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中国における新規事業展開

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巨大市場における注力製品の拡販推進

20112月東日本大震災の直前に、筆者の入社以来の念願が叶って、中国・北京赴任辞令が出ました。

世界の工場としてのベースを備えた巨大販売市場でもある中国で、当社注力製品を拡販することがミッションとなりました。

筆者は、学生時代に3年間の中国留学経験(ハルピン及び長春)があり思い入れも強く、赴任前に独自に最新の中国の政治経済やビジネスに関する調査を行いました。

その結果、中国ビジネスは政治的な要素が大きく影響を及ぼすという認識を改めて強め、赴任後は様々な手を打って行きました。

 

独特な中国市場を攻略するために

当社の中国市場戦略は、政府開発援助(ODA)を活用したエンドユーザーへの主要発電設備の直接販売から、約20年前には既に中国三大メーカーの一角であるT電気との技術提携を通じた間接販売へ軸足を移していました。

中国政府は90年代半ば以降、高度な海外技術を導入するために、中国の大型発電設備メーカーと海外メーカーの技術提携を推進しました。

自動車や鉄道などの業界でも中国では当たり前になっている、所謂、技術と市場のバーター取引の始まりです。

石炭火力大型発電設備分野では、四川省成都に拠点を置くT電気と当社、上海に拠点を置くS電気とドイツのS社、黒龍江省ハルピンに拠点を置くH電気がアメリカのG社と技術提携を深め、中国市場を3分しました。

海外メーカーは、技術提携に当たり、コア技術は決して提携範囲に含めません。

8割方の技術は渡しても、中核となる部分は日本の自社工場で製造したものを買い取ってもらう仕組みを取りました。

それにより、当社がこの技術提携の恩恵により受注したコア製品の累計金額は、当初の10年で1000億円を超えました。

 

特定パートナーとの程よい距離感、新規パートナー開拓

今回中国市場での拡販を図る製品分野において、大型のものは既に10年以上前から、日本メーカーのM社がT電気と、ドイツのS社がS電気と、G社がH電気で市場を3分していました。

当社にはこの製品の大型設備ラインナップがなかった為に、後追い新規参入の立場で、世界市場で170台以上の納入実績がある中小型発電設備の拡販に注力しました。

中小型発電設備分野は、製造設備や加工技術も大型設備ほど高度なものが要求されないため、後発のメーカーや航空機エンジン・メーカーなども参入しやすい分野です。

この点を考慮して、中国政府は大型発電設備のように3大メーカーとの技術提携による市場3分の方針は取らず、あくまで競争原理で需給バランスを図る姿勢を取りました。

しかし、実際のところ、この製品分野で最も実力のあるアメリカG社は、やはり政治的な動きを見せました。

南京を拠点とするNタービンとの技術提携を進め、その後は中国五大電力会社の一角であるHD電力と製造・販売合弁会社を上海に設立しました。

そこで筆者は、これまで大型石炭火力分野で付き合って来たT電気との関係も維持しつつ、新たな現地パートナーの発掘と関係強化に乗り出しました。

初めに、既に入札の案件ベースで協力関係があった黒龍江省ハルピンに拠点を置くZ社と合弁会社設立に向けて交渉を始めました。

Z社は、幹部全員が清華大学出身者で中央政府とのパイプも太く、発電プラント全体の設計や機器購入、据え付け工事も取りまとめる能力を持っていました。

当社はコア技術を残して供給するだけでリスクが少なく高収益が期待できる形を取り、案件開発からプロジェクト全体管理までZ社の政治的能力や産業界での顔を上手く利用する方針でした。

Z社との合弁会社設立交渉は、出資比率など幾つかの問題で頓挫しましたが、これを契機に両社の営業活動における協力体制は強化され、20144月に浙江省寧波市内の案件を共同受注しました。

この他に、主要な市場となる省・都市や関連専門分野における有力なパートナー8社と次々に営業協定を結び、案件情報の収集と案件共同開発や入札を行いました。

これにより、中国の業界内で一気に当社のプレゼンスが上がったのは言うまでもありません。

 

徹底したマーケティング手法の導入

日本やアメリカでも、営業マンの個人的な力量や裁量によって案件情報を入手したり、顧客を訪問して関係を築いたりすることがよくあると思います。

中国では、その傾向がより一層強く、行動力のある営業マンや声の大きい営業マン、日本の幹部と親しい営業マンの話しが通りやすく、号令で関係部署が動員され右往左往したあげくに特急見積もり対応をし、その後はそのお客様からは全く音沙汰がなくなってしまい、担当営業マンも悪びれることもなく次のお客様を追いかけるという悪循環が起こります。

こうした旧態依然の営業スタイルを見直すべく、筆者は積極的にマーケティング手法を導入しました。

その下地として、中国社会も既にネット社会が浸透しており、民間企業はもとより政府活動についてもネット上で情報公開されていたことが好都合でした。

従来、政府系出版社が発行する「電力年鑑」の公的情報を市場分析に用いたり、T電気のような中央政府と太いパイプを持つ現地パートナーから情報を得ていましたが、筆者は独自に数週間を費やして主に下記の試みをしました。

 

電力業界鳥瞰図の作成

業界には、どのようなステークホルダーがどんな役割をもってどのような位置づけで存在するかを一目瞭然にしました。

発電設備所有者の内訳分析

従来、五大電力会社の業績にのみに注目していましたが、分析結果から、五大電力の保有する設備容量は全体の半分に過ぎず、残りの半分は主に地方電力大手中堅企業や比較的小規模の熱電併給企業などで占められていることが初めて分かり、優秀なエンジニアを内部に抱える大手企業とそうした実力のない地方中小企業に対する営業アプローチを変えました。

重点地域や顧客、重点分野の明確化

先ず、電力需給が多い、環境汚染が厳しく規制を強化しているなど複数の視点でトップ10に入る省・重点都市をリストアップしました。

その上で、それらの省・重点都市が保有する発電設備の内訳(石炭焚き火力、ガス焚き火力、水力、原子力、風力など)や設備導入後の経過年数、新規案件開発に対する優遇政策の有無と内容、各地方政府が補助金などを提供して注力する案件、地域の有力潜在顧客などを調べ上げました。

案件成立メカニズム明確化とスペックイン

省・重点都市政府の案件開発に関わる許認可プロセスは、中央政府の指導に基づきますが、それぞれ特有の事情を加味したものになっており、重点地域における許認可プロセスを明確に把握して、その案件がどの開発ステージにあるかを見極め、ステージに応じた対応を行いうことで、見積もり作業を分類して手間や無駄を省くと共に、重点案件に惜しみなくマンパワーを掛けられ日本側の支援を得やすいようにしました。

出来る限り開発段階の早い段階で優良顧客の優良案件であるかどうかを見極めて、当社の技術をベースに導入した許認可申請書の作成をサポートするようにしました。所謂、スペックインです。


こうした一連のマーケティング方法を各営業マンに理解してもらい、自らの営業活動に導入してもらうために、幾つかの定型書類を作成しました。代表的なものに、案件リストや業務フローチャート、案件概要・進捗報告書などがあります。

最初は面倒くさがっていた営業マンたちも、こうした書類を中国内関係者や日本側関係者と共有することで、事前準備も出来、サポートが得られやすくなると実感するようになったのは大きな成果であったと思います。

 

著者:高野明
自己紹介:47歳男性会社員、大手メーカーの海外営業部門勤務22年。ニューヨーク5年、北京3年の駐在経験あり。3つの現地法人の管理職として、英語や中国語を駆使し、現地人の雇用や事務所立ち上げ、営業スタッフ指揮監督やプロポーザル取り纏め、マーケティングや事業戦略策定、契約交渉や契約履行のトラブル対策など営業活動全般の経験あり。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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