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国家資本主義の行く末

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こんにちは!栗原誠一郎です。

アントグループの上場延期

2020年11月3日、中国のアリババ集団傘下の金融会社であるアントグループ上海・香港の両株式市場への上場延期が発表されました。

上場予定日(11月5日)の3日前になっての急な展開から、日経新聞をはじめ各種メディアでは中国国家主席の習近平が上場延期に追い込んだと報道されました。

中国政府による民間支配の一端か?

日経新聞ではこのアント上場延期を、中国政府による民間支配の象徴のように報道していますが、実際は別物でしょう。

アントグループは実質的には銀行と同じ金融業ですが、銀行が借手保護のために受けている資本規制の適用を受けてきませんでした。もちろんこれはアントだけではなく、その他のフィンテック企業も同じです。

もちろん規模が小さい内はそれでもよかったのでしょうが、今やアントグループの個人への融資残高は中国の消費者金融の2割に達しているのですから、放置はできません。
実際、中国金融当局は2017年頃から規制を強化してきましたが、それでもアントグループの成長は止まりませんでした。

そのような流れの中、2020年10月24日、銀行界の大物や金融監督当局や政府の要人が出席した上海の会合で、アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)が、国内の金融規制が技術革新や経済成長の足を引っ張っていると公然と金融当局を批判しました。

ここまで成長するにはそれなりのニーズがあり、サービスとしての品質も良いからで、馬雲(ジャック・マー)の考えにもそれなりの正義はありますが、銀行をはじめとする規制を受けている企業からすれば妬みの対象ですし、金融当局としても何としても管理下におく必要があると思うこと自体自然の流れでしょう。

結果、11月2日、ネット小口融資の資本規制の強化など新規制案が公表され、今回の事態になったわけですが、実はアントグループと競合するフィンテック企業の陸金所(ルーファックス)は10月末にニューヨーク市場で上場を果たしています。
これに先立って投資家には、中国の規制当局からオンライン融資規制強化の通達があったことを説明していており、アントグループも寝耳に水の話ではなかったはずです。

上述した馬雲(ジャック・マー)の金融当局に対する批判はこの動きを受けてのことだと思います。

逆に、アントグループは上場に向けての海外投資家向け説明の場で、こうした規制強化の可能性に言及していませんでした。

同社広報担当者は、2日に市中協議文書が公表されるまで規制強化案の詳しい内容は把握していなかったと述べているそうですが、投資家に対する誠実な姿勢とは言えないでしょう。

いずれにしろ、今回の一件は中国政府による民間支配ではなく、フィンテックをはじめとする新しいテクノロジー企業と規制当局との対決という世界中で起きている構図の出来事といえるでしょう。

中国の国営企業改革と民間企業への関与強化

中国は改革開放路線に転換後、非効率な国有企業改革に取り組んできました。結果、国有企業数は激減しました。

代りに外資企業も含めた民営企業が発展し中国経済を世界第2位の経済大国にまで引っ張り上げたのですが、その民営企業に対して2006年、中国政府は関与を明確にし始めます。

「中国共産党の規定に基づき、会社内に裕極共産党の組織を設立し、党の活動を行う。会社は党組織の活動のために必要な条件を提供しなければならない」と会社法で定めたのです。

習近平が国家主席に就任して以降、そこから一歩進め、共産党の経営への関与を認めるように定款の変更を求めるようになりました。
実際、その要求に応じ、2017年の段階で上場企業の8社に1社が定款を変更しました。

更にリーマンショック以降は資本注入も進みました。こうした状況を見れば、中国政府は共産主義イデオロギーに基づき、民間企業の国有化を進めているようにも見えます。

もちろんこの流れも政府側からすれば必要性はありました。
例えば2004年頃、中国は過剰投資により景気過熱が懸念されたていましたが、これは政府の管理が足りなかったという側面もあります。

リーマンショック以降の資本注入は、経済の安定という側面もある訳です。

国家資本主義の行く末

政治科学者イアン・ブレマーは著書「自由市場の終焉――国家資本主義とどう闘うか」の中で、中国は先進国の自由市場経済に対抗する国家資本主義を推進する中心的国家であると述べています。

国家が資本主義に介入し管理する事自体は、日本も含め先進自由主義国家においても行われていることで、国民経済の為に必要な事として認識されている訳です。上述した金融当局により関与もその一つでしょう。

しかし、その関与が行き過ぎれば、馬雲(ジャック・マー)が主張するように、技術革新や経済成長の足を引っ張ることになります。
それも一党独裁政権ですから汚職の温床にもなりかねません。

汚職が蔓延し、国民の生活を無視した政権の行く就く先は中国の歴史が示しているように革命による政権交代です。

習近平の目指す「中国の特色ある社会主義」は上手くその舵取りができるでしょうか?

皆さんはどう思いますか?

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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