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自由経済下の企業の基本精神

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第1部 現代企業の経営理念
第1章 企業とは何か?

第2節 自由経済下の企業の基本精神

今日の企業は、基本的には自由経済下の民間企業として存在する。

自由経済のシステムの特質は何か。

①自由経済の「自由」であるゆえんは、何よりも「会社を創ることの自由」・「意思決定の自由」を意味する。しかし、それは反面「不適切な意思決定をやって倒産すること」の自由も意味する。つまる所、誰も救けてはくれない。仮に運が心かったとしても、倒産することは自己責任である。
②企業にとって直接の買い手となる顧客、終局の所、消費者・ユーザーが、ある物質・サービスを買うか買わないかは「自由」である。

企業がいかなる物質・サービスを供給するかは自由、消費者・ユーザーがそれを買うか・買わないかも自由、これが自由経済の基本となる所である。そうである以上、企業は、いかなる意思決定をするのも自由であるとはいえ、消費者・ユーザーに受容してもらわなければ、自らの提供したものが社会的に無益であるという烙印を押されたことになり、投下した資金も回収できず、倒産する自由に引き渡されることになることを覚悟しなければならない。故に、企業は、社会にとって有益な物質・サービスの提供を志向せざるを得ない。

ひとたび有益な物質・サービスを提供できたとして、それで安心という訳にはいかない。誰かが類似の事業を行う会社をつくることも自由であり、既に存在する会社が類似のことをやってやろうという意思決定をすることも自由である。即ち、企業の自由が存在する限り、自由競争を逃れることはできない。

世の中が豊かになるにつれ、人々の間には安心・安定志向が強くなる。しかし、自由経済の本質は競争を通じた不断の進歩・向上を求める。自由経済下にある限り、少なくともそのなかで現役として活動する限り、どこまでいっても安心も安泰も安定もないと心得るべきであろう。

自由経済・自由競争の下では、オンリーワンになることは原則として不可能であり、ナンバーワンを目指す以外にはない。従って、企業としては、競争優位を追求しつつ、消費者・ユーザーのニーズを充足することを志向せざるを得ない。

これが、自由経済下の民間企業のおかれた基本的な存在条件である。これをふまえれば、企業にとって重要なことは、何よりも競争をふまえつつ自らの社会的存在理由を高めることである。どの企業でも簡単にマネのできるような社会的存在理由の低い所に留まっていれば、いかに守銭奴的経営でケチを決め込んだ所で、所詮は価格競争に巻き込まれて儲からなくなる。余人をもって簡単にはかえ難い社会的存在理由の高い事業を展開すれば、結果としての儲けはついてくる。

企業人として高い成果を生む高い地位を求める場合、他人を押しのけてあくせく立志出世に策を弄すれば、望む所が手に入るのか。そうではないであろう。企業人として余人を以てかえ難い能力をつけ貢献度を高めることが基本である。会社においても論理は全く同じである。

自らの事業はいかなる社会的必要を充足しているか、自らの会社の存在理由・存在価値を高めるには何をなすべきか。競合他社ではなく自らの会社が存在する理由とは何か。この事業理念上の問いを不断に自らに問い返さなければならない。

当り前のことだが、今日のように社会的分業が発達した時代には、自給自足は原則として有り得ず、企業が物質・サービスを提供する。従って、企業は世の為・人の為に活動しているのである。とすれば、自らの存在理由を高めようと志向することは当然のことであろう。

現代では、自然科学の発達をベースに、技術はいろいろな分野でますます高度化している。次々と革新的技術も生まれる。しかし、それをこの世の中で本当に有用なものとするのは、企業という場においてのみであることを知らなければならない。

エンジニアが画期的発明をしたと誇っても、それはただその人に発明の才能のあることの証しにしかならない。その発明をベースに新製品を世に受け入れられるコストで作り、その有用性を認知させる営業活動を展開し、実際に売れてはじめて社会に有用であったことが証明される。

自然科学の発達は、それ自体は、人類の知的活動・広義文化活動の前進となるものだが、直接にこの世の中で役に立つものとは必ずしも言えない。素粒子物理は、おそらく、この世の中で直接に役立つものではないであろう。そのような自然科学を有用性の視点から切り出すのがテクノロジー・工学である。しかし、工学が進歩しても、それを企業が製品・サービスとして具現化し、開発・製造・販売努力を払って、はじめて「社会にとって役に立つ」という所の入口に来る。あとは売れるか売れないか、である。

不況が到来すると、その会社の物資・サービスが売れにくくなり、会社はいささか苦悶する。売上げが伸びにくい・場合によっては低下する事態を前に、内部コスト(特に人件費)の圧縮に活路を求めようとする。このようなことは短期の不況対策としては正当化できよう。しかし、それはあくまで、短期の対応に過ぎない。このような対応を長期に亘ってとり続ければ、企業が消滅に向かうことは明らかであろう。

故に、真の不況対応をしたければ、売上げが伸びにくい・低下することを前提にしてはならない。売上げの停濡・低下とは、自社の提供する物質・サービスの社会的有用度の低下である。とすれば、いかに社会的有用度の向上をはかるか、自社の存在理由を高めるか、が解かれなければならない。

世の中の不況が望ましいという人はいないであろう。マルクス主義者は貧困と(不況による)失業が資本主義の二大害悪であると言った。失業の苦痛は緩和されなければならないだろうが、果たして、マルクス主義者のいうことは妥当か。好況・不況、総じて景気循環は自由経済につきまとう。好況の時は、概ね延長線上の量的拡大で企業が走る。それが極点に近くなると、第一には、人手不足で賃金が上昇し、第二には、資金の逼迫で金利が上昇し、利益が圧迫される。ここで景気が反転する。もはや従来の延長線上での企業活動は許容されなくなる。ここを考えれば、不況とは企業に「革新」を求める社会的圧力だと考えることができるであろう。万年好況では勝者はいつまでも勝者である。不況が来れば、昨日の勝者はもはや今日の勝者ではない。

自由経済下の企業は、

「競争優位を追求しつつ自社の事業の社会的存在理由を高めること」、

を必然的に求められる。

安心・安泰・安定を求めてはならない。現状維持は企業間競争の現実の前には、維持ではなく退歩にしかならない。アグレッシブに革新を追求するマインド、進歩向上を求めてやまない精神が、自由経済下の企業の理念的支柱でなければならない。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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