その場合にお勧めしたいのが<足し算型の職域開拓>です。
足し算型の職域開拓では、多くの部署や担当から仕事を集めてきて、障害者の仕事として再構成します。
少しずつの業務でも切り出してくることが出来るので、様々な業務を切り出し、障害者に合わせて業務を構成できるので、自由度が高く、多くの障害者が対象になる可能性があります。
一方で、業務オペレーションを変えることで影響範囲が大きくなりやすいので、本当に業務が回るか、慎重に進める必要も出てきます。
ポイント3:どのように行うか(=HOW)について考える
職域開拓においては、何の業務を行うか(=What)だけではなく、どのように行うか(=How)について考えることも大切になります。
例えば、IT職種で障害者雇用をしたいという相談があったとします。一言でIT職種といっても様々な業務があります。システムエンジニア、プログラマ、デバッガなどです。
業務自体はその業務を担うことが出来るスキルを持っているかどうかで判断できますが、併せて留意を頂きたいのが、その業務をどのように行うかになります。
特に「納期の長さ」、「コミュニケーションの複雑さ」、「判断力の必要性」について考えて頂くことが大切だと考えています。
納期が短いと精神障害者にとってストレスにつながりやすいですし、コミュニケーションが複雑だと発達障害者は上手く対応できないかもしれません。
判断力が必要だと知的障害者にとってハードルが高いかもしれません。
あくまで1例ですが、このように、IT職種が向いているかどうかだけではなく、どのように取り組むのかまで視野に入れて考えることで、本当にできるかどうかをより具体的に考えられるようになります。
ポイント4:本部と現場との役割分担によるより良い障害者雇用の実現
業務については現場が一番理解していますので、障害者雇用の企画段階から関わって頂くことは必須になります。
一方で、目の前の業務に忙しく、会社にとっての狙いの理解や啓発、職域開拓の方法、雇用管理の知識を身に着けるといったところまで手が回らないのも現実だと思います。
そこを補完するのが人事部をはじめとした本部の役割です。雇用の狙いの明確化、社内啓発、職域開拓までが一貫して整理されるように、全体のコーディネートする部分を担って頂くことで、本部と現場が役割分担した形でうまく進めやすいのではないかと思います。
以上、障害者雇用を企画する上で大切な4つのポイントについて説明しました。このポイントが、会社全体としてより良い障害者雇用を目指すための一助になれば幸いです。
著者:窪 貴志
2010年以降、中小企業から大手上場企業まで、企業への障害者雇用コンサルティングを行っている。特例子会社の立ち上げも含め、障害者の採用支援や職場環境構築に積極的に取り組む。 民間企業、地方公共団体等において、障害者雇用促進のための研修やセミナー実績多数。