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「存在意義」としてのパーパスと「目的」としてのパーパス

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パーパスが今必要とされる理由

「存在意義」としてのパーパスと「目的」としてのパーパス、この2つのパーパスを経営に活かせれば、「イノベーション」と「稼働率の平準化」というビジネスにおける大きな課題に対する解決の糸口が見つかり、最高のビジネスモデルが造れるというのがこの記事のテーマです。

「存在意義」としてのパーパスが今必要とされる理由

『パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える』(東洋経済新報社)の著者で一橋ビジネススクールの客員教授、名和高司氏は以下の3点を理由に挙げています。

いずれもマーケティングの権威、フィリップ・コトラーが言うように、インターネットが一般に普及し、消費者が情報の王様になったことに起因するものです。

情報に対する主体的活動が可能になったため、これまで以上に社会貢献への関心が高まり、購買基準に企業の社会性を求めるようになった結果が、エシカル活動といえます。

従来の杓子定規的な経営理念ではなく、共感できる企業姿勢を求められているのです。

「目的」としてのパーパスが今必要とされる理由

人口減少という社会情勢が企業経営において重視すべきポイントを変え、より正確な需要発生の時期と量、求められているサービス内容に応じたビジネスモデルを構築する必要が生じています。

顧客分類をニーズではなくパーパスを指標にするのは、例えば、来店目的は、欲しいものがあるといった単純なニーズに起因するものから、イベントやキャンペーンへの関心にすぎない場合や時間的場所的便利な立地にすぎない場合もあるので、ニーズで分類すると需要の時期と量(商圏)、求められるサービス内容をうまく把握できないからです。

「存在意義」としてのパーパス

MVVとの相違

(1)MVVとパーパスの関係

従来企業理念や行動指針を決める際用いられてきた概念は、ピーター・ドラッカーが提唱したMVV、Mission、Vision、valueでした。

しかし、名和高司氏は、MVVは20世紀に役目が終わり、これからは「志(こころざし)」の時代になるとして、パーパス・ドリーム・ビリーフを提唱しています。

MVVは「与えられたもの」として客観的正義、パーパスは「内側から湧き出てくるもの」として主観的正義と位置づけ、以下のように区別しています。

「ディープ・パーパス:優れた企業の核心」の著者で、ハーバードビジネススクールの教授のランジェイ・グラティ氏も、社外の人が考えた「与えられた」パーパスは表層的にしか機能しないとして否定し、本物のパーパスは、社員や役員が長い時間をかけて何度も議論する中から生まれるものとして、名和氏と同じようにパーパスを主観的なものと捉えています。

その構成要素について、名和氏は3つのキーワードを使って説明しています。

「存在意義」としてのパーパスの効果

(1)共感と共鳴

・消費者の共感
・投資家の共感
・従業員の共鳴

より主観的な存在として求められるようになったパーパスは、共感と共鳴をもってステークホルダーに迎えられるようになっています。

エシカルを求める消費者と投資家は、同じ方向性を向いている社会的存在として共感をもって迎えてくれるでしょう。

短期的な収益を求めない投資家の存在は、企業にとって新しいことに挑戦しやすい経営環境を整えてくれます。

仕事を通じて成し遂げたい熱い思いと共鳴した従業員は、企業活動に積極的に参加する存在として自律的動機付けが得られます。

これは企業にとって生産性を向上させる大きなメリットです。

(2)ビジネスモデルへの効果

・アジャイル開発による新事業「探索」
・ウォーターフォール型の経営改善という「深化」
・「探索」と「深化」を両立させる両利き経営が可能に

デジタル化により変化のスピードが増した世界ではこれまで以上に不確定要素が増え、MBAの知識を持って策定した3年から5年の中期計画が機能しなくなっています。

つまり、企業の収益基盤であった事業分野が5年以内に崩壊してしまうリスクがあるのです。

「グローバルニッチトップ」の商標を持つ日東電工が採用している経営指標「全売上高に占める新製品比率35%」は、3年で全製品が入替るビジネスモデルを想定しており、デジタル社会の本質をうまく捉えたものといえます。

新事業開発と経営改善を両立させる「両利き経営」は変化の激しい社会での企業生き残りのビジネスモデルとして注目されています。

しかし「両利き経営」は、短期で小さな失敗を繰り返し学びながら市場を創造していく「アジャイル開発」と、計画通りの工程を着実に進めていく「ウォーターフォール型」経営改善という、ベクトルが全く異なる経営スタイルの共存を想定しているため軋轢を生みやすくします。

こうした軋轢を緩和するのが、変わることのない長期的視点を持ったパーパスです。

パーパスがつくる最高のイノベーション環境

カルフォルニア大学教授で「オープン・イノベーション」の提唱者ヘンリー・チェスブロウが言うように「ほとんどのイノベーションは失敗する。でも、イノベーションをしない企業は、死ぬ」。

アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、株主への手紙で、Amazonを「世界で最も失敗するのに適した場所」として次のように語っています。

「長期志向になれば、顧客の利益と株主利益は一致する。短期的に見れば、必ずしもそうではないのだ。(中略)発明には長期のアプローチが欠かせない。というのは、その途中で多くの失敗を経るからだ。」

このように、「失敗を恐れないこと」と「忍耐強く長期的に考えること」を、株主へ訴え続けていました。

何度も失敗できる環境と豊富なアイデアが生まれる土壌がイノベーションを生み出すには必要なのです。「存在意義」としてパーパスを造ることでこの環境と土壌が手に入るのです。

「目的」としてのパーパス

「目的」としてのパーパスによるビジネスモデル創出

コスト効率と既存顧客のリピート率向上を両立させるため、需要の時期と量(商圏)、求められるサービス内容を把握する指標として「目的」を意味するパーパスを基準に顧客を分類することはビジネスモデル創出において役割を果たします。

スターバックスコーヒーや近時ではb8ta(ベータ)など顧客の真のパーパス(目的)を捉えたビジネスモデルが生まれています。

スターバックスコーヒーは、「コーヒーを飲むこと」ではなく、「本を読みたい」「勉強をしたい」「友達とおしゃべりしたい」とする顧客のパーパスを捉え新しいビジネスモデルを生み出しました。

実店舗を訪れる顧客のパーパスを「買うこと」ではなく、「体験できること」「ECにより早く手に入ること」と捉え、新しいビジネスモデルを造ったのがb8ta(ベータ)です。

その他のビジネスモデル創出事例

パーパスに基づく顧客ポートフォリオを絞込み、オペレーションの効率化とサービスのマニュアル化で多店舗展開し収益をあげている代表例が「カレーハウスCoCo壱番屋」と「QBハウス」です。

前者は「飽きのこないカレー」を極め需要の変動を抑制し、後者は時間とコストの削減を求める顧客のパーパスを捉え、コスト効率とリピート率向上を両立させるビジネスモデルを構築しています。

おわりに

「存在意義」としてのパーパスは、デジタル化というテクノロジーの変化を背景にその必要性が高まっています。

「目的」としてのパーパスは人口減少という社会構造の変化を背景に必要になったといえるでしょう。

前者は企業側のパーパスとして、後者は顧客側のパーパスとして相対する主体のパーパスです。

しかし、この2つの意味のパーパスを経営に持ち込み、目指すのは、イノベーションを生み出しやすい経営環境であり、稼働率の平準化を実現するビジネスモデルです。

従って、2つのパーパスを活かせれば攻守にわたる最高のビジネスモデルが出来上がります。

第2回記事では、2つの意味のパーパスを経営に活かす具体的手法を紹介しているので、続けてお読み頂ければ幸いです。

著者:maru

2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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