無難に過ごすこと

自動化と人手不足

「さて、A社様の案件だが、君はどう見る?」

「思っていたより根が深いですが、逆に、A社様だけでなく、どこでもありそうな話ではありますよね?」

「私も同じ意見だ。知っての通り、私はA社と関連会社には結構長く出入りしているのだが、気づいたことがある。物流部門のE課長の言っていたことを覚えている?」

「確か、毎日何百台のトラックの手配で、人手が足りないと。。。」

「そう。人の手が足りないと言っていた。」

「他の部門でも似たような事を言ってましたね。営業さんは小売りのフォローで手一杯で新商品は考えられないと仰ってました。工場の製造ライン部長さんは、経営陣からラインの自動化をさらに進めるように圧力がかかっていると。」

A社さんも、固定費削減の誘惑には耐えられなかったと推察する。A社さんの業界は、非常に横並び意識が強いから、業界1位の会社が人員削減で利益率を上げると、うちもやらなきゃ、って安易に人を減らしてしまう。」

「昔はどうだったんですか?これだけの規模ですし、良い時代もあったんじゃないですか?」

「その通り。かつてA社さんは、非常に儲かっていた。実はB副社長から聞いた話なんだがね・・・」

 

昔の会社と今の会社

以下、あくまで、B副社長から弊社ボスを経由してお聞きした内容を元にしていますので、話半分にお読みください。

「経営が順調だったころ、どこの会社でもそうだったように、社内の組織を整えた。特別な組織形態ではない。普通に、営業、製造、調達、物流、などの部門を作った。これまた他社と同様に、分業化、専門化が進んだ。」

「今でも組織がさらに細分化してますが、おそらくその当時と同じような組織ですよね」

「そう、組織は一緒だ。しかし中身が違う。昔は、各部門がお互いを、良い意味で監視していた。」

「どういう事ですか?」

「例えば、工場長は、調達部門が変な発注をすると、必ず文句を言いに行っていた。期の当初にあった生産計画に対して過剰な材料を買い付けると、工場長は調達部門に乗り込んできて、担当者を捕まえて説明させていたそうだ。」

「合理的理由が無い過剰発注は、いずれ経営に悪影響を及ぼすと分かっておられたんですね。」

「そう。特に創業当時のメンバーは、経営全体を分かっていたから、各部門の責任者になった後も、他部門に意見することができた。」

 

サラリーマンが会社で無難に生きること

話しているうちに、今回の課題の根治方法に近づいているような感覚を覚えました。

現時点ではあくまで仮説ですが、依頼元のA社様は、仕事の細分化、専門化が進んだせいで、各部門の担当者は日々の業務を局所的に最適な解決方法、つまり、自分自身が近くの人たちと軋轢を生まずに生産計画だけを達成する方法をとり続けるようになってしまったことが原因ではないのか、ということです。

過剰発注をしても他部門から怒鳴り込んでくる人は定年でもう居ませんから、直接にコミュニケーションを取っている他社の営業さんや、自分の上司だけ怒らせなければ、日々平穏に過ごせて、給料日には収入があります。人間、楽な方に流れるのは当たり前です。

「しかしこれは、根が深いと言いますか、人間の本能に従った結果起きているとも言えますし、どこから手を付ければ良いのでしょうか?」

「これは本当に難しい。対処療法的にいくつか策を打って、効いているものを選んで拡大していく、のはどうかな。」

「良いと思います。そういえば、経営企画部門では、原材料の調達から出荷までのタイムラグの計測を強化したと仰ってました。部門横断的に過剰在庫や過剰生産を減らすことに貢献しそうな策を、こちらからも提案していくようにします。」

「それで良いと思う、行きましょう。」

 

調達部門が懸念している裏事情

具体的な策をどうするか練っていると、ある日ボスに呼ばれました。

「実はA社様の件、色々と内情を聞いていたんだけれど、おそらく我々の仮説が当たっている。」

「どういうことですか?何か新しいことが?」

A社の体質の問題もあるんだけれど、さらにA社へ資材を納入していたS社というのがあって、これが問題を複雑にしていた。」

「ああ、鉄鋼メーカーの。どういう流れですか?」

「この地図の、K地区に注目して欲しい。A社のK地区工場と、S社のK地区工場が隣接しているだろう?まぁ、当初は、原材料の取引の利便性を考えて建てたんだろうね。」

「ところが最近、何か問題が起きているんですね?」

「実は、このS社からA社への納品の回数が、非常に少ないのだ。で、少ない回数で、1回あたりの納品量が非常に多い。」

「これは・・・単位が○○キログラムになってますが・・・」

A社商品1ロットあたりでの消費量を考えたら多すぎると思わないか?」

「そうですよね?もしかして、S社の最低ロットが大きすぎる?」

「その通り。まぁ、鉄はきちんと保管すればそう簡単に変質しないし、調子がよかったころは、順調に消費していけたんだろうね。」

「ところが今は、多品種少ロット。もし鉄製品の売れ行きが落ちたら、これ全部、無駄な在庫に・・・じゃ、調達部門がもっと工夫すれば経営改善につながるのでは?」

「そう。そう思って、調達部門に聞いてみたんだが、どうもS社の営業も良くない。わかるだろう?」

「○○キログラム購入すれば、ディスカウントする、のたぐいですね?」

「そう。しかも、各メーカーに卸す量を考えて年間の生産計画を立てなきゃならないだのと理由をつけてくるので、暗に、今、そのロットで買わないと機会損失に繋がるような印象を持ってしまう。」

「単純に、調達部門だけが悪いとは言えないですね・・・」

 

組織改善への処方箋

さて、このような状況での業務改善提案についてです。

程度の多少はありますが、ほぼ全ての場合において、業務上の課題は、やむを得ない事情や個人の力ではどうにもならないしがらみの積み重ねの結果です。

解決しようにも、もうどうしようもない、と、社員の人たちがあきらめムードになっていて、経営層の人たちは、それを歯がゆく思っていることが多いです。

そういう時に、直接、各部門長様に対して、ああしろ、こうしろと改善策をお伝えすることは、我々にとっては手間がかからなくて楽な方法ですが、ほぼ100パーセント、その提案は実行されません。

なぜなら、給料の遅配など直接的にわが身に降りかかる問題が起きない限り、その策を実行しなくてもサラリーマン的人生を過ごし続けることができるからです。

これは何も今回のA社様に限ったことではなく、どこでも同じです。

また一般に、経営層の皆様は、大変お忙しいので、業務の全てを詳細に監督することが出来ません。

各部門長に下した命令が、きちんと浸透していることを監督できれば良いのですが、A社様ほどの規模になってくると、それは難しいです。

例えば、役員報告会を月1回から月45回に増やせば、全事業所からの役員報告会でB副社長の予定は埋まってしまいます。

また、各部門長も、その報告のための準備作業が45倍になるわけですから、反発が起きることは火を見るより明らかです。

こうした状況を打破するために、人工知能や機械学習、ディープラーニングなど流行りの技術に安易に飛びつくことはお勧めできません。

しかし、それらを工夫して使えば、成果を得られる可能性が上がります。次回最終回では、いくつかの処方箋を紹介します。

<次回へ続く>

著者:笹嶋宗彦(ささじまむねひこ)
博士(工学)。専門は知識工学。企業と大学両方の立場から、AI技術を現場に適用する
産学連携プロジェクトに数多く参加。現在は兵庫県立大学にてデータサイエンス系の
新学部設立に携わっている。AI応用は課題発見と施策の浸透までやってこそ、が信条。
人工知能学会論文賞2回受賞(1996、2012)

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