こんにちは!栗原誠一郎です。
高輪ゲートウェイ駅で無人コンビニ店舗が開店
3月23日、JR東日本の高輪ゲートウェイ駅で無人コンビニ店舗「TOUCH TO GO」が開店しましたね。50台のカメラが人間の「動き」を補足し、AIで何を買ったのかを正確に把握するという優れものです。人手不足問題を解消するためにこれから全国に展開していく予定とのことでした。
報道番組では、万引き犯のような怪しい動きをしても購入品を把握されていましたから、これからの世の中、スーパーも含めた店舗での万引き犯も激減し、万引きGメンも仕事を失うかもしれませんね。
この無人店舗のようにAIの進歩はどんどん加速し、生産性もどんどん高まっていくことでしょう。しかし、この高輪ゲートウェイ駅のコンビニも無人店舗とは言え、本当に無人で店舗を「運営」できるわけではありません。商品の補充はやはり人がやらなければなりません。
このように考えると、AIが進歩していくと人間の仕事は単調なものしか残っていかないのではないかと思っても仕方がないかもしれません。
映画「モダン・タイムス」が描いた世界
映画「モダン・タイムス」は喜劇王チャーリー・チャップリンの代表作で1936年に上演されました。世の中で機械化・自動化が進んだことで、人間が行う仕事は単調なものになり、まるで機械の一部のように扱われるようになる。この映画では、そんな人間としての尊厳が失われる時代を風刺していました。
機械化・自動化の流れはもちろん18世紀の産業革命から始まっている訳ですが、機械化・自動化の流れを一段上のレベルに引き上げたのがアメリカの大手自動車会社であるフォードが導入した「流れ生産方式」(=フォード生産方式)でした。
1913年に世界初のベルトコンベア式組み立てラインを導入し、それまで車一台で12時間半かかってていたの組み立て時間を2時間40分にまで短縮、生産性が飛躍的に向上したのですが、一方で、労働者はベルトコンベアの速度に応じて、同じ単純な取り付け動作を長時間行うということになった訳です。実際に、そうした単調な仕事の連続に耐えかねて、退職者が後をたたないという状況にもなりました。
映画「モダン・タイムス」はそうした状況を皮肉っているのです。
もちろん、このフォード生産システムは労働者を「豊か」にもしました。
生産性が飛躍的に伸びたお陰で、当時販売していたフォード車「モデルT」の価格は1913年に600ドルでしたが、1917年には360ドルまで下がり、一気に自動車の普及が進みました。高嶺の花だった車が一般的な労働者でも苦労することなく購入できるようになったのです。
また、フォード生産システムは生産性が高かったため、労働者に高賃金を支払うこともできました。1914年には日給を倍に引き上げ、労働時間も1日9時間から8時間に短縮したのです。これは当時の社会からすれば破格の労働条件でした。
仕事は「苦役」か?
このように話すと、高い給料をもらえて、生活も豊かになるんだから、仕事が例え辛くても我慢すべきだと言っているように思われるかもしれませんが、そうではありません。
確かに、フォード生産システムによって、単調化した仕事があったことは事実でしょう。そしてそれは人によっては苦役であったかもしれません。しかし、少なくともこのフォードシステムを生み出したフォード創業者ヘンリー・フォードⅠ世は、生産性向上(収益向上)のためには仕事は苦役であっても構わないとは思っておらず、更なる人間の幸福を追求しようとしていたのです。
トヨタ生産システムの生みの親である元トヨタ自動車副社長の大野耐一氏が執筆した「トヨタ生産方式」の中で、ヘンリー・フォードⅠ世が私企業の未来、産業の未来について述べた言葉を引用しています。
産業の終着点は、人々が頭脳を必要としない、標準化され、自動化された世界ではない。その終着点は、人によって頭脳を働かす機械が豊富に存在する世界である。なぜならそこでは、人間は、もはや朝早くから夜遅くまで、生計を得るための仕事にかかりきりになるというようなことはなくなるだろう。産業の真の目的は、一つの型に人間をはめこむことではない。また働く人々を見かけ上の最高の地位にまで昇進させることでもない。産業は、働く人々をも含めて公衆に、サービスを行うために存在する。産業の真の目的は、この世の中をよくできた、しかも安価な生産物で満たして、人間の精神と肉体を、生存のための苦役から解放することにある。
(大野耐一「トヨタ生産方式」p184)
大野耐一氏はこうしたヘンリー・フォードⅠ世の残した言葉に触れ、フォード生産システムは後継者がヘンリーフォードⅠ世の真意を理解せずに継承されてしまったのではないかと上述した著書で述べています。
AIの進化の先にあるのは「モダン・タイムス」の世界か?
AIの進化も、フォード生産システムのように、何を目指すのかという点を見失えば、その先には「モダン・タイムス」の世界が待っているかもしれません。
しかし、そうではない未来も当然あるはずです。
大野耐一氏の後継者でもある現トヨタ社長豊田章夫氏は実証都市開発プロジェクトのPRの中で「所詮、未来を創っていくのも人なんですよ。そうすると、その人が未来をウェルカムと思う、未来を心待ちにするものがないとできない。」といって、人がコントロールするはずのAIやロボティクスが、逆に人をコントロールするようになるのではないかという危惧を否定しています
生産性向上は、単なる収益向上の手段ではそもそもないのです。「人間の精神と肉体を、生存のための苦役から解放」するために、どうAIを使っていくのか、そのしっかりとしたスタンスが産業界には求められているのだと思います。
さて皆さん、そして皆さんの会社はAIを使ってどんな未来を実現しようと思っていますか?