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円安進行下の中堅中小企業の経営の在り方参考事例

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事業の集約化とエコシステム(*)の構築に参考になる事例

企業の紹介

企業名: ミツフジ株式会社
事業内容:銀めっき導電性繊維AGpossR及びウェアラブルIoT hamon製品の開発・製造・販売、医療機器の製造・販売
資本金:9,900万円
HP:https://www.mitsufuji.co.jp/

事業の概要

同社は、1956年に西陣織の着物帯工場として創業しました。

レース生地等の様々な繊維製品に展開し事業を広げる中で、導電性、抗菌・防臭性、洗濯耐久性、伸縮性等機能性に優れた銀メッキ導電性繊維AGposs(R)を先代社長の時代に開発。

現在はAGposs(R)だけに事業を集約し、様々な製品を開発しています。AGposs(R)を使ったウェアラブルIoT製品「hamon(R)」や暑熱リスクが事前に分かるリストバンド型デバイス“hamon band”を現社長が開発し、製造・販売を手掛けています。

事業の集約化とエコシステムに取り組むきっかけ

他社では真似できないほど優れた機能性を有するAGposs(R)を使った製品がありながらも、他社でも作れるその他の製品の種類も多く、それらを取引相手の予算に合わせ赤字でも請け負うという取引をしてきました。

ですが、製品単価と取引量が取引先に左右される下請け的側面の強い経営となり、年々厳しい業況に追い込まれていました。そこで現社長が就任とともに事業をAGposs(R)に集約化したのです。

事業の集約化とエコシステムの具体的内容

事業の集約化

(1)製品の集約化
2014年、三代目に就任した現社長は、AGposs(R)製品の優位性に自信を持っていたため、それ以外の製品の取扱を一切止め、製品を集約化。

IT企業での営業経験も豊富であったためAGposs(R)とIT技術を組み合わせ、当時米中でも急成長していたヘルスケア市場に集約化の方向性を定め、ウェラブル製品に活路を見いだします。

(2)顧客の集約化
AGposs(R)の価値を理解してくれる会社とだけ取引していくことを決め、既存の顧客に価値を説明、従来の10倍の値段でも取引を継続してくれる顧客に絞っていきました。

その結果、年商が1,000万円程度まで落ち込むも、収益構造がシンプルになったため、支出を抑え込めるメリットが発生します。

また下記エコシステムを構築することで2017年12月期には売上高3億円を超える急成長を遂げています。

エコシステム構築

AGposs(R)の糸からコンテンツ開発まで顧客の要望に応じてカスタマイズできるほど専門性を高めた結果、学校法人産業医科大学と共同開発に至ります。

さらに高まった専門性を現場で活かすため実際に課題を持っていた介護業界や建設業界の企業・団体と連携。介護施設や建設現場の体調見守りサービス用のリストバンド型暑熱リスク感知デバイス“hamon band”を開発しました。

さらに着用するだけで心拍・心電、呼吸数、加速度(体の傾き、動き)等の生体情報を測定可能な乳幼児向け着衣型ウェアラブルデバイスをフランスの子供ブランドと開発するなど、ネットワークを拡大し続けています。

参考「繊維産業の現状と経済産業省の取組」経済産業省令和2年1月17日

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/fiber/pdf/200129_2seni_genjyou_torikumi.pdf

同社のエコシステムの特徴は、資本関係を結ぶことを重視している点です。資本提携することでフィードバックや人材交流がより密になり品質向上が加速する効果が得られています。

事例から学べる事

・顧客と製品を絞り込んだことで収益構造がシンプルになりコストが削減できた

・製品を競争優位となるまで集約化したことで専門性が高まり、これがキッカケで質の高いネットワークを構築でき、さらに専門性が高まる、付加価値向上スパイラルに入っている

・付加価値向上スパイラルがヘルスケアという世界的な成長市場に向けて回りだしているため今後も様々な事業展開が期待できる

以上のように事業の集約化とエコシステム構築でコスト削減と付加価値向上の両立を実現し労働生産性を飛躍的に伸ばすことに成功した事例となっています。

出典:2018年中小企業白書事例2-6-2
『事業承継を機に他社との連携を強化し、付加価値を向上させた企業』
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/index.html

*エコシステムとは企業や個人が集結し分業と協業による共存共栄の関係をいう

サービス業での海外進出に参考になる事例

企業の紹介

企業名: 株式会社ダダ
事業内容:美容室、エクステ専門店経営
資本金:1,000万円
HP:http://www.dada-salon.com

事業の概要

1994年大阪で創業。国内主要都市にて美容室、エクステ専門店を経営し全国的な知名度を得た後、2006年上海に海外1号店を出店しました。

現在、大阪、名古屋、上海、蘇州にて美容室、エクステ専門店を経営。今後もアジア各国への進出を検討しています。

海外でサービス業に取り組むきっかけ

同社の竹村社長は、欧米人とは違うアジア人の髪質に適したヘアスタイルとヘアファッションを創り出し、日本の美容技術を伝えたいとの思いから、海外で美容師向けスクールを運営し、アジアの美容業界でイニシアチブを握ることを会社設立当初から持っていました。

そのため、社名はDesigning Artists Design for Asianを略した「DADA」となっています。

海外で取り組むサービス業の具体的内容

・海外進出前に日本での実績づくり
・上海出店1年前から社長自身が現地リサーチ
・日本式の美容サービスで差別化
・現地の人でも払える価格帯
・日本式サービスマニュアルを従業員間で相互評価

最終目標である海外での美容師向けスクール運営で成功するために2段階の実績づくりをしています。

スクール運営には美容室としての実績が必要であり、海外での美容室を成功させるためには国内での美容室の実績が必要であると判断しました。

そこで日本の主要都市で美容室とエクステ専門店を経営。全国的知名度を得、実績作りに成功します。エクステに関しては特許まで取り専門性を高めています。

充分な実績と専門性をもってもなお、ビジネスプランの検証のため1年間のリサーチ期間を設け、社長自ら現地に足を運んで、ターゲットに直にインタビューして需要を確認しています。

そして形式だけの日本式美容室は既に存在していたが、しっかり教育された日本式サービスが無いことを発見しました。

そこが成功ポイントと定め、日本式サービスマニュアルの従業員の相互評価という人事制度を導入して徹底した教育を実施。これが決め手となり経営を軌道に乗せることができています。

事例から学べる事

・中流階級が生まれるアジア市場をターゲットに設定
・実績と専門性という『経験』を国内で積んでから海外進出
・充分なビジネスプラン検証期間と現地調査

第2回記事第二章第四節でも述べましたが、海外でサービス業を始める場合の日本の優位性は『経験』にあります。

いち早く高度成長期と少子高齢化を経験した日本はあらゆるサービス業の経験値と成熟度が、これから中流階級の生まれるアジア諸国とは違います。

そしてこの中流階級こそまだ見ぬ快適な暮らしを求め潜在的ニーズウォンツを抱える優良なターゲットなのです。

出店して10年弱が経過した2016年に同社の竹村社長は海外進出者へ次のようなアドバイスを送っています(Digima海外進出事例集2016年4月21日)

「信頼できるコンサルタントを使う」

「上下関係を重視する中国ではトップが常駐すべき」

「その国の法律を学ぶ」

財貿易と異なり、サービス業は、業態自体がその国で初めて展開される事が多く、必要な専門性を持ったコンサルタントを見つけるが大変です。

また単独での進出が多いので、商慣習自体、実際にそのサービスを始めてみないとわからないものです。

出典:2014年度版中小企業白書事例3-4-6
『設立当初からアジアを見据え、海外展開を進めている美容室』

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/h26/index.html

おわりに

第一章の事例ではコスト削減と付加価値向上の両立という、労働生産性が少子高齢化と増えない給与、円安によるコストプッシュ、すべての課題に対する答えとして期待されている効果を事業の集約化とエコシステムの構築で実現させています。

第二章は、日本の優位性は『経験』にあることを教えてくれる事例となっています。国内での経験がなければ上海での成功のカギが本格的な日本式のサービスの導入にあることを発見できなかったのではないでしょうか。

国内市場での経営の在り方、海外市場での経営の在り方に悩んだときはこの2つの事例を読み返すことで解決のヒントを得られるでしょう。

著者:maru

2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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