これまで、基本的な経営戦略をいくつかご紹介してきましたが、今回は具体的な企業の事例をもとに、各戦略理論を振り返ってみたいと思います。
これまで紹介してきた戦略理論は、けっして机上の空論ではありません。実際の応用例に触れることによって、さらに戦略理論の理解が深まることでしょう。
経営戦略が昔と違った事例「トイザらス」
ひとつの経営戦略が未来永劫続かないといった事例が、近年の玩具小売業「トイザらス」に如実に現れています。
トイザらスが1991年に日本に進出した際は「黒船襲来」と恐れられました。
それまでの日本の玩具小売業は、問屋経由で商品を仕入れ、商店街の一角で商売をしていましたが、トイザらスは問屋を通さず、メーカーから直接商品を仕入れ、大型店舗でセルフサービス販売する商法で一世を風靡しました。その影響で従来型の日本のおもちゃ屋さんはほぼ淘汰されてしまいました。
そのトイザらスですが、本家アメリカの法人はAmazonなどのネット通販に襲われ、業績が低迷し、2018年についに倒産してしまいました。
現在日本法人は従来どおりに営業していますが、ビジネスモデルを常に見直さなければ生きていけないことが、しみじみ痛感される事例です。
【参考】NAVER「米トイザらスの破産報道が!日本のトイザらスはどうなるの!?」
戦略ドメインを変換し成功した事例「タニタ」
体重計で有名なタニタは、典型的に戦略ドメインを変換させて成功した企業です。
タニタは1923年シガレット・ケース、貴金属宝飾品製造販売、時計側製造を主業として創業しました。その後、軍から依頼を受けて通信機部品の製造を始めます。
その頃、精密機器メーカーとしてのドメインが作られたと言えます。その後、体重計のヒットで世界的に有名になりましたが、製造特許が切れることをきっかけに、新たな戦略ドメインの構築が必要になります。
そこで、始まったのが「タニタ食堂」や「タニタレシピ」などの新ビジネスです。
つまり、タニタは「精密機械企業」から「健康を測る企業」、「健康を作り出す企業」として戦略ドメインを発展させたのです。その結果、健康創造企業としてのイメージを確立し、業容範囲を拡大しています。
【参考】株式会社タニタホームページ
市場浸透戦略の事例「カメラのキタムラ」
現在の市場に対して、深く浸透していく戦略を徹底したのが、かつてのカメラのキタムラであると言えます。
デジタルカメラやスマートフォンの急速な普及に伴い、写真に関する消費パターンがフィルムに移して印画紙に焼き付けるというものから、データで保存して必要に応じてプリンタで印刷するという消費パターンに変化していきました。
しかし、カメラのキタムラでは、敢えて縮小する市場にも焦点を当て、既存のDPE(現像・焼付け処理)チェーンを買収するなどして、「最後まで食い尽くす」という戦略を取りました。
究極の市場浸透戦略とも言えます。結果的には、大量閉店に追い込まれていますが、市場浸透戦略の一つの方向性を示唆している事例と言えます。
【参考】企業家倶楽部「特集第2部 キタムラの強さの秘密 Secret of strength of KITAMURA/世界一の店舗数を武器に写真の価値を再構築」
製品開発戦略の事例「Apple・小林製薬・セブンイレブン」
製品(商品)は、売上を上げるための最大の要素であり、企業活動の中心的要素であるといえます。その製品を消費者のニーズに合わせて、次々に提供していくことは事業者の使命とも言えます。
では、具体的にどんな製品開発の事例があるのでしょうか?
Apple社の多様な製品戦略
Apple社では、ユーザーの使いやすさにとことん拘ったマッキントッシュコンピュータを皮切りに、ミュージックプレーヤーのiPod 、タブレットPCのiPad、キーボードを無くしたスマートフォンのiPhoneなど、使いやすくオシャレなデザイン性を持つ製品を次々に開発し、Appleファンを取り込んでいく展開をしています。
小林製薬の新製品開発戦略
「熱さまシート」や「ブルーレットおくだけ」で有名な小林製薬では、「あったらいいな」という消費者目線の新製品開発を、売上目標の10%に掲げているユニークな製品開発戦略を続けています。
全社員から集められる「あったらいいな」に関する新製品アイディアは、年間5万件にも上り、採用されたアイディアに対して売上高の一定率を還元するという労務管理制度も相まって、21期連続増益の好業績を続けています。
セブンイレブンなどの流通企業による商品開発
セブンイレブンやイオンなどの大手流通企業では、近年、自社企画製品を持つことが重要な戦略になっています。
通常、小売業や卸売業などの流通業は、自社で製品を生産することは出来ませんが、大手流通業を中心として、メーカーに対して自社の要望(仕様)にもとづく製品の開発を依頼し、全量を買い取ると言う「プライベートブランド」という方式を活用して商品開発を進めています。
プライベートブランドの開発により、消費者に対して低価格で安定的な商品供給が出来ることが大きなメリットになっています。
市場開拓戦略の事例「ユニ・チャーム・キリン・アサヒなどの消費財メーカー」
近年、少子高齢化の急速な進展に伴い、国内の消費市場はどんどん縮小しています。
特に消費者が直接購入する食品・日用雑貨・化粧品などの消費財に関しては、大手メーカーもパイの奪い合いだけでは消耗戦になると考え、こぞって海外進出を行っています。
ユニ・チャームは1990年代からアジアを中心に現地法人を設立し、生理用品やおむつを生産・販売しています。
キリンやアサヒなどのアルコール飲料メーカーも、2009年頃から活発に海外企業を買収したり、現地企業と合弁会社を設立したりして市場を開拓しています。
これまでの海外進出というと、海外の低廉な労働力を活用し、低コストで生産した製品を国内向けに逆輸入したり、先進国向けに販売したりしていました。
しかし、近年はアジアを中心とした新興国の消費者向けに現地生産・現地販売する動きが盛んです。しかも、人口が増加しているこの地域には将来的なパイの増加も見込めます。
まとめ
戦略理論別に実際の企業事例を見てきましたが、いかがだったでしょうか?
企業戦略の基本は、案外実際のビジネスにも応用されていることが、実感できたのではないでしょうか?
これらの理論を実例とともに理解していくと、自社の戦略も立案しやすくなります。ぜひ自社のビジネスモデルの検討にも、基礎理論を一度当てはめて、検証してみることをお勧めします。
著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。