売上の安定化を図る手法として、近年「サブスクリプション」といわれる販売方法が注目されています。
サブスクリプションとはどんな経営手法なのか?なぜ、売上の安定に役立つのか?中堅中小企業にも広く導入が可能な、サブスクリプションの方法やトレンドを見ていきます。
サブスクリプションとは?
サブスクリプション(以下サブスク)とは、そもそも「定期購読」とか、「定期購入」などと言われてきた販売手法です。
商品の購入は、商品ごとの対価を支払うことで売買が成立しますが、サブスクは、一定期間一定価格で商品やサービスを購入(利用)する権利であると言えるでしょう。
新聞や雑誌などは、昔から1年間単位での販売が行われていました。そういった意味では、以前から実践されていた販売方法です。
最近は、モノとしての商品だけでなく、音楽配信やソフトウェアの利用、カーシェアなど、サービス分野においても広く普及しています。
特に近年、モノ的な商品分野で良く活用されるのは、通信販売分野です。特に健康食品や化粧品など、長く継続的に使用する消費財を中心に活用されています。
通販での手法としては、まず、インターネットやTV・ラジオなどの媒体を活用し、お試し少量サンプルを配布し、消費者に効果を確認してもらいます。サンプルの使用効果に満足した消費者を定期購入に誘導します。
サンプルはほとんどの場合、無料が多いようですが、サンプルを受け取るにはメールや電話番号など、その後「追跡できる」連絡方法を販売会社に告知する必要があります。
その連絡方法を通じて、コールセンターのオペレータがサンプルの使用感を消費者に尋ねるとともに、定期購入に勧誘するわけです。
サブスクが売上安定化に役立つ理由
サブスクでは、顧客から解約を申し出ない限り、商品の販売が自動継続します。
つまり、新たな販売活動が不要になるにも関わらず、「顧客数×定期購入額」で売上が安定して積み上がっていくわけです。
しかし、その間、販売会社は積極的な販売活動は必要ないものの、各社では、積極的な顧客フォローを行っています。
定期的にコールセンターのオペレータから、商品の使用感や不満を聞き出すとともに、商品以外の悩みまで相談に乗ることもあり、顧客の視点に立って徹底したフォローを行うことにより、顧客の離反を防止しています。
さらに、膨大な顧客との通話記録はデータベース化され、商品の改善や新商品開発に活かされ、さらに売上の増加につなげています。
モノ的商品以上に収益に貢献しやすいのがサービス分野のサブスクです。
サービス分野のサブスクでは、定額売上に対応する製造や仕入れコストがほとんどないため、高い収益性が期待できます。
新たな分野でのサブスク活用の可能性、そのメリット・デメリット
サブスク手法は、消費財の分野で活況を呈していますが、実は産業材の分野でも活用が始まっています。
例えば、産業用に使用される製造や物流、通信機器などは、一般的にリースなどの手法によって導入し、長期間使用することが当たり前でした。
しかし、製品のライフサイクルが非常に短くなった現代、製造や物流に使用する機器も、常に最新鋭にしておくことが求められています。
しかし、一度機械設備を導入すると、基本的には同じ性能の物を使い続けなくてはなりません。
状況が変わって新たな機器を導入する必要があっても、現設備のリース残を含めて再リースすると、リース料が上昇するわけですから、その度に最新機器を導入するには、資金的に大変でした。
そこで、一定額を支払えば、常に最新機器を利用できる、「産業用機器のサブスク」が始まっています。
豊田自動織機では、ネット通販事業者に対して、自律走行する高性能な搬送車(倉庫内で商品を移動させる車両)を、定額課金で提供するサービスを開始しました。
ネット通販事業者においては、商品の取扱量の変化が激しく、借りる倉庫の面積も頻繁に変わるため、保有する搬送車の数や機能が、すぐ現状に合わなくなることが大きな課題でした。
この課題に対して、同社では、一定額で最新機器を提供するサービスを開始したわけですが、同社としても「脱売り切り」で顧客と長く接点を持ちながら、利用状況のデータを使い製品開発に生かすことができるというメリットがあるということです。
しかし、産業用のサブスクの場合、顧客企業のニーズの変化に対応して、常に技術開発や設備投資を行う必要があるため、収益とのバランスや競争状態も考慮する必要もあるでしょう。
【参考】日本経済新聞「サブスクの波BtoBに 常に最新機種・追加料金なし」
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO59647090X20C20A5TJ3000?unlock=1
まとめ
サブスクリプションの手法は、実は従来から存在していた販売手法です。
従来は新聞や書籍などの分野が中心でしたが、ネット通販や産業用機器の販売など、対象分野を新しくすることで消費者や企業に新たな満足を提供しつつ、売上の安定に貢献できる手法であることがお分かりいただけたと思います。
さらに、顧客との関係維持を続けることにより、そのニーズの変化を汲み取り、新製品開発などに活かしていることも、この手法のメリットですね。
また、サービス分野での収益性の高さも注目したいところです。
私達中堅中小企業においても、従来の販売方法に固執せず、導入を検討してみたいものです。
著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。