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中堅中小企業のビジネスアジリティ参考事例

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ビジネスアジリティな環境認識の事例

企業の紹介

企業名:株式会社はくばく
事業内容:食料品製造業
資本金:9,800万円
HP:https://www.hakubaku.co.jp/

事業の概要

山梨県中央市に本社をもつ株式会社はくばくは、1941年(昭和16年)精米会社として創業。麦類の戦時統制解除後、麦の会社として大麦を中心に加工品や乾麺などを製造し成長してきました。

1973年には自然食時代にマッチした大麦製品を開発するなど、変わりゆく社会のニーズに応える商品を数々提供しています。

ビジネスアジリティな環境認識のきっかけ

現社長長澤氏は大手商社を経て入社後、商品開発部門の責任者として顧客ニーズ変化の最前線に立ってきました。

商品開発部門の責任者に就任した長澤氏は、既存のマーケティング部門が顧客ニーズ把握のためではなく、大麦製品の需給調整を主目的としていることに問題意識を持っていました。

そこで、需給調整をシステム化すべくトヨタ生産方式を導入し、マーケティング部門を顧客状況把握に全力を尽くせる環境に改善したのです。

この改善をきっかけに、同社の環境認識のアジリティは向上していきました。

ビジネスアジリティな環境認識の具体的内容

(1)マーケティング部門を顧客との最前線に立たせる
「直接お客様の声を聴く」を基本姿勢に、使用状況を消費者から直接ヒアリングしたり、アンケートを外部委託したり、市場調査を行って情報を多面的に収集する活動を開始しました。

(2)現場情報を経営陣と共有する場の設置
マーケティング部門が収集した情報を、月一回の商品戦略会議で経営陣側と共有しています。

(3)情報を使えるものにする環境づくり
商品開発の最先端である商品戦略部の3分の2は、顧客に近い女性で編成されています。

中長期的な商品カテゴリーを決める会議も半年ごとに開催し、長期的な新事業発掘の場である「ネクストはくばく」会議には従業員を巻き込んで議論しています。

このように情操を使えるものにする環境を整えているのです。
さらに把握したニーズの変化に基づく新たな市場創造のための投資にも経営側は積極的です。

(4)従業員を巻き込んだ情報教育
従業員を巻き込んだ長期的な新事業発掘の場を設けたことで、経営への参画意識が醸成されました。現場ごとに環境変化へのアンテナを高くする派生効果が生まれています。

事例から学べる事

(1)アジリティな情報資本作りが優秀
長期的な新事業発掘及び会社の課題解決のための会議に従業員を参加させることで、情報の活かし方を学ばせ現場情報取得能力を高め、収集する情報の質を上げています。

会議では議論を通じて現場に眠っているアイデアが言語化される効果も期待できます。

女性主体の商品戦略部門、月一の商品戦略会議、半年ごとの商品カテゴリー会議は、現場で収集した生の声、調査したマクロ情報、現場で生まれたアイデア、を使えるものにする仕組みです。

もっとも、商品カテゴリー会議以外は現場である商品戦略部門に商品開発のイニシアティブを与え、よりアジリティな商品提供を可能にすることが次の課題といえます。

(2)アジリティな組織資本も一部みられる
変化した消費者ニーズへのソリューションとしての新市場創出への投資に経営陣が積極的です。

(3)残る課題
情報資本作りが非常に優れているので、さらに企業の俊敏性を増すためには失敗を恐れない成長マインドセットを促す仕組み作りが必要です。

既に従業員は「ネクストはくばく」を通じて事業への参画意識を高めているので、学習KPIを設定すればその活動はさらに活発化します。

起業家精神も養われ新事業創出の数が増えていくことも期待できるでしょう。

出典:2022年中小企業白書事例2-2-14
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b2_2_3.html

新規事業機会にステークホルダーと迅速対応した事例

企業の紹介

企業名:飯田工業薬品株式会社
事業内容:化学製品卸売業
資本金:6,000万円
HP:https://ichem.co.jp/

事業の概要

飯田工業薬品株式会社は、1938年創業以来地域産業である製紙業を相手に業歴を重ねてきました。

現在は製紙工業用資材、特に化学品、包装用フイルムの分野での専門商社として、本社のある静岡県富士市のみならず全国の製紙会社と取引しています。

こうした化学品、包装資材は電気・電子・自動車部品・プラモデル等他の地盤産業にもカスタマイズされ事業の幅を拡げています。

ステークホルダーと迅速対応したきっかけ

主要な取引相手である紙・パルプ産業の市場が縮小し始めたことから、現社長は危機感を強め企業の方向性を模索。

「社員一人ひとりが顧客目線で主体的に判断する力」が必要であると社会情勢を把握し、自社のあるべき姿を「社会との共生」のほかに「顧客本位」「独自能力」と再定義しました。

再定義から5年後には「信頼関係を構築する集団」を目指し、盲導犬として活躍するブラドール・レトリバーを模した「ラブラドール・ハート・カンパニー」を表明、社内外に浸透させる活動を活発させています。

こうした活動を通じてステークホルダーとの関係を深めていったのです。

ステークホルダーと迅速対応した具体的内容

(1)MVV浸透でONEteamの組織文化醸成
ステークホルダーとの迅速対応を可能にする前提として、社内のビジネスアジリティを高める必要があります。

社内アジリティを高めるためには、企業の方向性を同じくする組織文化を醸成する必要があります。

そこで同社では、再定義した経営理念・ビジョン・ミッションを社員手帳に明記し、朝礼や各種会議ではその読み合わせを15年以上続け、社内のベクトルをまとめてきました。

(2)MVVに沿ったマーケティング
経営理念である「社会との共生」のため、顧客(製紙会社)の課題を直接ヒアリングし、地域課題も同時に調査し始めた結果、両者で同じ課題(産廃処理)を抱えていることを発見しました。

(3)ステークホルダーと共に情報を使えるものにする
収集した情報を使えるものにするため、商社としての情報・ネットワークを活用しました。

産廃処理のため、製紙会社及び運搬業者、産廃処理業者、加工業者を結びつけリサイクルシステムを構築しました。

リサイクル率ほぼ100%を実現し、製紙会社のコスト削減と地域の環境問題を同時解決しています。

事例から学べる事

(1)アジリティな組織資本の実践
創業以来、地盤産業との取引で成長してきたため、自社のあるべき姿を「社会との共生」と再定義しました。

さらに「信頼関係を構築する集団」を目指すため、「ラブラドール・ハート・カンパニー」を表明しています。

企業の方向性を明白にすることで地域へのアンテナを先鋭化でき、顧客と地域社会共通の課題を発見し新事業創出に辿り着いています。

さらに、信頼関係を構築する集団として周辺業種も含めステークホルダーとの関係を深めていたことで、今回の機会を迅速に捉えられました。

(2)アジリティな情報資本の素地と今後の課題
方向性の浸透を徹底することで現場への権限委譲の素地が出来ています。

今後はアジリティな情報資本と人的資本を充実させていくことで、更なるビジネスアジリティが期待できるでしょう。

情報に接することの多い商社として、特質から既に従業員への情報教育や情報共有の場は充実しているかもしれません。

今後は学習KPIを設定するなどアジリティな人的資本施策を充実させることで現場活動を活発化させ、より俊敏な企業になることが課題といえます。

出典:2022年中小企業白書事例2-2-13
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b2_2_3.html

おわりに

最初の事例は創業以来商品開発に力を入れてきた歴史的経緯から、次の事例は商社としての特性から充実した情報資本を持つ素地を備えていました。

その素地を活かしアジリティな情報資本に変えたのは、最初の事例ではマーケティング部門が本来の業務に集中できるようにした組織資本の改善でした。

次の事例ではOneTeam文化を醸成するため、企業の方向性を明白にしたことがきっかけでした。

いずれも情報資本を活かすため、組織資本を改善したことでビジネスアジリティを実現したのです。

人的資本を充実させれば更なる俊敏な企業になることも期待できます。

このように3つの資本の視点で組織づくりしていけばビジネスアジリティは向上するのです。

著者:maru
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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