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中堅中小企業のナラティブカンパニーの作り方

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中堅中小企業のブランドstoryとwell-beingの共創物語の企業理念化「パーパス」

大企業と中堅中小企業のブランドストーリーの違い

中堅中小企業の特徴は、大企業のように経営がシステマティック化していないため、経営者依存が強いことです。

売上はカリスマ経営者やスーパー営業マンの能力と人脈に依存し、社内コミュニケーションも経営者が率先して動かなければ大企業より悪くなる傾向があります。

このためブランドstoryにおける経営者の存在が大きくなり、ステークホルダーとの共創物語もその人間性に強い影響を受けてしまいます。

従来のブランドstoryと同じように成功storyだけに終わる可能性が高くなる一方、大企業以上に濃い共創物語を築けることもあるのです。

ブランドstoryとwell-beingの共創物語の企業理念化「パーパス」創出の具体的手法

日本におけるパーパス経営の第一人者、一橋ビジネススクール客員教授名和高司氏が考えるパーパスの構成要素は以上のようなものです。

このパーパスを作る過程は以下のような3stepです。

Step1:企業や商品・サービスの世界観・強み(X)を「幸福×X」と掛け算でコンセプトを定義。

Step2:定義されたコンセプトに見合う顧客像、従業員像、その他ステークホルダー像を設定。

Step3:設定されたステークホルダーのwell-being実現めざす共創物語を経営理念化する。

設定する顧客像と従業員像の参考になるのが第二章第2節で取り上げているwell-beingマーケティングのペルソナ像と第1回記事第三章第1節で取り上げている幸せ4因子の説明図です。前者が顧客像となり、後者は従業員像になります。

例えば第3回記事第二章で取り上げる「株式会社ふらここ」のパーパスをつくる場合。

この企業の強みは赤ちゃん顔のかわいらしいデザインと飾る場所を選ばないコンパクトなひな人形と五月人形です。顧客像は幼い子供を持つ親なので、幸せ因子は「ありがとう」因子になります。

この因子への最重要影響要因「人に勝つことよりも、感謝されることに喜びを感じる」等3つとその他に重要要因7つで、顧客像を具体化できます。

こうした顧客像に商品・サービスを提供する従業員像も同じ「ありがとう」因子が最適でしょう。従って、つながりや感謝、承認信頼、尊厳を大事にする従業員が理想です。

こうして具体化したステークホルダー像と経営者の想いの幸せ物語がパーパスです。

例えば、2021年中小企業白書事例1-1-1で同社社長が述べている一文「ふっくらした可愛い赤ちゃん顔の人形を手にした子供たちが笑顔になる姿を見たい」が「株式会社ふらここ」のパーパスとして考えられます。

中堅中小企業のwell-beingマーケティング戦略

大企業と中堅中小企業のマーケティングの違い

大企業に比し経営資源の少ない中堅中小企業のマーケティングは、ヒット商品任せ、もしくは経営者のカリスマ性やスーパー営業マンの属人的な部分への依存が多く、手法も調査も整理されていないことが多いことが特徴です。

そのため利他性が薄く、ある程度成功するとそれ以上の伸びが止まる傾向が見られます。

手法が暗黙知化しているため人員の負担が重くなり、大企業以上に幸福度を上げることが切実な課題となっています。

もっとも、顧客との距離は近いため大企業以上に改善の即効性が望める点が強みです。

well-beingマーケティングの具体的手法

消費者を幸せにすることで購買を促すのがwell-beingマーケティング戦略です。そのターゲットとなるペルソナ像はPwCの調査によれば以下のような特徴を有します。

このような特徴から、自社商品・サービスがどのような因子を持つ消費者をwell-beingマーケティング戦略のターゲットにすればよいのか、がある程度絞り込めます。

因子への影響要因は、商品・サービスで解決すべき課題でもあるからです。

・転職や啓発、ハイレベルビジネスマン向け商品・サービスのターゲットは、「やってみよう」因子の強いペルソナ
・特定の趣味嗜好コミュニティのターゲットは「ありのままに」因子の強いペルソナ
・生活関連、エンタメ関連業種のターゲットは、「ありがとう」因子の強いペルソナ

等が考えられます。

中堅中小企業のwell-being人事戦略

大企業と中堅中小企業の人事戦略の違い

大企業より離職率が高く、採用も容易でないため人材は中堅中小企の切迫した課題です。その上、低い労働生産性は中堅中小企業の構造的弱点であるため克服しがたい課題でもあります。

生産性や売上、創造性をアップさせる従業員のwell-being実現の効果はこうした課題解決の重要な答えの1つです。

継続就業意識向上、転職意識低下も人材難という課題解決に助力するもので、well-being人事戦略は中堅中小企業の最優先事項といえます。

well-being人事戦略の具体的手法

従業員のwell-being実現を促す幸せ4因子とそれを導く人事施策を分類すると以上のようになります。

施策を展開する際のポイントは、以下の通りです。

①パーパスとマーケティングで軸となった幸せ因子を人事戦略でも軸とすること
②4つの因子を業種業態に合わせうまく組み合わせること

例えば、クリエイティブな業種で軸となる幸せ因子は個々の従業員の成長を促す「やってみよう」因子です。

パーパスでは「やってみよう」因子の共創物語を造り、マーケティングでは「やってみよう」因子のペルソナをターゲットとしてカスタマジャーニーを作ります。

ここで人事戦略だけ「やってみよう」因子以外の施策を軸にすると、ターゲットに適切な商品・サービスを届けられない可能性が高まります。

「やってみよう」因子を軸とするクリエイティブな業種であっても、燃え尽き症候群を回避するため、利他性の強い「ありがとう」因子を醸成する施策の並列は必要です。

「ありがとう」因子が軸となる製造業や看護介護のような労働集約的業種でも労働者の自己犠牲的な過度な負担を回避するため自利性の強い「やってみよう」因子の施策が必要になります。

ナラティブカンパニー「伊那食品工業」の分析

確実で安定した成長を続ける「年輪経営」で有名な伊那食品工業は、従業員を家族と捉え年功序列の給与体系や中長期的な経営計画を立てない等、近時の流行とは異なる独自の経営スタイルでも有名です。

パーパスは、社員を中心に、会社を取り巻く人、地域の幸せを目指す「ありがとう」因子の共創物語で出来ています。

マーケティングも本社や工場のある敷地に家族がゆったり出来る複合商業施設を設け、パーパスの方向性に沿う「ありがとう」因子の強い顧客像をターゲットにした施策を展開しています。

地域と家族を幸せにするwell-beingマーケティングで消費意欲を醸成し創業以来連続増収という成果を獲得しています。

(寒天)メーカーとしての業種特性や家族型経営を標榜しているだけであって、その人事施策も労働集約的産業で重視される「ありがとう」因子を醸成する施策が軸です。

「ありのままに」因子の60歳まで昇給や充実した福利厚生を設け、ワークライフバランスをとり、長く働ける職場も作っています。

一方、人事評価や査定せず、中長期的な経営計画や売り上げ目標を立てない等、従業員の自利と成長を促す「やってみよう因子」の施策を組み込んで、自己犠牲的な職場になることを回避している点も特徴です。

成果として増収かつ増益ですから、大型商業施設によるwell-beingマーケティング戦略だけでなく、well-being人事戦略で生産性を向上させることに成功していることもわかります。

おわりに

今回紹介した伊那食品工業は製造業としてチームワークで生産性を上げる「ありがとう」因子の施策がメインです。

しかし、「やってみよう」因子の施策を併用して個々の従業員の成長も促し創業以来の増収増益を支えています。

第3回記事では創業時から既にナラティブカンパニーであった事例と経営課題に直面したことでナラティブカンパニーに生まれ変わった事例を紹介します。

前者は創業時から特定の幸せ因子を軸として施策を展開し、事業を拡大させ続けています。

後者はパーパスとマーケティングでメインとしている因子を人事戦略では徹底できなかったため問題が発生しました。そこで経営者が従業員と一丸になって人事戦略を刷新し、ナラティブカンパニーになりました。

多くの中堅中小企業の参考になる事例ですので是非お読み下さい。

著者:maru

2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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