景気後退期の黒字倒産回避~資金繰りに成功した事例
企業の紹介
企業名: 株式会社bydesign
事業内容:
・インテリアの企画・製造・販売
・インテリアの仕入・販売
・その他EC・D2Cに関する事業
資本金:600万円
HP:https://bydesign.co.jp/
事業の概要
2016年12月創業の株式会社bydesignは、こだわり家具の直輸入とサイズ・材料をカスタマイズできるセミオーダーのインテリアを扱うオンラインショップです。
品川に自社スタジオを持ちインテリアの価値提案にも力を入れています。生産工程は外部委託しインテリアの企画・販売に集中している点が特徴です。
トランザクションレンディングを活用するきっかけ
bydesignのビジネスモデルは、海外直輸入の前払い金支払いのため相応の運転資金が発生する一方、生産工程完全外部委託のため大規模設備資金は不要とするものです。
政府系金融機関から創業資金を調達後、運転資金を従来型金融機関に申し込んだところ、業歴の浅さと黒字転換できていなかったため、前向きの回答を得られませんでした。
そこで活用したのが、決算書提出・面談不要の「トランザクションレンディング」でした。
トランザクションレンディング活用の具体的内容
(1)ビジネスモデルにマッチした資金調達手法を獲得して順調に事業が成長
トランザクションレンディングは、EC上の販売実績や消費者レビュー、決済情報などデジタルデータをAI等が分析し融資の可否を判断するものです。
返済期間が短く金利も高いというデメリットもありますが、無担保・無保証で大口の家具等仕入資金が最短当日借入可能な資金調達方法です。
提供しているのがネット銀行のため、従来型金融機関より手数料が安く、取引履歴の取得が容易である等利便性があります。
そして、返済期間が短くても問題の無いビジネスモデルであることも相まって、現在でもトランザクションレンディングがメインの資金調達手法となっています。
コロナ過のイエナカ需要もあり事業は順調に成長中とのことです。
(2)事業の成長に伴い従来型資金調達手法も獲得
オンラインショップの順調な成長もあり、ブランティング強化のため実店舗の出店を計画。
トランザクションレンディングは設備資金には使えないため、従来型金融機関に改めて融資を申込。
業歴の積上げ、コロナ禍にマッチしたビジネスモデルであることから今度は前向きの回答をもらっているとのことです。
事例から学べる事
以下のようにビジネスモデルと企業成長サイクルに見合った資金調達方法を獲得し、事業を拡大させています。
①創業資金:株式会社日本政策金融公庫の創業融資と品川区のあっせん融資
②運転資金:トランザクションレンディング(ネット銀行)
③設備資金:従来型金融機関の融資(デット・ファイナンス)
今後は、突発的な資金調達手法として従来型金融機関からコミットメントラインも活用できるはずです。
この活用で短い返済期間と高い金利というトランザクションレンディングのデメリットを補えます。
さらなるブランティングのため、出資者との距離を縮めるクラウドファンディングも魅力的な資金調達手法です。
また、コロナ明けの環境変化に伴う事業戦略見直しの際には、資本制劣後ローンやエクイティ・ファイナンスを活用し、個人経営から企業経営へ脱却することも視野に入れるべきでしょう。
このように多様な資金調達手法を獲得することで、ビジネスモデルの転換や企業規模の拡大に円滑に対応できるようになります。
中小企業白書2021:事例2-1-8
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/chusho/b2_1_2.html
BCPではない、日常業務と紐づけした事業継続活動の取組み事例
企業の紹介
企業名: 北良株式会社
事業内容:
①ガス事業:家庭用ガス、産業用ガス、医療用ガスの製造、供給、販売、設備設計、保守管理など
②医療サービス事業:呼吸器系の医療機器供給、在宅医療サービスなど
③電力事業:ソーラーパネル発電による電力サービス「いわて電力」の運営
資本金:1,000万円
HP:https://www.hokuryo.biz/
事業の概要
昭和25年、トラックによる酸素ガス配送で創業。昭和35年、LPガス販売開始。
ガスの製造・販売は、鉄工所を相手とする産業用から家庭用、医療用に拡大。
現在ではソーラーパネルによる自然エネルギーサービスの運用や在宅患者向けの医療サービスも手掛け、岩手県北上市を中心に地域のインフラを支えています。
特にメガソーラーで得た収益で、災害に強い社会づくりに資する人材育成と機器を開発。
災害支援車両や在宅医療安否確認システムを開発して、地域との結びつきを強めている点に特色が現れています。
事業継続力活動に取り組むきっかけ
事業継続への意識が高まったきっかけは、2008年の岩手・宮城内陸地震でした。続く東日本大震災(2011年)で新たな経営課題が露見したこともあり、事業継続を最優先する経営計画を策定し始めました。
事業継続力活動の具体的内容
北良株式会社の事業継続活動の特色は、「立派なBCPのみを策定しても、想定外のケースに対応できるとは限らないし、『災害のため』だけを意識した取組は続かない。」との笠井社長の考えがありました。
BCP(事業継続計画)は策定せず、通常の経営計画及び日常の企業活動、事業継続に向けた施策を組入れ、新事業や製品開発もレジリエンスな社会づくりに資する方向にむけられています。
社員はもちろん、日頃から結びつきの強い地域企業や行政も巻き込んで、事業継続活動を展開している点も特色です。
実際の事業継続活動は、詳細なルールに基づいて実施されるものから、基本的方針や判断基準だけ定めている部分もあり、災害タイプに合わせ対応できるようにしています。
そのため、毎月実施される非常用器具の点検や毎年実施される訓練から、コロナ禍の迅速な社内体制・テレワーク体制整備まで実践的な活動が可能になっている点が強みです。
ステークホルダーを巻き込んだ活動から、様々な情報や課題を収集して活動の幅を広げている点もこの形態のメリットとなっています。
コロナ過の消毒用アルコール不足という悩みを聞き、ステークホルダーと一緒になって消毒用アルコールを製造・無償配布を開始。これが地域での信用力を高め、新事業に繋りました。
事例から学べる事
部門横断のチームで毎月点検・年2回訓練することで、ステークホルダーとのプロセスや必要資産、相互依存関係性の明確化と許容度を把握、コロナ過での最適な社内体制の迅速整備を可能にしました。
日頃からステークホルダーとの信頼関係を大事にしていたことで、悩み等市場のニーズが自然に耳に入る企業コアの可視化にも成功。
ニーズに迅速に対応することで信用及びイメージがさらにアップし、新事業創出につなげています。
日常業務に事業継続活動を紐づけすることは、こうした成果を生み出し、教育訓練費又は新事業開発費、定着率向上費として投資効率の高い施策となっています。
さらなるレジリエンスの強化のため、企業コアプロセスのデジタル化とデジタルレジリエンスの構築が望まれます。
地域住民やステークホルダーとの関係をさらに深め、悩みだけでなくアイデアも収集できるオープンイノベーションやUGC(ユーザー生成コンテンツ)環境を整備することで、新事業創出負荷を軽減していくことも視野に入れるべき段階にあるといえるでしょう。
中小企業白書2021:事例2-1-10
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/chusho/b2_1_3.html
おわりに
今回リセッションになればリーマン・ショック以上の景気後退が世界経済にもたらされる一方、様々なイノベーションが生まれるのが歴史的必然です。
しかし、実際の危機の下では「資金繰りの改善」に追われることは「2021年版中小企業白書」で紹介した通りです。
危機前に柔軟な資金調達手法を獲得しレジリエンスな組織を作っていれば、こうした環境変化に対応できるだけでなく、飛躍的な企業成長のチャンスをつかめるのです。
アメリカのリセッションを機とする世界規模の環境変化は今回紹介した事例以上のチャンスを中堅中小企業にもたらすでしょう。
著者:maru
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。