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パーパスから始まる最高のビジネスモデルの作り方

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「存在意義」としてのパーパス

「存在意義」としてのパーパスの作り方

『パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える』(東洋経済新報社)の著者で一橋ビジネススクール客員教授、名和高司氏は「白昼夢セッション」と「内省セッション」が必要であると述べています。

(1)白昼夢セッション
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」と掲げられたSonyのパーパスは、全社員の8割から賛同得ていると言われています。

現CEOが就任と同時に、社員向けブログを開設し、「Missionを見直したいから声を聞かせてほしい」旨、全社員に呼びかけることから始まり、届いた声にはCEO自ら全て目を通し、実際の社員の声も聴き、事業部の管理層とも議論を重ねて造られた結果です。名和氏が言うように、全ての制約を取り払って内なる熱い思いが集められたわけです。

(2)内省セッション
名和氏が掲げるパーパスの構成要素「ワクワク、ならでは、できる」のうち、「できる」の部分をつくるため、自社の短所を見つめ直す内省セッションが必要となります。

思いから造られたパーパスを夢物語に終わらせないため、現実を見つめ直す過程です。

この点、独自のビジネス領域を見つける手法として人気のある理論、ブルー・オーシャン戦略でも、まず経営陣がリアルな競争現場に足を運び、非顧客の声を聞くことから始める現状認識から戦略構築が始まります。

ポイントは、以下のように自社と競合他社の5W2Hを作る地道な作業で、危機意識を共有し現状認識の誤りを正すことにあります。

イノベーション環境の作り方

(1)従来のビジネスモデルとこれからのビジネスモデル
経営環境のデジタル化で変化のスピードが上がり、不確定要素が増えたためMBA取得者でさえ、未来を予測することが困難になっています。

このような環境では次々新しい価値を生み出すイノベーション組織にビジネスモデルを変えていく必要があります。

ビジネスモデル構築の基盤をなすとして取り上げられることが多い、孫子の兵法の基本「五事」の構成から従来のビジネスモデルを整理し、Mission・Vision・valueに変わる経営指針として名和氏の提唱している3要素に、イノベーション組織として注目されている「両利き経営」の概念を加え、これからのビジネスモデルを考えると以下のようになります。

これからのビジネスモデルを、パーパスを起点とした「パーパス経営」と定義し、イノベーション環境を考えると以下のように理想的な形になります。

パーパス経営が作るイノベーション環境からあるべきパーパスを導くと名和氏が提唱するパーパス3要素がスムーズに出てきます。

(2)イノベーション環境を作っているビジネスモデルの例

①トヨタ
「両利き経営」の最大のポイントは、新事業を創出する「探索」の事業部が、経営改善の「深化」の経営本体から権限的予算的にどれだけ独立性が担保されるかにあります。

この点トヨタは、出島方式を採用し独立性を担保すると共に1年完結プロジェクトにすることでアジャイル方式も採り入れています。

②日東電工
グローバルニッチトップを掲げる日東電工も、「全売上高対比新製品率35%ルール」や「三新活動」「ニッチトップ戦略」でイノベーション環境を作っている代表例です。

(3)イノベーション環境の構成要素
「イノベーションのジレンマ」の著者、クリステンセン教授は「存在しない市場は分析できない。新しい市場がどの程度の規模になるかについて専門家の予測は必ず外れる」とイノベーションにおける事前予測の難しさを指摘しています。

第1回記事で取り上げたカルフォルニア大学教授ヘンリー・チェスブロウやアマゾンの創業者ジェフ・ベゾスも失敗を前提にしてイノベーション環境を作る重要性を語っています。

つまり、イノベーションには何度も失敗できる「環境」と豊富なアイデアが生まれる「土壌」が必要なのです。

パーパス経営が作るビジネスモデルは、従来型ビジネスモデルには無いこの「環境」と「土壌」を持っている点が最大の強みといえます。

特に重要なのが労働者の自律的動機付けです。近代経営学の父、ピーター・ドラッガーは生産性向上における自律的動機付けの重要性を説いています。

この点、Sonyは、パーパスを社員の自分事化とするため、「P(パーパス)&V(value)事務局」を立ち上げ、ポスターやビデオだけでなく、CEO署名入りレターも作成し全世界に配布、社内webサイトではグループ社員への自分事化のインタビュー記事を載せています。

「目的」としてのパーパス

「目的」としてのパーパスに基づく顧客分類

「目的」としてのパーパスが必要とされた背景はコスト効率化と顧客リピート率の向上にあり、そのため、需要発生時期と量、求められるサービスの内容を把握できるよう顧客属性を分類することが必要となります。

この点、大いに参考になるのが、『「売れない時代」の新・集客戦略 コスト削減に向けた顧客モチベーション・マーケティング』でまとめられた顧客分類です。

この分類に、ブルー・オーシャン戦略で使われている機能志向と感性志向の概念とリピート属性を組合せて作った顧客分類が以下の表です。

実際には4分類の中間に位置する顧客像もあるでしょう。

しかし、この表に基づく「目的」としてのパーパスに基づく顧客分類は、あくまで需要と求められるサービスの内容を把握しコスト効率とリピート率の向上を両立させるビジネスモデルを創出するためのものです。こういった目的に絞って使えば大変有用な分類と考えます。

「目的」としてのパーパスに基づくビジネスモデル創出ノウハウ

(1)「目的」としてのパーパスに基づくビジネスモデル創出step

ここでポイントになるのが、作業効率化により「ムラの無いサービス」を実現することです。特にサービス業は、製造業のように在庫という需要調整弁がないので、作業効率化は受け入れ可能顧客数に直結し収益性を左右する大事な工程です。

ムラの無いサービスを提供することで、人件費を節約でき収益性は向上します。

担当できる顧客数が増え、売上を伸ばせます。さらに作業のムラが減るので、期待されたサービスの質と実際に提供されたサービスの質の齟齬が小さくなり、顧客の再利用への選択肯定度が高める効果があります。

それでは、いくつかの顧客ポートフォリオの例をみてみましょう。

(2)全ての顧客像をターゲットとする顧客ポートフォリオの例
このモデルの特徴は、一企業だけでは、全ての顧客像をターゲットとする顧客ポートフォリオに対応するのが難しい点です。発生する需要時期や量が異なり、求められるサービスの質も異なるからです。

(3)単一の顧客にターゲットを絞った顧客ポートフォリオの例
このモデルの特徴は、全国展開するチェーン店ビジネスに向いていることです。ターゲットを絞っているので、需要の発生時期や量、求められるサービス内容が把握し易く、人員配置や作業内容のマニュアル化が容易で全国展開しやすい顧客ポートフォリオです。

(4)異なる顧客像を組合せて需要の偏在を克服した顧客ポートフォリオの例
このモデルの特徴は、従来のビジネスモデルが課題を抱え、経営改善のため異なる顧客像を組みあせた顧客ポートフォリオを作っていることが多い点です。

おわりに

「存在意義」としてのパーパスは、主観的な熱い思いが求められています。その熱い思いを軸に造られた新しいビジネスモデルは、従来のものとは異なり、それ自体が人格を持ったワクワクした存在です。どちらがイノベーションを生み出しやすい環境かは、明白でしょう。

「目的」としてのパーパスは、これまでも顧客属性を分類する際に用いられてきた指標の一つです。しかしビジネスモデル構築に際して一定の有用性があることを、顧客ポートフォリオのいくつかの具体例を通じてお判り頂けたのではないでしょうか。

第3回記事で取り上げる両事例とも明確にパーパスという文言を使ったものではありません、

しかし、そこでキーポイントになっているのは「存在意義」としてのパーパスであり、「目的」としてのパーパスです。続けてお読みいただければご理解頂けると思います。

著者:maru

2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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