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中堅中小企業の人的資本経営導入方法

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人的資本経営導入総論

人的資本経営全体像

(1)人的資本経営の最終目標は「従業員エンゲージメント(勤務先との信頼関係)」

出典:「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書
経済産業省令和2年9月

出典:「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書
経済産業省令和4年5月

各施策を展開することで「従業員エンゲージメント」が高まり、幸福感のある仕事の効果が各施策に波及していくことで「人材価値を最大限に引き出す」ことが可能になります。

(2)人的資本経営の施策と構築すべき経営環境

従業員モラルサーベイ(社内満足度調査)の結果が経営戦略に反映され、また経営戦略に合わせ、必要な「人材ポートフォリオ」が作成されます。

「働き方」改革や「ダイバーシティ」しても補充出来ない人材は「リスキル」で育て、成長した価値は「インクルージョン」で活かし、「従業員エンゲージメント」を高めていくのが人的資本経営の形です。

経営戦略を練磨するため、人事の「As is(現状)-To be(目標)ギャップの定量把握」と、各施策が円滑に展開されるよう「企業文化への定着」が必要なのです。

中堅中小企業特性による導入の制約

出典:「平成27年中小企業白書」経済産業省

最大の制約は雇用環境がよくないことから、望み通りの人材ポートフォリオやダイバーシティを実現できないことです。

従って、「時間と場所にとらわれない働き方」と「ステークホルダーとの関係強化」で可及的に人材を確保・補完し、「リスキル」で既存の従業員の知識・能力を向上させ、「インクルージョン」で向上した人材価値を活かして、「従業員エンゲージメント」を高めていくのが、中堅中小企業における人的資本経営の形です。

特に既存の従業員に関わる「リスキル」と「インクルージョン」はどのような企業でも取り組めるため重要といえます。

さらに、家族経営が多いことから本来果たすべき取締役会や投資家の存在が薄いことも課題です。

人的資本経営導入方法

人的資本経営の施策の整備

(1)従業員エンゲージメント

出典:「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書
経済産業省令和2年9月

出典:「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書
経済産業省令和4年5月

健康経営」経済産業省

従業員エンゲージメントの現状を把握して経営戦略に活かし、戦略に基づき展開する各施策の効果として「従業員エンゲージメント」が高まるという関係で、各施策と戦略をつなげ、エンゲージメントが高まった効果で、各施策の成果を高めるという役割があります。

経済産業省がまとめた具体的な施策とその工夫は以下の通りです。

(2)動的な人材ポートフォリオ

動的な人材ポートフォリオは、経営戦略を直接反映し、他の施策の規模や方向性を決める役割を果たします。

もっとも、雇用環境が厳しい中堅中小企業が人材ポートフォリオを策定しても、望み通りの人員を獲得できないことが多く、周辺企業や公的機関、アルムナイ(自社退社人材)と柔軟なパートナーシップを構築できる関係をつくっておくことが必要です。

(3)時間と場所にとらわれない働き方

人材ポートフォリオに対応した人材が求める職場環境に改定するのが「時間と場所にとらわれない働き方」の役割です。

リモートワークを実現するデジタル化のみならず、リアルワークが不可欠である職務の特定やリアルとリモート平行時のマネジメントの確立などもこの施策の重要な役割です。

(4)リスキル(学び直し)

人材ポートフォリオに対応した仕事の質を実現するため、従業員の能力を伸ばすのがリスキルの役割です。

多様な人材を揃えることが難しい中堅中小企業にとっては、中心になる施策といえます。

特に「①組織として不足しているスキル・専門性の特定」のための調査・分析は、リスキルだけでなく、人材ポートフォリオ作成や経営戦略策定に関わる重要な作業です。

(5)知・経験のダイバーシティ&インクルージョン

人材ポートフォリオに対応した仕事の質を実現するためには、多様な人材を集め、その人材の価値を最大限に生かす環境を創ることが役割です。

多様な人材を揃えることが難しい中堅中小企業にとっては、ダイバーシティよりインクルージョンがメインの施策になります。

そのため、人材や価値を活かせるよう、これまで以上にマネジャーに能力が求められます。

一時的な成果ではなくマネジメント改善による試行錯誤を高く評価し、経営陣によるマネジャーのバックアップも必要となります。

共通要素整備のための経営環境構築

(1)経営戦略と人材戦略の連動

出典:「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書
経済産業省令和2年9月

出典:「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書
経済産業省令和4年5月

経済産業省が人的資本経営を推奨する一番の理由が、人事と経営戦略の連動の必要性です。

もっとも、系列関係が強かった日本の中堅中小企業では、経営管理部門が独自の戦略策定能力を育成できる環境ではなかったことも多いでしょう。

その意味で中堅中小企業にとっては、こうした経営環境構築は大企業以上の困難が伴うかもしれません。

ここでのポイントは、従来の人事部長(課長)とは異なる、人材戦略担当者を経営陣の中に設けその責任を明確にすることと、役員報酬への人事に関するKPI(重要業績評価指標)を反映させることです。
これにより人事が経営戦略に移行したことを基礎づける権限と責任が明確になるからです。

(2)As is-To beギャップの定量把握

人材戦略が経営戦略と結びついたことで、各施策は会社全体のその他の施策と連動させなければならなくなっています。

そこで施策の成果を数値化し、即座に経営戦略に反映できるようにする必要があるのです。

(3)企業文化への定着

人的資本経営の施策の最終目標が「従業員エンゲージメント」であるため、各施策の展開は企業文化にまで昇華させなければなりません。

信頼関係は各施策ではなく企業そのものとの関係で生じるからです。

もっとも、中堅中小企業は事業範囲や職務範囲が大企業ほど広くないため、各従業員の方向性や行動指針となる企業理念や存在意義に関する議論は活発でなかったように思います。

そこで、これまでの業歴や強み、従業員の想い、ステークホルダーの共感が詰まった「パーパス」という企業の存在意義を定めることをお勧めします。

長い時間をかけて何度も議論する中で、従業員やステークホルダーの主体的な行動を引き出し、エンゲージメントを高める効果が期待できるからです。

出典:『「パーパス経営」とは。』一橋ビジネススクール客員教授名和高司
HITACHI inspiretheNext2021/08/17

経営陣、取締役会、投資家が果たすべき役割・アクション

家族経営が多い中堅中小企業では、本来の役割を果たしている取締役会や投資家がそれほど多くないでしょう。

こうした役割は顧問税理士やメインバンクが担ってきたともいえます。

ここでのポイントは、企業が進むべき方向性を明確化し会社全体に浸透させることです。

パーパス策定やモラルサーベイなど、その導入に従業員が関わる機会を用意し、経営陣の積極的な対話を通じて期待内容を明らかにすることで、従業員の信頼と協力を獲得とし、共有した方向性に人的価値を集結させることが経営陣の役割です。

おわりに

人的資本経営を中堅中小企業が導入する場合の特有の制限と、大企業以上に重視すべき施策に焦点をあて、ノウハウを説明してきました。

中堅中小企業は「動的な人材ポートフォリオ」や多様性を求める「ダイバーシティ」より、既存の従業員の知識・技能を向上させその価値を活かす「リスキル」と「インクルージョン」を重点的に展開し、柔軟な戦略的パートナーシップを組めるよう「ステークホルダーとの関係強化」を図る必要があるのです。

第3回記事では、こうした形で人的資本経営を導入している事例を2つ紹介しています。

著者:maru
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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