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DXに取り組む中堅・中小企業の事例「BtoC向けシステム企業」

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前回は、BtoBの分野として、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実践する建設業の取り組みをご紹介しました。
今回はBtoCの分野に対して、DXに取り組むソフトウェア企業について、事例をもとに中堅中小企業が得られる知見について紹介していきます。

DXに取り組むソリーション企業「株式会社シノプス」の紹介

同社は、大阪を本拠地とする、社員75名のソフトウェア企業です。同社では、経営ビジョン「世界中の無駄を10%削減する」を掲げています。

その実現のため、小売業・卸売業・製造業の流通三層の在庫を最適化する、自動発注・在庫最適化ソリューションsinops(自社開発システム)やコンサルテーション(物流診断・改善、棚割コンサル)を提供しています。

シノプス社がDXに取り組んだ背景

同社がDXを構築するきっかけとなったのは、同社の社員が、ある自転車パーツを扱う卸売業の会社を訪問したことでした。

5000もの品番がある部品在庫を、たった一人ひとりで管理しているのを目の当たりにし、その膨大な在庫を管理するシステムはあるが、需要を予測して効率よく発注する仕組みは無く、人間の経験と勘に頼るしか無いことを知ったことが、きっかけです。

そこで、「世の中にないなら、自社でつくってしまえ」ということで開発されたが同社の「sinops」システムでした。

その後、社内の大反対を押し切って小売業の発注・在庫システムに参入します。
さらに、秤(はかり)メーカーと協業することをきっかけに、スーパーマーケットへと販路を広げます。

【参考】株式会社シノプス
https://www.sinops.jp/

DXの概要

同社では、スーパーマーケットに対するDXで、その能力を遺憾なく発揮しています。

スーパーマーケットの中でも食品スーパーは、商品数が1万点を優に超える多品種業種です。
商品の発注作業だけでも、膨大な作業量になります。

商品を過剰発注すると、消費期限の短い生鮮食料品は、売れ残った商品が廃棄され、その仕入原価は、そのままその企業の損失に繋がります。
逆に、過少発注すると欠品が発生し、販売チャンスロスが生まれます。

つまり、発注の精度が食品スーパーの業績を左右すると言っても過言ではありません。

しかし、食品スーパーの商品数は多く、部門別に対応したとしても、その精度を上げるのは至難の業です。

そのため、食品スーパーの発注は、長年の経験と勘が必要とされ、システム化しづらい分野として、特定の担当者の能力に依存する傾向にありました。いわゆる、職人化していったわけです。

食品スーパーでは、生鮮食品と日配品(卵や豆腐、納豆、牛乳などの賞味期限が短い食品、あまり日持ちのしない食品のこと)が利益の約半分を占めます。

経常利益率が1%もあたり前という食品スーパーの中で、日配品のロス率が1%と非常に大きいため、値引きロスや廃棄ロスをどうやって減らすかが課題でした。

その課題に対して同社では、はエキスパート法によるAI機能を搭載した小売業向け需要予測型自動発注システム「sinops-R6」を開発しました。
エキスパート法とは、専門家の知見を一般の人でも活用しやすくしたAIシステムの開発手法です。

食品スーパーなどで取り扱われる商品には、牛乳・卵・豆腐・袋麺など、毎日配達される食品や、惣菜、パンなど、賞味期限が短く、週に何度もチラシ特売により価格も頻繁に変わる商品カテゴリがありますが、それらの最適な発注量を確定するのはとても困難な事でした。

さらに特売によって、こんなことも考えられます。
例えば、ある卵を10円引きで特売すると、どのくらい販売数が伸びるかという予測が必要になりますが、その代わりに、日頃良く売れている定番の卵がその影響を受けて、どの程度販売数が減るのかという予測も必要になります。

いわば、カニバリゼーション(共食い状態)をも正確に予測する必要があるのです。
カニバリゼーションを考慮しないと、その定番の卵も売れ残り、値引きシールを貼って販売することになり、値引きによる損失とシールの貼り付け作業もロスになってしまいます。

さらにその状態が悪化し、廃棄することになると、その損失は収益に甚大な影響を及ぼすことになります。

同社の「sinops-R6」では、過去のデータから商品ごとに販売価格別に数量PI(1,000人あたりの販売数)と言われる指数を自動計算するとともに、影響を受ける自社売場内でのライバル商品の数量PIも同時に計算することで、発注数量をコントロールします。

その機能により、過剰発注による値引きロスや廃棄ロスの軽減、欠品による販売機会ロス軽減という、トレードオフ(相反する)の関係にあるスーパーマーケット独特の課題を解決することが出来たのです。

まとめ(事例から学べること)

今回ご紹介したシノプス社から学べることは、「いかに固定観念と業界常識を捨てられるか」ということに尽きます。

同社の事例では、従来、小売業の発注とは、熟練した担当者が、経験や勘を元に行う業務でした。

しかし、反面、同社の技術は、その気になれば私たち中堅中小企業が、どうしても出来ないものではありません。

それでも、これまでどの企業も解決しえなかったのは、「小売業とはこういうものだ」とか、「発注とはこういうものだ」という固定観念が私たち中堅中小企業を支配していたからに他なりません。

つまり、裏を返せば、解決したい「コト」に着目出来れば、私たちの周りには、多くのビジネスチャンスが眠っていることでしょう。

今こそ、固定観念や業界常識から離れて、ビジネスを「再発見」出来る時であると言えます。

著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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