越境ECの現状
越境ECの定義
越境ECとは、一般に「消費者と、当該消費者が居住している国以外に国籍を持つ事業者との電子商取引(購買)」(経済産業省「平成22年度電子商取引に関する市場調査」)と定義されます。
しかし、越境ECの定義は確定していません。
外国製品購入は販売業者が外国にある場合に限らず、自国内の販売業者から外国製品を購入する場合も含むのかどうかで見解が分かれているのです。
経済産業省は含むとする定義を採用し、欧州委員会は含まないとする見解を採用しています。
つまり、中国人が楽天市場で日本製品を買う場合はもちろん、天猫国際(中国最大のモール)に出品している日本製品を買う場合も越境ECに含めるのが日本の公的統計資料で、含めないのが欧州委員会なのです。
統計資料がどの定義を採用しているかほとんど不明です。従って、越境ECの実態を正確に把握することは現状困難であることを予めご了承ください。
越境ECの現状
(1)世界の越境ECの現状
越境EC市場は、世界経済(GDP)の10倍、EC市場の倍のスピードで拡大中。2025年にはEC市場(BtoC)の半分は越境ECになる見込みです。ニッチな商品の越境EC市場を築ければ倍々の成長も期待できます。
GDPでは中国を凌ぐアメリカですが、EC市場では中国に倍以上の差をつけられています。日本は中国の1/10程度しかありません。
しかしその中国も越境EC市場に限っては、成長率はそれほど高くありません。越境ECの成長率はエリアごとに大きな差が出ています。
出典:IMF「World Economic Outlook」
出典:「令和3年度電子商取引に関する市場調査」経済産業省
出典:「2020年版グローバルニッチトップ企業100選について」製造産業局
出典:「TheLongView」Pwc
(2)エリア別の越境ECの現状
国境の壁が低い欧州や東南アジアの越境ECは中日米に比し活発です。
EC市場では中国の1/3以下の欧州ですが、越境EC市場では中国より規模が大きくなっています。
人種も言葉も異なる国で形成される東南アジアの越境ECの成長率は凄まじく、中国を上回り、その市場規模は2025年には日本のEC市場規模(BtoC)に並ぶ(1745億ドル:約20兆円)ことが見込まれ、中国の越境EC市場に追いつく勢いです。
出典:「令和3年度電子商取引に関する市場調査」経済産業省
出典:「e-Conomy SEA 2020」
出典:「PYMNTS2021/12/21」
出典:「想定より売れない東南アジア越境ECのなぜ」JETRO
(3)日本の越境ECの現状
日本の越境ECの市場規模(日本人購入額)は極めて小さく、中国の1/10以下、米国の1/5以下です。日本の越境EC化率は2020年時点で1.8%。成長率も極めて低いことから今後もほとんど変化が無いものと考えられます。
もっとも、日本の越境EC環境が悪くても、日本企業の越境ECのターゲットは外国なのでそれほど問題ではないといえます。
出典:「基本データと政策動向」令和2年情報通信白書総務省
出典:「令和2年度電子商取引実態調査」経済産業省
越境ECの課題と越境ECプラットフォームの関係
越境ECの課題
越境ECの課題は以下のように3つに整理できます。
こうした課題があるため、経営資源の少ない中堅中小企業の越境EC進出は従来難しいものでした。
しかし、プラットフォームや関連サービスの進化は凄まじく次節で紹介するように課題のほとんどが低予算で解決可能になっています。
越境ECプラットフォームごとの越境ECの課題
越境ECのプラットフォームは大きく自社サイトとモールに分かれ、自社サイトはさらにオンプレミス型とクラウド型の2つに分かれます。
各課題を克服してきた経緯を整理すると以下のようになります。
自社サイトのクラウド型が越境ECの課題・弱みを一番克服できています。そのクラウド型の代表が「Shopify」です。
Shopify(ショッピファイ)とは何か
Amazonキラー「Shopify」
・世界シェア1位のECプラットフォーム
・アメリカのEC総額シェア、eBayやWal-Martを抜きAmazonに次ぐ第2位(2020年)
・2019年から2021年にかけて利用者数2倍、収益はほぼ3倍(Shopify公式)
前章前節で紹介したようにShopifyの成長は、オンプレミス型とモール型の課題・弱点を解決できたことが要因です。
デザイン性の高いテンプレートと豊富なコンテンツ紹介機能、顧客管理機能でモール型の課題であるブランティング力を高めています。
こうした機能を求めAmazonから撤退した企業の多くがShopifyで自社サイトを立ち上げたので「Amazonキラー」と呼ばれているのです。
「Shopify」の特徴
(1)オンラインストア作成だけなら、世界的デザイナー作成の70種類以上の無料テーマをドラッグ&ドロップすればOK
オンプレミス型で自社サイトを作る場合、プログラミング言語を使いこなせるだけでなく、設計力やデザイン力がなければ綺麗なサイトはつくれません。Shopifyならドラッグ&ドロップだけで綺麗なサイトが作れます。
(2)マルチチャネル化と一元管理性
Shopifyでネットショップを運営すると、自社ECサイトで販売する商品をAmazonやeBayなどで同時に販売できます。
Amazon等モール販売できるだけでなく、ブログやSNSにカートを埋め込み・販売ボタンを設置してオンラインショップ化、Google検索で商品紹介、実店舗とのオムニチャネル(*)など、マルチチャネル化も可能です。マルチチャネルをスマホで一元管理できるので極めて利便性が高いプラットフォームになっています。
(*)オムニチャネルとは、オンラインショップ等デジタル販売チャネルと実店舗等リアル販売チャネルが統合されること
マルチチャネル化により、自社サイトの課題である集客力を克服し、一元管理することで高い次元でのブランティングを可能にしています。
こうしたマルチチャネル化のため第2回記事第二章で紹介する越境EC成功パターンのいずれにもShopifyは対応可能になっています。
(3)拡張性と多様なサブスクコース
Shopifyの独自アプリは、2022年8月現在7577件、UGC(ユーザー生成コンテンツ)として今も拡張し続けています(BASE・STORESは独自アプリ無し)。ライバルプラットフォーム「BASE」からShopifyへの移行アプリもあるのです。
1つの商品に使える写真の数は250枚で、競合の10倍以上もあり、コンテンツの世界観を様々な角度で詳細に伝える役割を果たしブランティング力を高めています。
ブログに販売ボタン付けるだけの月9ドルコースから、月2,000ドルで20カ国対応マルチチャネルECサイト構築まで5コース(BASE、STORESとも2コース)。個人事業主から世界的大企業(Nestle・P&G等)までの予算とニーズに応えるサブスクコースです。
もっとも、機能・アプリが多すぎてShopifyに期待される効果を発揮するには導入企業に大変な能力と労力が必要です。
能力的労力的限界から海外消費者視点で中途半端なサイトも散見されます。この課題が第2回記事の争点です。
(4)越境ECへの移行し易さ
無料テンプレートは全て多言語対応(BASE・STORESは英語のみ)。効率的に越境ECサイトへ移行させるサービス「ShopifyMarkets」が標準装備されています。
ShopifyMarketsの自動最適化機能を使って言語や通貨を現地に合わせ自動変換し、関税の徴収も行えるようになります。
Shopifyペイメントを使うことで、現地通貨化、現地決済オプション化も可能です。
おわりに
越境ECは、2025年にはEC市場(BtoC)の半分を占めることが予想される大変有望な市場です。
この有望な市場に挑戦するには従来、ECプラットフォームに様々な課題がありました。その課題を克服する形で躍進しているのがShopifyです。
確かにShopifyのマルチチェネル機能には高い集客力を期待できますし、デザイン性の高いテンプレートや様々なアプリによる拡張性はブランティング力を高めてくれます。
しかし、これら機能やアプリを使いこなし、期待される効果を発揮するには大変な能力と労力が必要です。
実際Shopifyが紹介している越境EC事例では、いずれもShopify公式expertとされる企業にコンサルティングを依頼しています。
第2回記事ではこうした事情を含め、中堅中小企業が越境ECに取り組む際の現実的な選択肢はどんな形か?Shopify導入は最善なのか検討しています。
著者:maru
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。