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現代企業の経営理念のあり方

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第1部 現代企業の経営理念
第1章 企業とは何か?

第5節 現代企業の経営理念のあり方

以上をとおして、われわれは、次のことがらを確認してきた。

《第一》に、「企業」は人類の物質的生活の維持・向上に欠くことのできない役割を果たしており、そのようなものとして存続しつづけなければならないこと。
《第二》に、現在の企業が存続しつづけるために、(1)「利益」をあげ、(2)「従業者の幸福」を実現し、⑶「社会的責任」を果たす、という三つの存立条件を充足する必要があること。
《第三》に、この三つの存立条件を充足するためには、企業は付加価値を「効率よく生産」しなければならないこと。

本節では、このような基礎的な事実をふまえながら、現代企業の経営理念はいかにあるべきかを検討のテーマとする。企業の経営理念を考えるにあたっては、現代企業に課せられた三つの存立条件を、企業活動の自由に課せられた制約であるというようにとらえる思考では、充分ではない。「利益をあげつつ従業者の幸福を実現し、社会責任を果たすこと」を、単なる企業活動への制約と考えるのではなく、積極的に企業の目的としてとらえ、「人類の物質的生活の維持向上」を、単なる企業の事実として果たしている役割というにとどまらず、積極的に果たすべき企業の根本使命ととらえる思考が求められるところとなる。

現代企業の経営理念を正しくつかむためには、十九世紀の初期資本主義時代の経営理念と、現代企業の経営理念を対比することが必要である。

(1) 十九世紀型の経営理念:「純利益志向の経営」

すでに検時したように、十九世紀型の経営は「利益」要件さえ満たせば存続できたのであった。軽工業主体で企業規模は小さく、企業は個人所有がふつうの姿であったから、えてして、私利私欲の手段となりやすく、それに加えて「労働組合」は存在しなかったから、従業員を搾取し部使して、利益をあげることも可能であった。このような条件のもとでは、企業経営は、「純利益」を唯一の目的として、これを価値判断の基準(理念)として行なわれることになるのがふつうの次であった。すなわち「純利益志向」の経営理念が一般的だったのである。

「純利益志向」の経営理念とは、売上から諸費用を差し引いた残りである純利益の極大化を目的とし、これを根本的な判断基準として経営を行なう考え方である。

①このような経営理念のもとでは、諸費用を削減すればするほど、企業目的は達成されることになるが、重要なことは、この諸費用のなかには、付加価値計算でいう外部費用のみならず、「人件費」も含まれていることである。したがって、従業員を酷使・搾取して人件費を削減し、利益を増大させることも正当化されうることになりかねない。

②この経営理念のもとでは、諸費用を投下し、これを手段として利益を産出することを目的とする。諸費用のなかには、材料費も人件費も同一の平面で含まれている。すなわち、この志向のもとでは、人間を「モノ」と同一視し、人間を手段として、利益を生むという考え方に陥りやすい。

したがって、この経営理念のもとでは、高賃金を求める従業員の志向と、高利益を求める経営の志向は対立せざるをえず、また、働きがい・生きがいを求める従業員の志向と、従業員を手段として利益を追求する経営の志向は対立せざるをえない。このような経営理念のもとでは、労使協力は実現されえない。

事実、十九世紀の初期資本主義のもとでは、実態としても、また考え方や理念においても、労使は対立関係にあったと考えられるのである。

(2) 現代の経営理念:「付加価値志向の経営」

このような十九世紀的・初期資本主義的経営理念との対比のなかで、現代の企業がとるべき経営理念が明確になるであろう。

すでに検討したように、二十世紀初頭以降の企業は、「利益要件」さえ満たせば存続できるのではない。「利益」をあげながら、「従業員の幸福」を満たし、「社会的責任」を果たすことによって、はじめて現代の企業は存続できるのであった。

二十世紀を代表する企業は、重化学工業を基盤とするビッグ・ビジネスであり、企業の所有形態は、株式会社が支配的となり、企業所有はいちじるしく分散・流動化し、企業は社会性を深め、また所有の力の後退とともに、経営を指揮する専門職能としての経営者の経営支配が成立し、いかなる意味でも経営は特定個人の私物ではなくなる。

さらに二十世紀になり、労働組合が法的・社会的に公認され、労働組合との協力関係なくしては、企業は存続できなくなった。

このような背景のもとでは、もはや純利益志向の経営を維持することはできない。二十世紀の企業環境に適合する経営理念は、「付加価値志向の経営」理念でなければならないのである。

「付加価値志向の経営理念」とは、売上高から外部費用を差し引いた企業が新たにつくりだした価値、利益・賃金・税金などの分配の原資となる付加価値を極大化し、もって利益を向上させ、企業成長・経済成長を可能にして将来の生活向上に資するとともに、賃金を向上させ、現在の生活を保障し、さらに納税などをつうじて、国家社会に貢献することをめざす経営理念をいう。「付加価値志向の経営」とは、このような理念、価値判断の基準に導かれた経営のことである。

純利益志向の経営との対比でいえば、付加価値志向の経営には次のような特徴がある。

①付加価値志向の経営のもとでは、人件費をも含む費用をきりつめて純利益をあげることが目的ではなく、利益と人件費の双方の原資となる付加価値を極大化することが目的である。生産性が向上して、付加価値が効率よくふえれば、利益の向上と賃金の上昇の双方を両立させることができる。この経営理念では、高賃金、高利益の両立をめざすのである。

②付加価値志向の経営のもとでは、純利益志向の経営のように「人間」を材料費と同じ平面において、これを手段として利益という「モノ」をあげることが目的ではなく、「人間」が外部費用に働きかけ、外部費用を手段として付加価値を生み出し、「人間」の現在および将来の生活向上を可能ならしめることが目的である。すなわち、「人間」はここでは手段ではなく「目的」となる。

したがって、この経営理念のもとでは、高賃金を求める従業員の志向と高利益を求める経営の志向を、両立させることができ、従業員の働きがい、生きがいの実現は経営目的の一つとなるのであって、この経営理念の確立によってはじめて企業と従業員の協力、経営陣と労働組合の協力が可能となるのである。

現代の経営においては、付加価値志向の経営理念を確立し、これを全従業員に周知徹底させ、生産性向上・付加価値の効率よい生産における、企業と従業員の協力体制・経営陣と労働組合の協力体制を実現し、付加価値生産の共同体を形成し、経営の成果をあげることが、求められるところとなる。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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