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経理業務がリモート化できる法的根拠

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「経理業務だけはリモート化できない!」一見、経理部が言っている主張のように聞こえますが、実はこれは法的な根拠にもとづくものでした。

経理業務はなぜリモートできなかったのか?そして、今現在はどう緩和されたのか、法的根拠や法改正の歴史を見ながら、経理業務のリモート化の可能性を見ていきましょう。

従来の法的規制

根底にある法律の考え方

経理が取り扱う書類は、請求書や領収証など、取引に関する書類です。これらの書類は取引を証拠づけるものですから、従来から、「紙での保存」が義務付けられてきました。

その根底にあるのは、「所得税や法人税などの税金を確実に徴収する」ということです。

税金は国家の運営には欠かせません。特に、法人税をはじめとする事業に関する税金には厳重な正しさを求められてきました。

経理業務でよく「紙が必要」といわれるのは、これが原因だったわけです。紙での処理や保存が必要だったため、リモートワークが困難でした。

規制の内容

税法上、現金出納帳、売掛・買掛帳、売上・仕入帳、固定資産台帳などの帳簿類や、貸借対照表、損益計算書、棚卸表などの決算書類、請求書や領収証などの証憑書類は税法上、7年間紙で保存することが義務付けられていました。さらに、会社法では保存期間を10年と定めています。

緩和された法的規制「電子帳簿保存法」のスタート

高度情報化やペーパーレス化が進展する中、近年、会計処理の分野でもコンピュータを使用した帳簿書類の作成が普及してきたため、経済界をはじめとする関係各界から、帳簿書類の電磁的記録(いわゆる電子データ)やマイクロフィルムによる保存の容認について強い要望が寄せられるようになり、国税の納税義務の適正な履行を確保しつつ、納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のため、平成10年 (1998年) 7月に「電子帳簿保存法」が施行されました。

規制緩和の内容

データ入力の最初から一貫して自社のコンピュータを使って経理処理を行った場合、データによる帳簿保存が認められるようになりました。

しかし、あらかじめ所轄税務署長に対して申請書を提出し、承認を受けることが必要で、この申請書は、開始する日の3か月前の日までに提出する必要がありました。

スキャナー保存制度の追加

その後、平成17年(2005年)、電子帳簿保存法が改正され、棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに計算、整理又は決算に関して作成された書類以外の一定の書類については、紙による保存によらず、スキャナー読取りの電磁的記録による保存が認められるようになりました。

しかし、データには改ざん防止の電子署名が必要であり、スキャナー保存の場合もコンピュータデータと同様に、あらかじめ所轄税務署長に対して申請書を提出し、承認を受けることが必要でした。

さらに近年加速された規制緩和

経理書類の電子化が認められた電子帳簿保存法でしたが、コンピュータを使う場合もスキャナー保存する場合も、規制方法が細かく、承認に時間がかかることなどから、なかなか普及が進みませんでした。しかし、近年の加速度的な規制緩和により、電子化が進んでいます。

スキャナー保存制度の改正

平成27年度(2015年)の改正によりスキャナー保存制度の要件が緩和され、契約書・領収書について3万円未満という金額上限がなくなりました。また、電子署名が不要になりました。

スキャナー保存制度の改正(スマホやデジタルカメラの利用)

平成28年(2016年)、書類の電子化の方法として、スマートフォンやデジタルカメラを利用した方法がOKになりました。

同時に、撮影されたデータに「タイムスタンプ」と言われる日時データを保存することが必要になりました。

クラウドサービス利用の緩和

また令和2年(2020年)10月の税制改正では、新たに加えられた電磁的記録方法として、受け取る側が自由にデータを改変できない「クラウドシステムなどのサービス」を利用することが認められるようになりました。

事前承認制度の廃止

さらに、令和4年(2022年)からは、税務署による事前承認制度が廃止されます。

改正法の施行後は、基準を満たすスキャナーや会計ソフトなどの機材があれば、いつでも、電子帳簿保存が出来るようになります。

電子データ化の加速と電子データ活用の加速

これらの法改正により、帳簿類の電子化が加速するとともに、電子データでの利用が活発になってきます。

例えば、経費精算などの処理には、社員からの領収証の原本が必要でしたが、社員がスマートフォンで撮影した領収証のデータを経理に送ることで、税法上の書類の電子化が行えるとともに、経費精算そのものもオンライン化が可能になります。

請求処理にしても同様で、取引先との請求書をオンラインで送受信すれば、電子化とリモート化が同時に出来るようになりました。

企業、取引先、従業員までもWin-Winになれる時代が来たわけです。

まとめ

経理業務のリモート化を阻んでいた法律と、その規制緩和内容の歴史を説明してきましたが、いかがだったでしょうか?

リモート化を困難にしていた法律も、近年急速に規制緩和が進んでいることをご理解いただけたと思います。経理業務のリモート化も現実味を帯びてきています。

著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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