DXで生産性を向上させた具体的事例
企業の紹介
企業名:有限会社ゑびや
事業内容:飲食業、小売業、商品企画開発
資本金:500万円
HP:https://www.ise-ebiya.com/
事業の概要
1912年三重県伊勢市伊勢神宮の内宮前で食堂として創業。現在3形態の事業を展開しています。
リアル店舗としてゑびや大食堂は、地元食材を使った郷土料理を提供しています。ゑびや商店/あわび串屋台は、三重の食材を使った土産物や職人による工芸品、アワビの串焼きしたファストフードを提供しています。
デジタル店舗は、web上で現場店員による店舗案内、商品紹介・購入もできるリアルタイムWEB販売です。
株式会社EBILABは、飲食小売店分析ツールの販売からスマートシティ事業、テレワーク支援、コンサルティングまで幅広く事業を展開しています。
DXに取り組むきっかけ
現社長が、2012年に入社した当時、ゑびやは食券式の大衆食堂でPOSレジもありませんでした。
蓄積されたデータはなく経験と勘に基づく運営で、多数の食品ロスと疲弊した現場で数字的にも苦戦していました。
正確な需要予測があれば食品ロスと従業員の疲弊を軽減できると思い、需要予測に勢力を傾けたのがDXに取り組むきっかけです。
DXの具体的内容
現社長が入社した2012年、需要予測の基盤を作るため、食券からデータをExcelに移行する作業からスタートしました。
大手IT企業出身でしたが、エクセルを使える程度のIT知識だったため、独学でマクロを勉強し13年からExcelのデータベース化に取り組みます。
手作業によるデータ入力に限界を感じ14年にPOSレジを導入。
しかしExcelでマクロを書く作業は属人化するためAIによる来客予測ツール開発に動き始めます。
2015年にAI企業とパートナーを組み、予測精度日本最高レベルの来客予測ツールが完成しました。
この他業務プロセスの効率化のため様々なデジタルツールを導入しました。店舗オペレーションの効率化のためのテレビ会議システムやレジ・カード決済・オーダーシステムのためのスマートデバイス(IoT機器)を積極的に活用しています。
こうしたデジタルツールをクラウドに一元化して管理することにしました。
DXの結果、2018年には入社年の2012年に比べ売上高が4.8倍、利益率10倍を達成しました。従業員数はほとんど変わっていないため10倍の生産性向上に成功したことになります。
さらに、平均給与は5万円アップ、年9日から15日間の特別休暇を付与、有給休暇消化率も80%超える働き方改革にも成功し、厚生労働省働き方改革特設サイト中小企業の取り組み事例に選出されています。
事例から学べる事
(1)従業員を動かす難しさ
現社長が改善策を講じるたびに前社長と衝突、不満に思った料理人を含めた社員が去っていき、現在の社員は現社長入社後、DXに取り組む過程で入社してきたものばかりになりました。
(2)マインドセット・組織イノベーションの効果
経験と勘の属人的経営から、データに基づくデジタル経営に移行したところ、早速効果が出てきました。
看板とメニューを刷新し、3%値上げした際には、入店購買率が、明らかに低下したため、元に戻すと購買率戻りました。
今度は看板とメニューを元のまま、値上げしたところ購買率が下がらなかったので客数を減らすことなく3%の値上げに成功したのです。
コロナ過の緊急事態宣言解除後に営業再開したところ、地元の若者の来店数が増えていたことがデータから判明しました。
インスタ映えする若者向けメニューを開発し提供したところ、若者が80%を占めるまでになり環境変化の対応に成功しています。
出典:2019年版中小企業白書事例3-1-6
「AIによるデータ分析で、業務改善や従業員の士気向上、売上拡大を実現した企業」https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/2019/index.html
グローバル・ニッチ・トップの具体的事例
企業の紹介
企業名: オプテックス株式会社
事業内容:各種センサーの企画・開発、販売など
資本金:3億5,000万円
HP:https://www.optex.co.jp/
事業の概要
1979年、オプテックス株式会社設立。
1980年、遠赤外線利用による自動ドア用センサーを世界で初めて開発しました。
赤外線をコアにレーザーやマイクロウェーブなどさまざまなセンシング技術を、防犯用、自動ドア用、産業機器用、交通関連用など用途別に応用し、センサー関連商品としてセンサー照明や車両検知機器や水質測定機器を開発・販売、センサー関連サービスとしてセキュリティや設備監視・防災監視など様々コンテンツも充実させ、トータルソリューションメーカーとなっています。
この結果、屋外用侵入検知センサー世界シェア40%、屋外用ビームセンサー 世界シェア30%、CCTVカメラ補助照明世界シェア50%、自動用ドアセンサー日本シェア60%・世界シェア30%、客数情報システム日本シェア80%など成果をあげています。
グループ会社は米欧だけでなく南米、中近東、アフリカなどグローバルに展開、海外売上高は約 7 割に達しています。
グローバル・ニッチ・トップを目指すきっかけ
1980年に開発した遠赤外線を用いた自動ドアが、それまで主流だった足踏み式や手動式、ボタン式の半自動ドアに対する世界初のプロダクトイノベーションだったため、自然な流れでグローバル展開に至ります。
グローバル・ニッチ・トップなるための具体的内容
(1)世界各国に最適なQCD(品質・コスト・納期)を提供できる体制を構築
Q:安定した品質の製品を生産できる工場を中国に構え、最高水準の国際規格ISO9001(品質管理)とISO14001(環境マネジメント)認定取得。
CD:30カ国以上に営業・販売拠点を持ち、世界4極にハブ倉庫を持つことで、独自のサプライチェーンを構築。80 ヵ国以上のお客様に迅速かつスムースに製品を提供できる体制を構築しました。
(2)ニッチ戦略
特定用途向けに開発方向性を絞り込み専門性を高めシェアトップを狙うニッチ戦略を採用しました。
このため、地域別・用途別・コンテンツ別などマーケットをこまかく細分化し、グローバル視点、現場主義、最新技術とのコンバージョンの3点で常に模倣されにくい工夫を続けています。
事例から学べる事
(1)相談すればなんとかしてくれる「評判」を確立
センサーに求められる性能が、その国の文化や商慣習、気候、社会状況により異なるため、常に現場を理解することが求められ、30か国以上に拠点を設けパートナー企業や現地代理店と地域密着体制を構築。現場で蓄積したノウハウで他の追従を許さないポジションを確立しています。
(2)独自ネットワークを構築
(株)ヴィッツや日本信号(株)、アイシン精機(株)など様々な企業や学術機関と共同開発する関係を構築。
「生活支援ロボット実用化プロジェクト」では千葉工業大学と合同でプロジェクトを推進しました。
(3)高い市場シェアを維持するため模倣されない工夫を日々実践
ニッチトップを維持・拡大するため、世界各国の現場に立ちお客様の声を聞き観察することでニーズ・ウォンツを発見し、多様な価値観や考え方を持つ人種・国籍の異なる社員が集まりアイデアを抽出することで、基幹技術を常にブラッシュアップしています。
ブラッシュアップされた技術を様々な用途とコンテンツに横展開し、フィードバックされた情報を新技術と融合(コンバージョン)することで、イノベーションを起こしさらに基幹技術に育てています。
出典:2020年版グローバル・ニッチ・トップ企業100選選定企業集
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/gnt100/pdf/2020_gnt100_result_detail.pdf
おわりに
2025年に向けて日本市場はさらに縮小する方向に進みそうですが、世界は2030年に向けて大きく広がり大きく変わります。
このチャンスを活かすため今回の事例は多くのことを教えてくれます。
第一章の事例では組織イノベーションによるマインドセットの重要性を教えてくれます。
経営成績の改善だけでなく、看板付け替え問題やコロナ過の営業再開に際しての迅速かつ冷静な判断がDXの本質が単なる業務効率化ではないことを示しています。
第二章の事例は世界のニッチシェアトップを走る企業の模倣されない工夫が参考になります。
常に現場のニーズ・ウォンツを発掘しグローバルな視点・多様な価値観で答えになるアイデアを抽出、最新技術と融合させ、様々な用途・コンテンツに応用することで練磨し基幹技術を磨いていきます。
著者:maru
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。