『最新の高級車を欲しいですか?』 という質問に、ハイと答える人は少なからずいると思います。
では、『友達と共同所有でもいいですか? 値段は人数分で割ったぶん安くなりますよ』・・・という質問に対してはどうでしょうか?
おそらく、この質問に対しては色々な理由や意見が出た上で、ハイとイイエは大きく分かれるかもしれません。
世代やその人の性格、住居、所有するお金・・・等々、色々な要素が条件となります。どちらかと言えば、現時点の日本ではイイエが多いかもしれません。
しかし、原則イイエの方も、
・共同で所有する相手による
・みんなが綺麗に使ってくれたら
・保険がきいていれば
などのように、条件が整えば「ハイ」に変わる人もいるかもしれません。
気持ちよく、うまくシェアして、まるで自分の車のように実感できるなら、所有するよりもシェアする方が、より安く必要な資産を必要な範囲で形成できるので効率的であり、資本を有効に活用していることになります。
本稿で取り上げたい「シェアによる変革」とは、インターネット社会を前提として「所有から共有へ」と世の中の経済活動や社会活動が変革していき、今後、それが当たり前の社会になることを予見するものです。
インターネット社会が生み出されてから20年以上がたち、人と人とのコミュニケーションが情報革命とも言える激変したこの社会で、ビジネスや社会は大きく変貌を遂げました。
そして、利用者が納得できるシェアという概念が経済活動や社会活動により多く採用されることで、世の中はより豊かに、より効率的になると予想されます。
上記の車所有のような質問すらも陳腐化し、シェアがデフォルト化する世の中は、もうそこまで来ています。
シェアビジネスの勃興① 〜 エスクロー決済
そもそも、シェアという概念を基軸とするビジネスは、そう新しい話ではありません。
ネットを通じて、世の中にいる同じ目的を持つ人たちが集まってコミュニティを作り、例えば皆で高度な計算をしよう、とか、皆が共同で作品を作ろう、といったような概念は、古くは1990年代のパソコン通信の時代から存在しました。
不特定多数の人に情報を発信し、情報を交換するインターネットの特性は、場所を問わない共有性や同時性を持ち、「シェア」という概念に高い親和性を持ちます。
より高速、大容量化し、アクセスできる場所も地域や後進国にまで、より広範囲になった現在、様々な分野で、多様な共同、共有、交換がインターネット上で実現しているのは必然の社会現象といえます。
しかし、その現象がシェアリングエコノミーと称され、一気に様々なCtoC(カスタマーtoカスタマー)のプラットフォームが勃興するようになったのは、日本ではこの4、5年のことかもしれません。
同様のCtoCの取引を行う代表的なプラットフォームは、ヤフオク(Yahoo! オークション)に代表されるように多数ありましたが、決済時に「インターネットは信用できない」という感覚を持つ層には普及しにくい側面がありました。
そのような概念を崩し、安心感を与える取引が“エスクロー決済※”です。この前払い方式がシェアビジネス勃興のきっかけだと言えます。
この決済方式は、売る人と買う人で合意した購入料金を、プラットフォームの運営者(以下、プラットフォーマー)が預かり、商品発送後に買い手が商品を確認した後に売り手に引き渡すものです。この方式だと、売り手も買い手も安心して取引ができます。
※本来は決済代行の定義で決済をしているケースが多が、広義の意味でエスクローと呼んでいる。なお、ヤフオクも同様のサービスを2018年3月にリリースしている。
このエスクロー決済の信用力をビルドインしたプラットフォーマーは、CtoCビジネスにおけるサービスの斬新さや既存ビジネスをひっくり返す可能性を高く評価されて巨大化しました。
欧米を先進とした民泊のAirbnbや配送サービスのUber(ウーバー)が有名で、日本ではメルカリの台頭が目立ちますが、プラットフォーム目線では“エスクロー決済※”がシェアビジネス勃興の大きな要因を作ったと言っても過言ではないでしょう。
一方、消費者目線ではどうでしょうか?
欧米では元来、寄付文化やシェア文化があり、それが一気にインターネットとエスクロー決済の利便性で多種多様に発展しました。
東南アジアではGlabという緑色の服を着た配送サービスを街中でよく目にしますが、彼らは資源が少ない生活の中でその有効活用ができるシェアに対して抵抗感が比較的少なく、スマホという先進技術を手にした結果、日本よりシェアビジネスが進んでいる感があります。ちなみにGlabの最大出資者はソフトバンクです。
日本においては、まだまだこれからのシェアビジネスですが、勃興を予見させる一つの風潮として、若者の意識の変化があります。
シェアビジネスの勃興② 〜 シェア意識の変化
ミレニアル世代という言葉をご存知でしょうか。2000年以降に成人、あるいは社会人になる世代のことを指します。
2018年に18歳から25歳を対象に行った株式会社ジャパンネット銀行の調査によると、この世代はシェアリングエコノミーに非常に親和性が高く、この世代がCtoCのシェアビジネスマーケットを牽引しているということです。
同調査によると、ミレニアル世代はシェアサービスに対して次のような意識を持っています。
①シェアサービスの利用意向
ミレニアル世代は、シェアサービスを利用したい意向が6割を超え、シェアに馴染まない親世代の3倍にも達する。
②シェアサービスの利用理由
ミレニアル世代は、シェアサービスが経済的、合理的と感じる割合が7割を超え、他ユーザーとの交流にきっかけになるという回答も5割を超え、ユーザー間でのつながりを求める声も多い。
③ミレニアル世代の消費特性
ミレニアル世代は、モノをあまり持ちたくないという回答が5割を超え、合理性を重視する回答が6割以上、モノよりも体験や人とのつながりを大事にしたいという回答が5割を超える。
総じてミレニアル世代は、シェアサービスに親和性が高い、と言えます。物心がついた時、多感な学生時代には既にSNSが蔓延し、インターネットを通じて人とつながることに違和感がなく、むしろそれを実現する場をインターネット上で多方面に求めている世代だからこその当然の結果かもしれません。
ミレニアム世代の購買特性を表す言葉として、メルカリKという言葉を聞いたことがあります。
Kさんは、常に高価な服を買うのですが、利用期間はワンクールのみ。しばらくオシャレを楽しんで、メルカリですぐに売ってしまう。
購入金額に対する販売金額をKさんはよく知っていて、自分が利用したものを人より高く売る術も知っている。
例えば、写真の撮り方や説明の仕方などです。そこに所有意欲はなく、自分の欲しい服を、メルカリというプラットフォームとその先に多数存在する見たことも会ったこともない利用者とシェアしているのです。
ミレニアル世代の親世代にはなかった購買意識を代表する姿こそがメルカリKなのです。
シェアサービスに抵抗感がないどころか、色々な生活面や社会面でシェアを求め、さらに、そのプラットフォームと連動するSNSや実際のシェア取引を通じて人とのつながりを求めようとミレニアル世代こそが、日本におけるこれからのシェアマーケットの主役となるのです。
日本においてもシェアビジネスが経済行為においてデフォルト化する、という筆者の予測は、ミレニアル世代のアーリーアダプターから始まって、様々な世代にシェアによる消費生活が波及するというロジックに立脚しています。
著者:宮﨑耕史
京都大学大学院 機械工学科卒、三和綜合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)のチーフコンサルタントを経て、株式会社カスタメディアを設立。
同社は、WEBコミュニケーションに必要なSNSやマッチング、シェアリングエコノミーのシステムを低価格で提供できるパッケージエンジンのASPサービスを100社以上の企業に提供している。