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DXと人事管理

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DXにおける人事管理の位置づけ

DXとは

(1)DXとは

経済産業省は、「DX推進指標とそのガイダンス」において、上記のようにDXの定義をまとめています。

これによれば、デジタル技術導入は手段にすぎず、製品やサービス、ビジネスモデル、業務そのもの、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することに本質があるのです。

経済産業省「DXレポート2」でも、「素早く」変革「し続ける」能力を身に付け、競争上の優勢を確立することを目指すべきとしています。

デジタル化や業務プロセス効率化はDXの目的ではありません。常に変化するビジネス環境に対応できる能力を身に付けることがDXなのです。

「失われた30年」の原因の一つといわれるのが、95年頃から始まった情報革命です。

「モノづくり」から「データ処理」することにビジネスの流れが変わったことに日本企業がついていけませんでした。

それから10年経った04年にDXの概念が生まれました。

インターネットの社会への浸透とともに、人々の生活のあらゆる面への影響を捉えたものです。

経済産業省のDXの概念と同じように、業務プロセス効率化といった手続き的概念ではなく、価値的概念なのです。

(2)DXの全体像

経済産業省のDXの定義や目指すべき方向性からわかるように、デジタイゼーションやデジタライゼーションは、厳密にはDXではなく、その前段階にすぎません。

『常に変化する顧客・社会の課題を捉え「素早く」変革「し続ける」能力を身に付ける』ためには、個別業務プロセスのデジタル化では足りません。

ITの浸透が生活のあらゆる面を変化させたように、企業そのものを変革することがトランスフォーメーションなのです。

データ活用が特定部門にとどまっている企業、デジタル技術を導入しても既存のビジネスモデルの継続を前提としている企業は、デジタル競争の敗者になることを警告しています。

しかし、経済産業省の「DXレポート2」によれば、全体の9割以上の企業がDXに未着手又はデジタイゼーション、デジタライゼーション段階に止まっています。

データとデジタル技術を活用した組織トランスフォーメーション段階に入っている企業が1割も無い状況です。

人事管理とは

(1)人事管理とは

人事管理とは、社外との接触が少ないバックオフィスと呼ばれる管理部門のうち、人材の処遇全般を示します。

多くの業務が社内で完結するため、業務改善しやすいことがバックオフィスの特徴です。

従って、人事管理は業務改善のためのデジタル化、デジタライゼーションを取り組みやすい部門といえます。

(2)人事管理の全体像

人材の処遇全般を管理する人事管理は、人材採用から始まり、採用した人材の育成・評価・配置・定着までの一連の流れを管理します。

一連の流れのデータや日常勤務の管理、その他、マイナンバー申請など手続き全般を管理するのが労務管理です。

つまり、管理部門に属する人事管理のうち、さらに手続側面が強い部分が労務管理に集約されているのです。

(3)人事管理の新しい流れ

人事管理の中心課題は、人口構造の変化とともに変遷しています。

厳密には生産年齢人口(15歳から60歳未満)がピークアウトした1990年代中盤前後に、人事管理の中心課題は、手続効率化から人材価値最大化に変遷したと考えるべきでしょう。

人口増加時代には増え続ける人材をいかに「管理」するかが課題でした。

しかし、生産年齢人口が減っている現在では、少ない人材をどう生かすのかが人事の中心課題となっています。

生産年齢人口がまだ増え続けているアメリカで、ピープルアナリティクスという人材価値最大化の新しい流れが2009年ごろから始まりました。

ピープルアナリティクスとは、最新技術を使い、社員のモチベーションや活動状況などのデータから、最適な職場や働き方を考えるための手法で、グーグルが始めた「Project Oxygen」という取り組みがその先駆けといわれています。

女性の社会進出や非正規社員の増加で就業人口自体の減少は歯止めがかかっているとはいえ、日本企業はこうした変化に素早く対応したとはいえません。

経済産業省も人材価値最大化を目指した「人的資本経営」のレポートを発表したのは2020年でした。

DXにおける人事管理の位置づけ

日本企業の9割以上が、紙媒体からExcel化又はExcelから各部門専用プラットフォームの導入にとどまっているのが現状です。

しかし、部門ごとに業務効率化しても、DXの本質たる「常に変化する顧客・社会の課題を捉え『素早く』変革『し続ける』能力を身に付ける」ことになりません。

各部門のプラットフォームが組織全体で連携されたり、業務改善アプリの開発が組織全体で活性化したりするなど、人事管理を超えた組織全体のプロセスや組織文化そのものが変わることがDXです。

人事管理におけるDX

人事管理におけるDXの変遷

従来の人事管理部門のデジタル化の中心は、勤怠管理システムや給与計算システムなど労務管理のプラットフォームが中心でした。

しかし現在では人材価値最大化を目的とする評価系のプラットフォームが多くリリースされています。

その背景には日本企業の人事管理の評価的側面に課題があることが顕在化してきていることにあります。

ギャラップ社が2017年に行った調査によると、日本では「熱意がある」(engaged)社員がわずか6%に過ぎず、調査した139カ国のなかで132位とのこと。

日本人のワークエンゲージメントは主要国のなかで最低水準にあるのです。

こうした状態では企業の生産性や売上、クリエイティブが向上しないことが科学的に明らかになっています。

参考:「イノベーティブ人材獲得の要となるウェルビーイングの視点」PWC2021/06/24

人事管理DXを実現する方法

(1)直ちに取り組むべきアクション

直ちに取り組むべきアクションとして、市販のデジタルツールを導入し業務環境のオンライン化や業務プロセスのデジタル化などと共に、DXの認知・理解が必要であることを経済産業省は説いています。

そうした認知・理解がなければ単なる紙媒体のデータ化、既存のビジネスモデルを前提とした特定業務改善のプラットフォーム導入に終わってしまいます。

「常に変化する顧客・社会の課題を捉え『素早く』変革『し続ける』能力を身に付ける」ことができないからです。

人事管理プラットフォーム導入の際もこうした認識を持たなければなりません。

(2)短期的対応

短期的対応としてDX推進体制の整備が求められています。
DX推進に向けた社内関係者間の共通理解の形成と経営陣の役割・権限の明確化です。

これも単なるデジタル技術の導入に終わることへの懸念を示しています。

そして経営陣に専門の役職を設け、戦略的に経営資源を配分する必要性を説いています。

つまり人事管理DXも単なる人事部門の問題ではなく、戦略的な問題なのです。
こうした流れは経済産業省が推奨する「人的資本経営」と考えを同じくするものです。

(3)中長期的対応

中長期対応として求められていることは、自社の強みと関係の薄い領域は効率化し、効率化して生まれた余力を強みのある領域へ割り当てることです。

人事管理にあてはめれば、手続き側面の大きい労務管理は効率化し、人的価値最大化に寄与する人材育成や人材配置などに注力すべきことを求めています。

おわりに

DXの本質は組織文化の変革にあり、人事管理の近時の課題は人的価値最大化です。
いずれも効率化を超えたところに目標があります。

そのため、人事管理プラットフォームも単なる手続き効率化を目的とするものから、人的価値最大化のための評価機能に特化されたものが数多くリリースされているのが現状です。

もっとも、評価機能に特化したプラットフォームはあくまで管理者側のツールであり、組織文化変革を目指すDXの狙いとは方向性が違うように思います。

第2回記事及び第3回記事では、人事管理プラットフォーム導入をきっかけに組織文化変革を醸成している事例とノウハウを紹介します。

著者:maru
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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