円安進行下の国内市場での経営の在り方
国内市場の大きな流れ
・避けられない内需の縮小
GDP構成比55%を占める個人消費は少子高齢化と「増えない給与」、15%を占める設備投資はキャピタルフライトとバブル処理後のコスト優先経営、25%を占める政府支出は基礎的財政収支の赤字と97年以降の緊縮財政、付加的要素である輸出と輸入は均等。GDPが増える要素はなく、内需の縮小は避けられない状況です。
2025年に起きる国内市場の変化
・後期高齢者の急増
・デジタル敗者の市場退場
・基礎的財政収支の黒字化
・日銀の新しい金融政策
2025年、団塊世代が全て後期高齢者に入り、労働市場だけでなく消費市場からも相当規模が本格的に卒業し、内需の縮小がさらに先鋭化するでしょう。
同年、国がDXを推し進める理由、「2025年の崖」でデジタル敗者となる企業が市場から退場し始めます。
さらに同時期(26年度)、基礎的財政収支が黒字化するシナリオを内閣府が発表しました(22年1月「中長期の経済財政に関する試算」)。黒田日銀総裁の後任が生まれる23年4月以降、国の財政健全化と相まって日銀の新しい姿勢も明らかになります。
国内市場での経営の在り方
・少子高齢化と増えない給与、円安によるコストプッシュ、全ての課題に対する答えとなる「生産性向上」
・効果的な生産性向上の手法は「内需の縮小に合わせた事業の集約化とエコシステムの構築」
アベノミクスの代わりに少子高齢化への答えとして使われ始めたのが生産性向上です。
生産性向上は円安下のコストプッシュを緩和し、付加価値向上にも寄与するので、増えない給与の答えにもなります。
国内市場の現状に照らしもっとも効果的な生産性向上の手法として「内需の縮小に合わせた事業の集約化とエコシステム(*)の構築」を次節で紹介します。
*エコシステムとは企業や個人が集結し分業と協業による共存共栄の関係をいう
内需の縮小に合わせた事業の集約化とエコシステムの構築
・収益性の悪いセグメント・地域・顧客・製品・サービスを削減
・手作り・特定能力・新価値が競争優位となるまで製品・サービスを集約化し専門性を高める
・集約化して高まった専門性で質の高いネットワークを構築(エコシステム)
エコシステムを構築することで、企業単体よりも,多くのリスクや成果のフィードバックが得られ易くなるのでさらに専門性が高まり、付加価値向上のスパイラルが生まれ易くなります。
第三回第一章記事では集約化とエコシステムで付加価値向上スパイラルに入っている事例を紹介しています。
具体例を見ることで集約化から付加価値向上スパイラルまでの流れを理解できますので是非お読みください。
参考:「IGPI流ローカル企業復活のリアル・ノウハウ」冨山和彦/経営共創基盤著 PHP研究所
円安進行下の海外市場での経営の在り方
海外市場の大きな流れ
・米ソ冷戦と2度の石油危機、世界はインフレの時代
・冷戦後のグローバリゼーション、世界は物価安定の時代
・米中貿易摩擦と原油価格高騰で世界は再びインフレの時代へ?
2018年の米中貿易摩擦以降、グローバルサプライチェーンが停滞しています。原油価格高騰も続き、世界の物価は上昇中です。
インフレ抑制が第一義とするFRBの金融政策の結果、ドルが強まり円安に向かうと予想されます(第1回記事参照)。
2030年に起きる海外市場の変化
・アジアが世界のGDPの4割を占めるまで成長
・中国が世界一の経済大国へ
2030年までに、アジア全体のGDPが世界の4割にせまり、中国は米国を抜いて経済規模が世界一になるといわれます。
中国が独自のサプライチェーンを構築するのか、米国と協調して現在のグローバルサプライチェーンを維持するのかで、世界経済の方向性が異なります。冷戦期よりも長く、厳しいインフレの時代になるかもしれません。
参考:「内外経済の中長期展望 2018-2030年度」三菱総合研究所2018.7.9
https://www.mri.co.jp/news/press/20180709-01.html
海外市場での経営の在り方
・為替リスク回避のメルクマール「輸出比率25%超え」
・財貿易で稼ぐ時代ではなくなった?
・投資とサービスで稼ぐのが未来の姿
第1回記事第三章で取り上げた中小企業へのアンケートで明らかになった円安時のメリット・デメリットの分水嶺「輸出比率25%超え」は為替リスクを回避のための輸出や現地生産(現地販売)、直接投資する際の1つのメルクマールになります。
日本の輸出は1993年の世界シェア9.5%でピークを迎え、現在は4%弱、2030年には2.5%前後まで落ち込む予想もあります(三菱総合研究所前出)。既に財貿易で稼ぐ時代ではないのかもしれません。
内閣府は「日本経済2019年‐2020年」で国際収支「発展段階説」をとりあげ、現在の日本を「未成熟な債権国」から「成熟した債権国」への移行期と位置づけています。
工業生産能力はピークアウトし、財・サービス収支が黒字から赤字へ。蓄積した対外純資産による大幅な黒字で経常収支を維持する国です。日本は海外資産で生きていく時代と捉えています。
三菱総合研究所も30年には貿易収支が赤字に転じ、海外純資産からの利益が現在の20兆円から26兆円まで拡大。
サービス収支も、現在の赤字から7兆円の黒字になり、投資とサービスで稼ぐのが未来の姿と予想しています。
従って「輸出比率25%超え」の為替リスク回避のメルクマールは投資とサービスで実現するのがこれからの流れといえるでしょう。
海外で投資とサービスで稼ぐ
・生産年齢人口減少で資本は海外へ(キャピタルフライトの経済的合理性)
・中流階級が生まれるアジア市場
・日本の優位性は『経験』
・サービス業の海外進出は財貿易以上に慎重に
若年人口比率の低下は、国内貯蓄及び国内投資の減少を招き、需要喚起のため国内金利は低下します。
その結果、相対的に金利の高い海外へ資本移動圧力が生じ、他国への資本移動が生じる分、より国内投資は減少します。
それに応じて国内金利低下圧力が増加する結果、海外への資本移動圧力がさらに増します。
このように対外直接投資には経済的合理性のある経営判断が働いており、キャピタルフライトは自然な流れです。
2030年には世界のGDPの4割を占めるアジアは、まだ見ぬ快適な暮らしを求める購買力旺盛な中流階級が急増する魅力的な市場です。
対外直接投資残高は、低リスク中リターンの欧米諸国に5割弱が集中していますが、リスク対収益の高い新興国を含む地域への投資を国が推奨しています。
参考:「人口減少時代における対外経済構造の変化と課題」日本経済2019-2020内閣府https://www5.cao.go.jp/keizai3/2019/0207nk/n19_3_2.html#n19_3_2_1
いち早く高齢化し貿易立国から債権国へ進んだ日本の優位性は『経験』にあります。
この経験に基づくコンサルタントやメンテンナンスなどのアフターサービス、共創などのサービス業が、コモディティ化したモノづくりの付加価値となり価格競争を回避させます。
世界的建設機械メーカーコマツ(KOMATSU)の遠隔管理システム「KOMTRAX(コムトラックス)」がその良い例です。
但しサービス業の海外進出は財貿易以上に慎重になる必要があります。
財貿易の場合、日本の自動車メーカーが、サプライヤーを一緒に連れていくことが多いように、関連会社と一緒もしくは関連会社が先行している場合が多いです。
しかしサービス業は単独での進出が多く、専門のコンサルタントもほとんどいないので現地調査をより慎重に行う必要があります。この点、第3回記事第二章事例が参考になります。
おわりに
労働生産性を高めていく手段として語られるのは機械化や時間短縮、最近ではDXが挙げられます。それらは分母であるコスト面ばかりに焦点をあてています。
しかし、分子の付加価値向上こそ給与を増やすことに直結する大事な指標です。
その具体的手法が本文で概要を紹介した集約化とエコシステムです。
具体的なイメージと流れを知るうえで第3回記事第一章の事例は大変参考になりますので是非お読み下さい。
第3回記事第二章はサービス業で海外進出した事例で、国内創業当初から海外進出を計画し、充分な国内実績と経験を積み、かつ慎重な現地調査を行い海外進出に成功しています。
学ぶべきことが多いので、こちらも是非お読み下さい。
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。