脱炭素経営のメリット
顧客提供価値からみる脱炭素経営のメリットは以下のようなものです。
サービス業などで見られるトータルソリューション戦略と同じような価値を製造業でも顧客に届けられます。
脱炭素サプライチェーンの一端を担えることは、機会喪失を回避しグローバル企業を新規獲得できるという大きなメリットになります。
参考:「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」環境省
脱炭素経営は、近時増えている企業のESG活動や市民のエシカル活動にマッチした経営スタイルであるため、他の戦略以上に多面的なメリットを財務面にもたらします。
特に人材獲得面と資金調達面でのメリットは中堅中小企業の弱みを補うもので、脱炭素経営を是非取り組むべき大きな理由となります。
参考:「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」環境省
参考:『「外部不経済」を取り込み、収益も上げる』PWC
脱炭素経営の具体的手法
脱炭素経営導入ステップ
環境省「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」によれば導入ステップは4段階に分かれます。
Step1:長期的なエネルギー転換(電化)の方針の検討
Step2:短中期的な省エネ対策(消費量削減(SBT))の洗出し
Step3:再生可能エネルギー(低炭素化(RE100))の調達手段の検討
Step4:削減対策の精査と計画への取り纏め
Step1:長期的なエネルギー転換(電化)の方針の検討
非電力のエネルギー使用量の低減のみでは温室効果ガスを大幅削減することは困難であるため、将来的には使用エネルギー自体を電化することが望ましいといえます。
電化することで再生可能エネルギーによる電力や太陽光による自家発電により低炭素化できるからです。
Step2:短中期的な省エネ対策の洗出し
脱炭素経営の短中期的な目標は、既存エネルギーの消費量削減です。
この際有用なのが、省エネルギーセンターが実施している省エネ最適化診断です。
「省エネ診断」として具体的な運用改善や投資改善のアドバイスがもらえるだけでなく「再エネ提案」が新サービスとして加わりました。
また同サービスの報告書では同業他社との比較も掲載されるため、省エネ施策の優先順位を策定しやすくなる点も魅力です。
実際、第3回記事第二章の事例では同サービスを利用することで脱炭素に向けた施策を絞り込め、スムーズに脱炭素経営を開始できています。
料金は年間エネルギー使用量に合わせ10,450円から23,100円と低価格で、各種補助金の加点事由なので費用対効果が高いサービスです。
省エネ対策は以下のように運用改善から設備投資まで多種多様なので、省エネ最適化診断を利用して施策を絞込み、成功体験を積上げることが重要です。
従業員の積極的参加を促し、現場のアイデアを吸い上げ、活かせる環境をつくれるかが脱炭素経営の成否を分けます。
Step3:再生可能エネルギーの調達手段の検討
再生可能エネルギーの調達は、step1と2で自社の排出量が削減目標に届かない場合に、電気を再エネ電力に切り替えることで削減目標を達しようとするものです。
再エネは、温室効果ガスを排出しない低炭素の無限エネルギーとして削減目標に寄与しますが、コスト面及び安定供給面に課題を抱えています。
そのためここでも有用なのが、省エネルギーセンターが実施している省エネ最適化診断です。このサービスは省エネ提案だけでなく、再エネ提案もしてくれるので是非利用しましょう。
再エネの調達手段は大きく3つに分かれその長所と短所は以下の通りです。
Step4:削減対策の精査と計画への取り纏め
こうした計画への落とし込みでも省エネ最適化診断の報告書が必要な数値を教えてくれるので便利です。
継続的な脱炭素経営のための組織づくり
(1)従業員の積極的参加の必要性
第1節で紹介した導入ステップでスムーズに脱炭素経営を開始できても、組織づくりが出来ていなければ脱炭素経営は継続できません。
この点、省エネルギーセンターの「省エネ最適化診断」では以下のような項目がチェックされ、脱炭素経営の組織づくりのレベルが判断されています。
出典:「省エネ最適化診断報告書サンプル」一般社団法人省エネルギーセンター
しかし、第3回記事で取り上げる企業をはじめ、実際脱炭素経営に取り組んでいる企業では、脱炭素経営が継続した取り組みとなるには、現場従業員の積極的参加が不可欠であることが述べられています。
省エネ最適化診断の提案の4割は設備投資不要な「運用改善」であることから、現場のアイデアを活かせる仕組み作りが脱炭素経営の成否を決するといえます。
その仕組み作りの参考になるのが次の2つの組織運営ノウハウです。
・従業員の主体的参加を促す「公正なプロセス」
・現場のアイデアを吸い上げ共有し経営に活かす「知識創造経営」
(2)「公正なプロセス」
公正なプロセスとは、従業員の知性と感性を尊重する形(関与・説明・期待内容)で企業活動を進めることで従業員の協力と期待以上の実行を促す組織運営ノウハウです。
第3回記事第一章事例では、従業員が気候危機の情報発信やセミナーの講師、工場見学者に環境の取組みを解説したりして、その知性と感性を尊重した脱炭素経営が行われています。
出典:「[新版]ブルー・オーシャン戦略―競争のない世界を創造する」
W・チャン・キム、レネ・モボルニュ (著) ダイヤモンド社2015/09/04
(3)「知識創造経営」
知識創造経営とは、個々の従業員が持っている「暗黙知」といわれるノウハウやアイデアを、企業や他の従業員も共有できるよう「形式知」化、つまり文字化・図表化させ、形式知を組み合わせることでイノベーションを生み出そうとする組織運営ノウハウです。
定期的に開かれる現場ミーティングはもちろん、現場責任者との会話も暗黙知の形式知化の重要な機会となります。
第3回記事第二章の事例でも月1回の省エネ推進委員会で運用改善アイデアの共有を図っています。
出典:「知識創造企業」野中郁次郎・竹内弘高(著)東洋経済新報社2013/06/28
グリーン・オーシャン戦略
グリーン・オーシャン戦略とは、「競争がなく、自社がESGで抜きん出た成果を上げられる領域」でESG活動することで競争優位を獲得しようとする戦略です(「グリーン・オーシャン戦略:ESGで成功を収める3ステップ」HarvardBusinessReview)。
ESG自体、業界の垣根を超えた活動ゆえ、これまで以上に多種多様なライバルが存在します。
しかし、自社の業界という得意分野に合せたESG活動を徹底することで数あるライバルに差をつけられます。
このレポートでも、「ライバルが不得意とする領域」、「自社がリソースを持っていて、強力なパフォーマンスを発揮でき、しかもESGが自社の事業全般に欠かせない要素である領域」を見つけるべきとしています。
脱炭素経営というESG活動でもグリーン・オーシャン戦略は大変有効と考えます。
実際第3回記事第一章の事例では社員40名ほどの印刷会社が「環境印刷」「CO2ゼロのサプライチェーン印刷」を徹底した結果、国連やpatagoniaといったグローバル機関・企業と取引して高収益をあげています。
おわりに
ESG活動が企業間でも市民間でも活発になってきているため、脱炭素経営は財務の数字を多面的に向上させます。
さらに、人材獲得力や企業のレジリエンス力を高め組織自体も強くする効果もあるのです。
この効果を最大に活かすには顧客やステークホルダーに何を提供すべきか明確になる領域(グリーン・オーシャン)を見つけることが必要です。
そして絶えざるエネルギー消費量削減活動が脱炭素経営を支えます。このため、従業員の積極的参加を促す施策が脱炭素経営のコアコンピタンスといってもいいでしょう。
第3回記事ではグリーン・オーシャンを見つけ、従業員の積極的参加を促す施策で売上向上とコスト削減を同時実現した会社を紹介します。
著者:maru
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。