シェアの視点
情報革命とも言えるインターネットやスマホの普及、プラットフォーマーを介してCtoCの取引に信用を持たせるエスクロー決済、ミレニアル世代の今後の社会での台頭により、シェアビジネスが勃興し、これからは遅れがちな日本においても経済活動や社会においてデフォルト化していくことは容易に想像できます。
すでに日本においても雨後のタケノコのごとく、シェアビジネスの卵が産み落とされ、フリマアプリやスキルシェアなどをテレビコマーシャルで見ることも多くなってきています。
では、彼らはシェアビジネスをどのような視点で創り出しているのでしょうか。
個々に独特の視点があることは当然のことですが、新しいシェアビジネスやシェア社会を創造する元となる着眼点を体系化すると、次の3つの視点に集約できると筆者は考えています。
①ニーズの視点
そこに必要なものを誰かが持っていないか?
余っているものとして存在しないか?
②シーズの視点
自分の持っている使わないものを誰かが必要としているか?
世の中に余っているものはないか?
③集める視点
集めれば何かを動かすことができるか?
もし、あなたが高圧洗浄機で家を洗いたいとき、近所にそれを持っている人がいて、時間単位で貸してくれる、という場があると知っていたとしたら、便利ではないでしょうか(ニーズ)。
もし、あなたの家の周りにスーパーがあり、混雑時、駐車に困っている人がいれば、短時間で安い料金を設定して駐車場にすることで、利用されるかもしれません(シーズ)。
もし、あなたがマンションの住人で、同じ手芸仲間がいれば、高級なミシンを共同購入できるかもしれません(集める)。
シェアは、同時に社会で生じている資源不足問題や、資源処分の問題を解決するツールにもなります。
例えば採用難の今の時代、都心部においてはマンションの管理人不足という問題が生じています。
しかし、この問題解決を考える際に、シェアの視点を持つ人であれば不足資源はシェアに求めます。
つまり、「そのマンションに時間を持て余している住人はいるだろう・・」という発想が生まれます。
足りないものを認識したとき、既存概念を捨て、所有概念を捨てて、近場にあるもの、目に見えて使えるものをシェアしてもらう、という概念がシェアの基本です。
世の中にないもの、不足するものに対して、別の視点から余っているものをシェアする、時間を区分することでスキルなどが細かくシェアできる、といった考え方で実に多くのビジネスが生み出されています。
もちろん、賃貸借や共同利用において、万が一物品や資産に損害を与えた際の保険の問題や、共同利用における最低限の利用基準の設定、利用させる価格や共同購入の費用分担の設定、そして法的な制約など、シェアには色々な問題があります。
しかし、これらの諸問題は、シェアの視点で新たなビジネスモデルや社会システムが考えられ、それらが世に多く出ることで、一歩ずつ、徐々に改良・改善され、一般化されていくと筆者は考えます。
シェアビジネス
実際に、日本でもシェアリングエコノミーと称されるシェアビジネスが多数リリースされています。
まず、世の中にあるシェアエコノミービジネスを俯瞰できるシェアリングエコノミー協会の「シェアリングエコノミー領域map」を紹介します。
シェアリングエコノミー協会では、シェアビジネスを、空間、スキル、モノ、移動、お金のシェアと区分しており、保険や相談対応、事業者のミートアップ活動などを通じて、事業者を支援し、国や市町村に働きかけてシェアリングエコノミーの普及活動にも務めています。シェアリングエコノミー協会の会員企業だけでも多くの事業者がシェアビジネスに挑戦している姿が見えます。
次に、シェアリングエコノミーの活用をレポートしている面白いサイトがありましたので、それも紹介しておきます。
このサイトで紹介される200選のサービスは、実際にサイト運営者が利用もして評価しているものが多く、シェアサービスを細かく評価しているので大変参考になります。
筆者の会社はシェアビジネスや社会システムを実現するためのパッケージシステムを開発・販売しているのですが、お客様には多数のシェアビジネスへの挑戦者がいらっしゃいます。それらの中のごく一部の実例を紹介したいと思います。
①自撮りん
「自撮りん」は自撮り動画を視聴する権利の売買の場を提供するハンドメイドのフリマ(デジタルコンテンツ)サービスです。動画を売りたい人は自分で値段をつけ、その動画が購入された際に手数料を引いた金額を入手することができます。出品は一定本数まで無料で、出品期限を設けているため、動画の価値が保たれるとても安全な動画フリマサイトです。
DIY建築資材を売りたい人、買いたい人をつなぐ建築資材専用のフリマアプリです。
建築現場から余った資材を登録してもらったり、余った工具を登録してもらったり、DIYで余った資機材を売ったり、買ったりと、建築関係の資機材に特化したニッチ分野でのシェアリングを実現しようとされています。
シェア社会
シェアという概念は、ビジネスの領域にとどまるものではありません。新たな社会コミュニティでも利用されるべきものです。
例えば、筆者の会社が実証実験にシェアリングのエンジンを提供した青森県弘前市の雪かきマッチングが典型的な実例です。
弘前市は青森県下でも有数の豪雪地域です。冬になると除雪車が出動するのですが、朝になると除雪した雪は硬い壁になり間口を塞ぐので、ツルハシでその壁を砕き、雪の塊を運んで除雪する必要があります。
それを間口除雪というのですが、独居老人など、除雪困難者は除雪ができないと外出することができなくなります。
近所の方々がボランティアで除雪を手伝ってくれるのですが、高齢化と過疎化が進む中、ニーズ(困難者)に対してシーズ(支援者)が圧倒的に不足している状況です。
そこで、もっと多くの支援者を集めるべく、近場の人だけで無理なら、地域の企業の方々や学生ボランディア、できれば観光客にも支援者になってもらい、困難者が納得できる対価を設定するようなシェアシステムを弘前市が検討されました。
プラットフォームを運用する収益性の検討が重要ですが、一方で、シェアの概念により、これまで考えもつかなかった担い手を想像することで、豪雪地帯特有の社会課題を広く解決できるかもしれない、という期待が高まっています。
さらに、このシステムでは雪かきに対する対価が発生しますが、それを地域通貨にする、というアイデアもあります。
対価はニーズである除雪困難者が支払うのですが、ある程度の対価は彼らも当然支払うと思っていることがアンケートで明確になっています。
これを地域通貨に置き換えて支払うことによって、例えば観光客が雪かきを支援してくれる場合、観光客がもらった地域通貨は他地域では使えないので、その地域内での土産購入や体験、施設利用など、地域における通貨の再利用を促進することになります。
経済循環が地域内に生じ、新たな地域活性化に寄与する社会システムにも発展する可能性があります。
雪かきだけではありません。
特に地域に行けば行くほど、資源不足による社会課題は多数存在します。子育て、介護、清掃、伐採、施設整備、高齢者向けの買い物支援や移動支援などなど・・多数の社会課題が地域を悩ませています。
ある地域では、観光資源があるものの、それを担う宿泊所や移動手段、アクティビティの担い手、食事場所がない、という課題がありました。
しかし、これらは全てシェアで解決することができます。地域の空き家や地域住民によるケータリング、体験の提供などを駆使するのです。
もちろん、法的な束縛を解決し、シェアビジネスを成立させるための担い手を集め・・ と課題は満載ですが、そこにある資源を有効活用して、地域でおもてなし、という考え方に立脚すれば、ある意味、その地域らしい特色が出るという効果も含めて有効な解決策になるのではないでしょうか。
このような社会課題はシェアの視点で言うところの“ニーズ”です。
そして、解決する資源、つまりシーズを別の視点から考えて増やすことができれば、インターネット上のツールを駆使してマッチングすればよい、ということになります。
このようなシェア社会のシステムは、今後、資源不足に悩む地域はもとより、大都市の小さなコミュニテイ単位でも活躍することが想定されます。
冒頭、ビジネスの領域にとどまるものではないと言いましたが、このような社会シェアのシステムが広がれば、その地域に存在する法人としては無視できない動きになるでしょう。
著者:宮﨑耕史
京都大学大学院 機械工学科卒、三和綜合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)のチーフコンサルタントを経て、株式会社カスタメディアを設立。
同社は、WEBコミュニケーションに必要なSNSやマッチング、シェアリングエコノミーのシステムを低価格で提供できるパッケージエンジンのASPサービスを100社以上の企業に提供している。