第1回:障害者雇用の法定雇用率とは?
障害者法定雇用率とは?
昨今、ダイバーシティ経営が注目されておりますが、貴社は障害者雇用は実施されていますでしょうか。
多くの企業は漠然と雇用は一応しているという程度かと思います。
ご存知とは思いますが、企業が障害者雇用促進法で義務付けられている「障害者法定雇用率」という制度があります。
※ 障害者雇用促進法(厚生労働省ホームページ)http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html
「障害者法定雇用率」とは、企業が全社員数の内、障害者を必ず一定比率採用しなければならないという制度です。
この障害者法定雇用率は継続的に引き上げられており、以下のように推移してきています。
【障害者法定雇用率推移】
・ 1997年 1.6%→1.8%
・ 2013年 1.8%→2.0%
・ 2018年 2.0%→2.2%
・ 2021年 2.2%→2.3%
法定雇用率という数値はどのような数値かと申しますと、例えば法定雇用率2%の場合、1,000人の社員がいたならば、内20人(2.0%)以上を障害者手帳保持者の雇用を義務付ける、という数字になります。
この比率が継続的に引き上げられているのです。
法定雇用率を達成しない場合の罰則は?
この障害者法定雇用率の数字が未達成となりますと、50人以上の企業に対し、罰金(納付金)の支払いを命じ、さらに改善しない企業には行政からの指導が入り、最終的には社名公表にまで至ってしまいます。
罰金(納付金)額は1人不足分につき、月額5万円(年間60万円)、仮に5人不足していた場合、月額25万円(年間300万円)の支払いが義務付けられてしまいます。
(例)【納付金計算】社員数500人規模で現障害者雇用人数が6人の場合
・障害者必要雇用人数:10人
・現雇用人数:6人
・不足分:4人
・1人当たりの納付金5万円/月
不足4人分×納付金5万円/月=20万円/月(年間240万円)の納付金が支払い対象となります。
さらに、罰金(納付金)を支払うことで免除されることではなく、改善しない企業には行政指導(雇入れ計画作成命令)から特別指導、最終的には社名公表に至ってしまいます。
仮に社名公表となった場合、厚生労働省ホームページより社名が公表され、ブランドイメージ、株式市場の評価など相当な痛手となってしまいます。
毎年、実際に社名公表となる企業は全国で数社程度ですので注目は集まり、大幅なイメージダウンは避けられません。
つまり、企業としては、この障害者法定雇用率は必ず達成しなければならないものでもあり、放置することができないものとなってきています。
(参考)【社名公表となった場合のデメリット例】
・ ブランドイメージダウン
・ 自治体や行政からのイメージダウン
・ 社員の意識低下(特に優秀な人材からの印象低下)
・ 取引先からの評価低下(顧客、クライアント、仕入れ先、外注先等)
・ 金融機関からの評価低下
・ 株価下落
など
様々な障害者雇用推進方法
障害者雇用を推進する上で、安定雇用するため様々な取り組み方法があります。
以下、障害者雇用を推進するための取り組み方法の一例です
①通常の部署配属
一般社員と分け隔てなく、障害者雇用を推進する方法で、一般的に広く推進されている方法です。
障害種別によって職種は様々ですが、倉庫や工場がある企業は同所での作業系、一般事務としてパソコン業務などにも従事しています。
○メリット
・一般社員と一緒に働ける
・現行の体制のままで進められ、特に体制変更や就業規則変更などの手間はない
○デメリット
・管理職の負担が増大(業務指導やトラブル発生など)
・業務がない(業務レベルが合わない)
・環境サポートが行き届かない場合が多い
人材紹介から専門能力を有する方を雇用する方法もありますし、ハローワークよりパートアルバイトで事務業務を雇用する方法など様々あります。
ただし、一般的には現場の管理者が負担を強いられてしまうことが多々発生します。
重要なポイントとしましては、経営幹部や役員も環境作りに協力しながら、現場ではトライ&エラーを繰り返し、粘り強くノウハウを蓄積していくことが不可欠となります。
②専門部署または専門チームの立ち上げ
一般部署に配属するのではなく、一定の部署やチームで構成し、比較的経験者サポートを厚くすることで体制を安定化させる方法です。
○メリット
・一定の業務に特化できる
・サポート経験者が管理することで手厚いサポートが可能
・大量採用が可能となる(ノウハウの蓄積が可能)
○デメリット
・一般社員と一緒に働くことが少ない
・管理者がサポート経験者であることが求められる
・業務がない場合が多い
多くの場合、同じ業務を推進する関係上、同じ障害者種別の方を雇用する形が一般的です。
例えばですが、清掃チームや梱包チームで知的障害者を集中的に雇用する、または資料作成チームを聴覚障害者中心に組成するといった形です。
管理者も同じ職種特性を理解し、ノウハウを蓄積しながらサポートしやすい環境を保つことも可能となります。
③在宅雇用
在宅で雇用する方法です。
○メリット
・障害者の通勤負担が軽減できる
・身体重度障害者などの雇用が可能となる
○デメリット
・一般の社員と一緒に働くことができない
・業務がない場合が多い
・管理が難しい
昨今、一般社員でも在宅雇用が広がりつつあります。
都心などでは障害者雇用激化の背景から採用が難しい状況ですが、地方の職を求めている障害者を雇用することも可能となります。
また本社では雇用が難しい身体重度障害者などの雇用も実現できます。
④特例子会社
主に大手企業が推進する障害者雇用で、グループ会社として子会社を設立(既存の子会社を認定する方法もあります)し、障害者雇用を中心的に推進する法人を活用する方法です。
○メリット
・グループ全体で雇用人数を算定できる(障害者向け業務が多い法人に雇用を集中することができる)
・親会社と異なる柔軟な就業規則などが適用できる
・設立に助成金が適用できる
○デメリット
・法人設立や既存法人の認定などの手間がかかる
・簡単にやめることができない
・多くの場合赤字企業となるため、グループ決算で目立ってしまう
大手企業では特例子会社を設立するケースは多かったのですが、助成金額が減額されてから設立数は減少傾向にあります。
特に子会社数が多い企業で、かつそれぞれの子会社が障害者雇用の課題を有する場合、グループ全体で強力に推進する形で有効に作用します。
⑤その他の方法
上記以外に新しい障害者雇用方法が広がりつつあります。
・飲食店(ベーカリーショップなど)を運営する
・農業で雇用する
・障害者アスリートを雇用する
など
この方法は本業との整合性が難しい場合が多く発生します。
本業が飲食業界の場合で飲食店や農業事業を開始するといった形などであれば問題ないのですが、全く本業と関係がない場合、整合性が難しい場合もあります。
以上です。
障害者雇用を推進する上で、重要なポイントは働く障害者が安心して長く働く環境を整備することではないでしょうか。
障害者が安心して長く働ける会社は、一般社員にとっても同じであるはずですし、より発展する企業の基盤ともなりうるものだと思います。
今後、障害者法定雇用率も継続上昇していきますし、安定した障害者雇用を確立することが望まれます。
筆者:嵐 正樹
■プロフィール:
障害者雇用サポート支援として、身体・知的・精神障害者全ての雇用サポート実務を経験。
障害者雇用コンサルタントとして、東証一部上場企業を含めた10社以上の障害者雇用体制立ち上げを経験。
業務切り出しから採用、定着までの一貫した雇用サポートに強み。