ポジショニング分析というと、一般的に新製品開発や製品の改良の検討に使われるイメージが強いフレームワークですが、実は企業の経営戦略や、マーケティング戦略の中核の部分でも活用される手法です。
今回は、ポジショニング分析が企業の戦略にどのように活用されているのかを見ていきます。
経営戦略のステップとは
そもそも、ポジショニングが活用される経営戦略とはどんなものでしょうか?
一般的に経営戦略は、以下のようなステップを踏んで構築されるといわれています。
1.経営理念(経営者の考え方、企業ポリシー)
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2.経営目標(売上高や利益、シェアなど)
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3.環境分析(企業内部、企業外部の分析。SWOT分析(※注釈2)など)
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4.生存領域 (戦略ドメインとも言われる。企業が生き残っていく領域)の決定
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5.経営戦略の決定
その中で、企業の生存領域(戦略ドメイン)を決める際に、ポジショニング手法が活用できます。
SWOT分析と同じように、環境分析の手法の一つとも言えます。
経営戦略の中でのポジショニングの役割
企業は「環境適応業である」とよく言われます。
経営環境の変化について行かないと、あっという間に売上は減少し、企業経営は傾いていきます。
企業は、その時々の環境の変化に応じて、生きていく領域を変えていかなくてはなりません。
例えば、音楽を楽しむ機器は、レコード→カセット→CD→MD→スマートフォンという風にあっという間に変化していきました。
つまり、変化する市場環境の中で、生き残っていくために、自社にとって、最も良い立ち位置、場所を決めることが重要なのです。
その時にポジショニング分析が有効なのですが、いきなり生存領域を決めるために使うのではなくて、一旦自社と他社のポジションを分析した上で、自社の今後の生存領域を考えていきます。
ポジショニング分析を使った生存領域(戦略ドメイン)決定の手順
1.生存領域(ドメイン)の要素を調べる
自社や業界のドメイン要素は何か?顧客はどういう理由でその企業の製品を購入しているのか?を調べることにより、ポジショニング分析する際の軸を決めます。
軸の要素には以下のようなものがあります。
(1)マーケティングミックス
・製品(商品) ・・・・・・・消費者用か産業用か、ハイスペックか汎用かなど
・価格・・・・・・・・・・・高級か大衆かなど
・プロモーション・・・・・・販売促進策の種類(TV・ラジオ・新聞)、頻度など
・流通経路・・・・・・・・・直販か卸か、店舗販売か通販かなど
(2)消費者の特性
・地理的要因・・・・・・・・都市の規模、地理的特徴など
・デモグラフィック要因・・・年齢、性別、収入など
・サイコグラフィック要因・・嗜好、ライフスタイル、購入頻度など
2.自社および競合他社をポジショニング
選んだ2軸で作られた2次元のグラフに、自社および競合会社を配置していきます。
その際は、売上高に応じて各社の円の大きさを変えても良いでしょう。
また、各社のブランドマークを配しても、イメージが湧きやすいでしょう。
その際の留意点としては、
・自社と他社の特徴がハッキリ理解できること。
・特定の象限にポジショニングされ過ぎない軸を選ぶこと。
などが上げられます。
3.自社および他社の生存領域(戦略ドメイン)を分析
配置したポジショニングの意味を理解していく段階です。
この例では、流通経路と価格帯を軸にして、ポジショニングしています。大衆志向の製品(商品)を店舗販売している中小企業群(A社・B社・D社)と、高級品を卸ルートで販売している2強(C社・E社)の企業群があることが分かります。
4.製品の今後のトレンドを考慮して、戦略ドメインを分析、決定
現状の自社の生存領域(戦略ドメイン)を把握した後は、今後どのような象限に行くべきかを決めていかなくてはいけません。
マップの中で自社の位置は、ほぼ中央にあります。
一見バランスが良いように見えますが、特徴のない経営戦略とも言えます。
大企業の場合、製品や販売方法をオールラウンドで行う「全方位戦略」と言われる戦略がありますが、経営資源の小さい我社は、特徴を活かした戦略が必要です。
パッと見には「高級志向×店舗販売多い」や「大衆志向×卸販売多い」の領域が、競争がなさそうですが、大事なことは顧客の志向が今後どこに向かうかというトレンドも把握することです。
つまり、顧客の嗜好のトレンドの変化を掴みつつ、競争の少ない領域への進出するのが、中小企業としては最も良い生存領域(戦略ドメイン)であると言えます。
まとめ
今回は、製品レベルではなく、企業戦略のレベルでのポジショニング分析の活用方法について見てきましたが、いかがだったでしょうか?
ポジショニング分析の要諦は、「視覚的に比較できる」という点にあります。
どの領域で生き残っていくかということは、企業戦略において最も大切なテーマですが、一部の経営者によって閉鎖的に進められることが多いため、経験や勘に頼ることも多く、恣意的にもなりやすいものです。
ポジショニング分析は、戦略ドメインに関係する数値をマップ上に表現し、自社と競争企業の関係を視覚に訴えることで、現状を共有することが出来ます。
また、そんな方法なため、最も妥当性があり、合意できる結果を導きやすいのが、ポジショニング分析であるといえます。
著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。