顧客情報の管理ツールとして、かなり以前から普及しているのがCRMですが、そもそもCRMとはどんなものか?本格的に普及した背景や、活用方法とその変化、消費者向け飲料メーカーの事例などをご紹介します。
CRMとは
CRMは、カスタマーリレーションシップの略語で、日本語では「顧客関係管理」といわれるマーケティング手法です。
CRMの始まり
CRMは1990年代のアメリカで始まったとされています。
それまでのマーケティングでは、良い製品を作ったり、値引きしたりすれば売れるという考え方が主流でしたが、消費者の生活が豊かになり、ニーズが多様化した結果、「One-to-Oneマーケティング」といわれる、個人のニーズや購買行動に応じたマーケティングが始まりました。
CRMはOne-to-Oneマーケティングを実践するツールであると言えます。
MA、SFAとの関係
CRMは、インサイドセールス(内勤型営業)でよく使われるMA(マーケティングオートメーション)やSFA(セールスフォースオートメーション)と混同されますが、MAは見込み客を獲得するまでのツールであり、SFAは商談の進捗状況を管理するツール、CRMは、購入後の顧客との関係を築いていくツールと言えます。
CRMが本格的に活用されるようになった背景
顧客管理というと、CRMが使われる以前は、顧客名簿にある氏名や住所を使ってセール情報をダイレクトメールで送るということが主流でした。
しかし、この手法では、顧客は一律に扱われます。「長年その製品やサービスを購入している顧客」も、「最近消費し始めた顧客」も同じ扱いです。これでは、競争が激化している現代の企業にとって投資効率が悪過ぎです。
これまでは、顧客の購買動向を把握する方法が無かったため、このような非効率な販売促進が行われていましたが、近年、POSシステムとポイントカードなどの個人を識別できるIDカードが普及したため、CRMなどのOne-to-Oneマーケティング手法が可能になってきました。
つまり、誰が・いつ・どんな商品を・いくらで購入したかが把握できるようになったのです。
CRMの活用方法とその変化
CRMでは、収集された顧客の購買行動データに基づき、様々な購買行動分析手法が開発されていますが、代表的な手法をご紹介します。
デシル分析
デシルとはラテン語で、「10等分」という意味です。顧客を購入金額や購入回数などのデータで10等分し、そのランクに応じて販売促進手法を分けたり、優良顧客に対して経営資源を集中的に投入できたりします。
デシル分析を行うと、ほとんどの場合、上位グループの顧客の購入金額だけで、売上の多くを占めています。俗に、上位20%の顧客で売上全体の80%を占めるとも言われています。
RFM分析
RFM分析とは、Recency(最近の購入日)、Frequency(来店回数)、Monetary(購入金額)の3つのデータで顧客をランク付けする手法です。
RFM分析では様々な手法が開発されていますが、ランク付けした顧客グループの特性がある程度分かるため、その特性に合わせたマーケティング活動が出来ます。
例えば、購入日と来店回数を活用しただけでも以下のような顧客特性が分かります。
【新規客】・・・・・・・・・最終購入日が最近で、来店回数が少ない。【ロイヤルカスタマー】・・・最終購入日が最近で、来店回数も多い。【ご無沙汰客】・・・・・・・最終購入日が昔で、来店回数が多い。
顧客特性が分かれば、その特性に合わせたマーケティングが可能になります。
例えば、新規客には継続的に利用を促すクーポンを発行したり、ロイヤルカスタマーには経済的なメリットよりも「お名前でお呼びする」などのメンタルなメリット提供したり、何らかの理由で利用が無くなったご無沙汰客にはセールの案内にアンケートを送付してみたりと、顧客特性に応じた活動が可能になります。
ネット通販やBtoB分野への展開
CRMは顧客の識別と購買データが把握できれば店舗販売だけでなく、ネット通販やBtoBで取引される産業用製品にも応用できます。
さらに、顧客の郵便番号などとリンクすると、地図データと連動して商圏範囲を測定したりすることも可能になります。
CRMの導入事例
企業プロフィール
株式会社ヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町 ビールメーカー)
CRM導入の経緯
「よなよなエール」など、個性的なクラフトビールを製造販売している株式会社ヤッホーブルーイングは、1997年に創業した国内第売上6位のシェアを持つビールメーカーです。
自社サイトやECモールを通じたネット通販に強みを持ち、個人向けに、「スタッフ自らが案内する醸造所見学」や「製品以外の話題も交えた電話応対」「5,000人が交流するリアルファンイベント」などのユニークな手法で、消費者との繋がりを大切にしているメーカーです。
CRMの機能
同社のCRMシステムでは、従来7つのシステムで管理していたビール通販の購入履歴をはじめ、イベントへの参加記録、問い合わせ電話・メールへの応対履歴、商品に同梱したアンケートの回答、自社サイトへのアクセス状況などを一画面で共有できるシステムに統合しました。
また、顧客から多く寄せられる質問については回答例をQ&A形式で整理し、いつでも参照出来るようにしました。
CRM導入の効果
システム導入の結果、電話問い合わせへの回答準備時間が1件あたり平均で従来約90秒掛かっていたものが、導入後、10秒と9倍のスピードアップを達成しました。社歴に差がある10人前後のオペレーター数であっても、一定以上の応対品質を保てるようになりました。
その分、同社が「WOW」と呼ぶ、お客様を喜ばせるような体験をより多く提供出来るようになりました。
さらに同社ではBtoCから得られた地域ごとの販売動向データなどをもとに、BtoBの領域にも進出しようとしています。
【参考】セールスフォースドットコム 株式会社ヤッホーブルーイング
https://www.salesforce.com/jp/customer-success-stories/yohobrewing/
まとめ
One-to-Oneマーケティングの実践ツールとしてのCRMの意味や活用方法などについてご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?
CRMは一過性のマーケティングツールではありません。ヤッホーブルーイング社の事例にみられるように、顧客との関係性を高め、生涯にわたって長い付き合いをしていこうという考え方に基づいています。
私たち中堅中小企業も、顧客との関係という視点に立ってマーケティング活動を考えていきたいものです。
著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。