前回の記事でインサイドセールスの意義や、経営へのインパクト、成功事例などを紹介しましたが、今回は実際に自社で導入する場合の注意点やポイント、導入事例などについて紹介していきます。
対応できる業種や組織かどうかの確認
インサイドセールスは、全ての企業に導入効果が高いわけではありません。業種業態、組織体制によっても導入の可能性を判断する必要があります。
対象分野はBtoB市場
インサイドセールスの導入効果が高いのは、主に企業向けの商材です。いわゆる「産業材」と言われる分野です。
産業材は、企業がその生産や販売活動に活用する機器やサービスであるため、比較的高価格で、購入に際して慎重に情報収集し、購入を決定するため、インサイドセールスの手法が活かせるわけです。
分業体制が可能か?
インサイドセールスの組織は通常、イベントやキャンペーンで見込み案件(リード)を発掘するための部門、メールやSNS、電話など使って見込み客にアプローチし購入意欲を高める部門、顧客と対面し、クロージングするフィールドセールス部門などに分かれます。
専門家の原則によって合理的で成約確率の高い営業活動を行うためですが、そもそもこういった体制が作れない小規模組織や他の部署との兼任が多い組織では、成果が出せない場合も考えられます。
経営者の理解とコミットメント
インサイドセールスとは、ツールを利用しますが、ツールを導入すれば成果が出るわけではありません。
いわば、営業の仕組みやカルチャーまで変えてしまうものですから、トップ自らのコミットメントが重要です。
直接営業業務を行わないにしても、トップ自らがしっかりと仕組みを理解することは必要です。
目標管理の在り方を変える
従来の営業方式では、最終的な売上や利益に対する目標であるKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)の達成度が重視されていました。
つまり、売上や利益が達成されるかどうか、達成されない理由は何かということが営業会議のメインテーマでした。
しかし、インサイドセールスでは、営業の進行状況がインターネット上のツールで常に共有されます。そのため、最終目標のKGIを達成するための要因であるKPI(Key Performance Indicators: 重要業績評価指標)の達成度も同時にモニターできます。
具体的には、リードと言われる見込み客の数や、担当者、アプローチ方法別回数、経過している時間など、KPIの複数の要素のうち、どこが不足しているか、どこを強化すればKGIが達成可能になるかをリアルタイムで把握することが出来るのです。
このことは、目標達成に大きく貢献することでしょう。
先ずは成功事例を作る
全ての営業活動をインサイドセールスに変更することもできますが、チームが大規模な場合などは、一旦成功事例を作ることを優先しましょう。
立候補制にして、積極的にチャレンジしてくれる社員に任せると良いでしょう。立ち上がるまで、導入するインサイドセールスシステムの指導員を張り付けたり、プロのコンサルタントから指導を直接仰いだりすると良いでしょう。
先ずは、社内に注目を浴びるスターを作ることが肝要です。さらに、成功後には、基本的な運営マニュアルも作っておきましょう。
本格的な導入のポイント
他の営業部隊への普及
成功事例が作れたら、他の営業部隊にも普及させていきます。成功事例を元に作られたマニュアルをもとに先ずは模倣していきましょう。
営業活動は本来、「狩り」であり、他の営業部隊は成功事例を気にしています。最初の良い事例を活用して、他の営業部隊に普及させていきましょう。
収益バランスへの配慮
従来の方法で、成果を出してきた営業部隊にも一定の配慮が必要です。インサイドセールスが有効な手法だとしても、今すぐ安定的な収益を生み出すわけではありません。
これまで、収益を上げてくれた営業パーソンに対する敬意も表しながら、徐々に新体制を構築する必要があります。
導入事例
ここで、実際に中小企業が導入した事例をご紹介します。
A社の企業情報
昇降機の製造販売をしている中小企業。営業人数は全国で10名。特定の大手機械工具商に依存する営業手法であるため、特定の販売代理店以外のエンドユーザーとの接点が少ないのが特徴。
必然的に、営業活動は受け身に成らざるを得なく、販売代理店手数料が利益を圧迫していました。
導入経緯
2017年、販売代理店とエンドユーザーとの接点量の拡大と商談機会の拡大を目的に「オンライン営業」へ取り組みを開始しました。
重点的に取り組んだ活動は「コミュニケーション基盤となるリスト整備」「御用聞き営業」「商談取りこぼし防止と商談機会の拡大」です。
(1)コミュニケーション基盤となるリスト整備
オンライン営業を効率良く稼働させるためのスタートには「顧客台帳」が必要です。
オンライン営業担当は、過去の販売実績や接触履歴、名刺、納品書、資料送付先、問合せなど、会社内に散在していた顧客情報をデジタル化し一本化しました。
顧客情報は1万社程度になり、「未取引の見込客」、「既納品客」、「継続取引(保守点検)」の三つの顧客に区分されました。
(2)「御用聞き営業」の具現化
A社では「御用聞き営業」と称して、お客様のお役に立つ業界情報を定期的に提供し始めました。
そのポイントは、売り込みでなく、「お客様に役立つ情報」です。売り込みでは、定期的な接点を保つことができないため、「業界NEWSメール」を作成し、配信しています。
また、新製品情報、展示会情報、導入事例などの情報も提供して、お客様との接点量を拡大しました。
(3)商談取りこぼし防止と商談機会の拡大
お客様からリクエストをもらっても、商談が停滞するケースがあります。その際は、商談が停滞しないように、オンライン営業から、担当営業へお知らせし、商談を促しました。
それと同時に、お客様へ商談に対する満足度をヒアリングし、お客様の要望を引き出しました。
このように、コミュニケーション基盤をつくり、オンライン営業がお客様との接点量を拡大することにより、オンライン営業から供給する商談件数が月間数十件に伸び、1人当たりの商談件数は1.5倍程度となりました。
さらに、特定の機械工具商に依存していた営業から、設計事務所や工務店からの依頼やエンドユーザーからの直接依頼も増加することができました。
そして、エンドユーザーへも主体的に営業活動を実施することができるようになった結果、営業利益率が2年間で4倍へ向上しました。
【参考】テレワークソリューションバンク 「テレワーク時代の営業改革とは」
まとめ
中小中堅企業がインサイドセールスを導入する際のポイントや、注意事項をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?
自社の導入可能性を確認した上で、トップ自らがコミットメントしていくことや、目標に対する考え方を変えることなどの重要性をご理解いただけたと思います。
さらに、事例からも分かるように、小回りが利いて意思決定が速い小規模企業で導入効果が出やすいことも分かりました。
今後の貴社の導入の参考にしていただきたいと思います。
著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。