我が国のメールマガジン配信の老舗である「まぐまぐ」が9月28日、ジャスダック市場に上場しました。
同社は、従業員わずか31人の企業ですが、サブスクリプション戦略によって起死回生を図った企業です。同社のサブスクリプション戦略の取り組み方法や特徴を分析してみます。
株式会社まぐまぐ
同社は、東京都品川区西五反田に本社を構えるメディア配信企業です。同社事業は1995年、創業者の大川弘一氏が個人事業として会社ユナイテッドデジタルを設立したことに始まります。
その後、1997年に ユナイテッドデジタルのひとつの事業部門として、メールマガジン配信サービスのサイトが誕生しました。
同社では、「伝えたいことを、知りたい人に」という企業理念のもと、多くの方々に、広く当たり前に使われるサービスを届けたいという想いでサービスを提供しています。
主なビジネスは、無料のメールマガジン配信による広告、有料メールマガジンをサブスクリプション方式で販売しています。
さらに、近年では、Web事業にも参入し、ニュースメディア「まぐまぐニュース!」や記事販売プラットフォーム「mine」、恋愛Webメディア「by them」、ライブ配信機能「まぐまぐ! Live」などのサービスも展開しています。
2019年9月期の売上は7億1,300万円、経常利益は2億600万円、純利益は1億4600万円となっています。
株式会社まぐまぐの主要戦略とその経緯
当初、メールマガジン配信による広告収入を主な収入源にしていた同社ですが、2008年に起こったリーマンショックにより企業からの広告収入が激減し、業績が低迷しました。
その後2014年に投資ファンド運営のニューホライズンキャピタル(NHC、東京・港)が同社の経営権を取得し、本格的な支援に乗り出しました。
しかし、主力のメルマガ事業の売上高を拡大するために、掲載する広告を増やした結果、「迷惑メール」と非難され、読者が減少していきました。
その時から同社では、「書き手の伝えたいことが届くようサポートするのが使命なのでは?」と、原点に立ち返るべきだと考えるようになりました。
その後、ビジネスモデルの転換を進め、収益をメルマガ広告に依存する構造から脱却するため、読者から購読料を徴収する有料課金モデルを開始します。
メルマガの内容を一部紹介するサイトも相次ぎリリースしました。
その結果、2014年11月期に5.7%と低迷していた経常利益率は、2019年9月期には何と28.9%にまで上昇しました。
株式会社まぐまぐのサブスクリプション戦略の特徴
無料のメールマガジンにインターネット広告を載せる事業で成長した同社でしたが、有料メルマガをサブスクリプション方式で提供する事業を加えることで、大きく業績を伸ばすことに成功しました。
そのサブスクリプションの成功の要因や、他の事業に対する波及効果は次のようなものです。
SNSとは一線を画す本物のコンテンツ
同社の有料コンテンツはホリエモンをはじめ、芸能人や経営者、政治家まで各界の有名人がクリエイターに名を連ねています。
エッジの効いたユニークな内容のものが多く、多くの読者を魅了しています。
メルマガの内容は、芸能・政治・経済・趣味・スポーツ・資格など多岐にわたり、料金も1か月あたり数百円がメインで、気軽に専門家の情報を得られるツールになっています。
メールマガジンを使った定期購入ビジネスモデルは、一見地味な印象も受けますが、他にない独自のコンテンツを、言わば「閉ざされたツール」としてのメールで配信するものです。
これはSNSなどの、一般に広く「開かれたツール」と違い、模倣や類似が出にくく、固定ファンを作ることに貢献しています。
さらに、文字だけのコンテンツではなく、画像や動画も使用され、ホームページ作成に使用されるHTML言語で自動表示することも出来るため、見栄えが非常に良いことが特徴です。
サブスクの源泉はクリエイターを大切にすること
まぐまぐは、伝統的に有料メルマガのクリエイターを大切に考えています。有料メルマガの売上をクリエイターとまぐまぐが「分け合う」ことや、現役のクリエイターから新たなクリエイターを紹介されることも多いようです。
上場の際の記者会見においても、再建の立役者である現社長の松田誉史氏は「メルマガ収入で生活するクリエイターがいる。持続的にサービスを提供していきたい」と話しています。
つまり、コンテンツを創り出してくれるクリエイターを尊重している考え方こそ、同社のサブスクリプションビジネスの大きな成功要因と言えるでしょう。
メディアミックスによる相乗効果
現在の同社は、メールマガジンだけにこだわらず、各種のWebサービスや動画によるコンテンツ配信サービスも展開しています。
そのため、メールマガジンのコンテンツを自社Webサービスに活用したり、Webサービスからメールマガジンコンテンツに誘導したりと、自社内におけるメディア交流により、メディア同士の付加価値を高め合う相乗効果も生まれています。
まとめ
同社の事業は、「伝えたいことを、知りたい人に」という企業理念を地道に貫き通しながら、時代の新しい波にも対応しつつ、成長軌道を進んでいるのでしょう。
多くの紆余曲折がありましたが、早くからコンテンツのサブスクリプション事業を手掛けることにより、小型ベンチャーながら、安定した収益を獲得しています。
ぶれない企業理念と新たな経営手法の柔軟な導入姿勢には、私達中堅中小企業が学ぶべき点が多いと感じます。
著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。