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中堅中小企業のフリーミアムビジネス事例研究/フレックスジャパン

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フリーミアム戦略というと、ITやコンテンツなどのデジタルサービスを思い浮かべがちですが、実物製品の分野でも活用している事例があります。

衣料品の製造販売でフリーミアムを実現している株式会社フレックスジャパンです。

同社の事例をもとに、実物製品を製造販売している中堅中小企業にも可能なフリーミアム戦略の手法を、学んでいきましょう。

株式会社フレックスジャパン

同社は、長野県に本社を構える、メンズドレスシャツ、レディスシャツ、シャツ、ジャケット、ベスト等の企画、製造、販売を行うアパレル企業です。
「軽井沢シャツ」のメーカーとして有名です。

資本金は10億円、売上高100億4,300万円(2019年2月期)を計上しています。

アパレル企業としては中堅処と言えますが、ドレスシャツメーカーとしては、最大手です。
同社の業歴は古く、前身は、江戸時代より繊維商を営んでいました。

ファッション業界のニーズ変化

同社を取り巻くファッション業界は今、構造不況に陥っています。特に伝統的なアパレル企業は深刻な状態に陥っています。

ファッション業界は、洋服の企画を行うアパレル企業が中心的な役割を果たしていました。

アパレル企業は生地メーカーや商社から生地を仕入れ、提携している縫製工場に製造を依頼し、完成した服を全量買い取り、小売店に流していきます。

アパレル企業が衣料品業界で中心的な役割を図っていた時代、洋服はデザイン性が重視され、価格も高価でした。それを他人に誇る消費者特性もありました。

その流れを劇的に変化させたのがユニクロの出現です。ユニクロは、それまで高価格でファッション性を競う風潮に疲れた消費者に対して、低価格で着心地の良い製品を提供し、大ヒットしました。

消費者が望むものは、他者との比較というより、自分のライフスタイルにフィットしたものを低価格で購入したいというものに変化していきました。

つまり、消費者は、「実質的に良いものかどうか」ということを判断しながら購入するようになったということです。

フレックスジャパンのフリーミアム戦略とその特徴

業界の共通課題にチャレンジ

フレックスジャパンは、そういった消費者の、実質的に良いものかどうかというニーズにジャストフィットするフリーミアム戦略を構築しています。

洋服の販売方法は多様化しています。従来は、店舗で販売員がコーディネイト提案、サイズ選び、フィッティング(試着)などを行っていましたが、最近はファストファッションを中心にして、ネットショップによる販売が拡大しました。

ネットショップでは、24時間365日いつでもどこからでもアクセスできるため、利便性は高いのですが、肝心のフィッティングが出来ません。

そのため、サイズ違いなどを心配して購入を控える消費者も多いものです。

同社では、そこに目を付け、フリーミアム戦略を構築しました。

同社では、シャツのネット販売サイト「プラトウ」を、2010年6月から開始しています。そして、同年8月からフリーミアムを開始しています。

フレックスジャパンの常識を破るフリーミアム

アパレルの通販では試着が出来ない事が最大のネックですが、同社では、消費者の求めに応じて、何と新品のシャツを1枚無償で提供しています。

そのことによって、集客効果と顧客の不安感を払拭できています。
同社ではサンプルをレンタルすることも考えましたが、一度袖を通したシャツを返却してもらって再販売することは難しいと考え、思い切って試着品を無償提供することにしました。

このフリーミアム戦略は、単に顧客満足を勝ち取るだけでなく、同社の強みを消費者に知ってもらう機会になりました。

競合他社のシャツの多くが、「首回り2cm間隔・袖丈4cm間隔」で商品をリリースしているのに対して、同社では「首回り1cm間隔・袖丈2cm間隔」と、きめ細かい品ぞろえを提供しています。

この戦略によって、プラトウのシャツは、「自分にピタリと合う」というメリットを消費者に印象付けることに成功しました。

綿密な計数戦略

同社は自社製造ラインを持ち、OEM(相手先ブランドによる生産)供給も行っています。

そのため、製造原価が通常よりも大幅に安いシャツの在庫を常に一定量持っています。
そのため、無償で提供しても販促費として考えることが出来るほどの金額で対応できるのです。

また、サイズの選択肢が広いことは、一般的には不良在庫を抱えるリスクになりますが、売れにくいサイズに対しては受注生産を行っています。

その受注生産も、既製品の生産が落ち着く隙間時間を使って生産しています。

その分、納期は長くなりますが、逆に体のサイズにジャストフィットするシャツを作る企業イメージもあり、消費者には納得してもらえると判断したそうです。

同社はフリーミアムを開始した2010年8月から、消費者に1年間で6070枚のシャツを無償で提供しました。その間に、有償のシャツ販売で、約2100万円の売上を計上でき、販売単価も当初の1300円前後から1600~2000円程度まで上昇しています。

さらに同社では、2017年からこのフリーミアム戦略をパワーアップし、「無料試着シャツサンプル・無料貸し出しジャケット・生地サンプル無料送付」と、一挙3種のフリーミアムを開始し、更なる顧客満足政策を押し進めています。

まとめ

フレックスジャパンの成功は、IT以外の分野でのフリーミアム戦略の展開について、私達中堅中小企業にとって、大いに参考になる事例と言えます。

手法そのものもユニークですが、衣料品に対する消費者ニーズを的確にとらえている点が特筆すべきです。

また、業界全体の課題に対して、自社の強み(豊富なサイズ構成など)を活かせる方向で思い切った解決方法を立案し、一方で採算性もしっかり念頭に置いていたことも、注目すべき点です。

今後、実物製品を扱う企業にとって、応用例を考える良い機会となるでしょう。

著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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