顧客管理と言うと、いわゆる顧客名簿の管理と、売掛や買掛などの会計管理のイメージがありますが、近年のクラウドサービスでは、ネット上の特性を活かした多様なサービスが実現されています。最近の顧客管理クラウドサービスの特徴について見ていきます。
顧客管理クラウドサービスの概要
顧客管理と言うと、ホテルなどリアルタイムで処理するものを除くと、売掛や買掛処理など、会計的な処理が中心でした。
また、顧客データの活用にしても、単に顧客マスター(顧客の氏名や住所などの固定された情報)をもとに、DMを発送したり、メールを送信したりすることが主な活用方法でした。
しかし、近年、顧客との取引状況を分析し、良好な関係を構築するためのCRM (カスタマーリレーションシップマーケティング)の機能や、営業業務を、インターネットを使って効率化するSFA(セールスフォースオートメーション)の機能が加わっています。
さらにそれらの機能をインターネット上で提供するクラウドサービスが増えています。
顧客管理クラウドサービスのメリット
顧客情報を共有できる
これまでの顧客管理というと、営業が見込み先管理や契約、発注処理などを行い、その後、売掛や買掛処理などは経理が行っていました。
しかし、近年はそれらの情報がインターネット上でリアルタイムに全ての部署で把握することが出来ます。そのため、顧客に対してより細やかな対応が出来るようになりました。
例えば、「追加受注をしようと思うが、売掛の回収が遅れている」とか、「営業が提案している時にリアルタイムで在庫が把握出来る」など、顧客に対して総合的でタイムリーな対応が可能になります。
営業の属人化を防止
営業の職種は、昔から個人の能力に頼る部分が大きく、ノウハウが共有されにくい職種でした。そのため、優秀な営業パーソンは会社から大事にされ、好待遇を受けてきました。
会社としても、売上を作ってくれる社員は何よりも大事であり、退職されるとその分の売上が無くなってしまう恐れがあるため、他の社員よりも一段高く「カリスマ」扱いするほどでした。
しかし、高度経済成長が終わり、バブルもはじけて低成長時代が始まり、製品のライフサイクルが超短命化し始めると、カリスマ営業パーソンには頼れなくなりました。ビジネスの変化が大きすぎて優秀な営業パーソンが常勝を続けることが出来なくなったのです。
顧客管理のクラウドサービスでは、顧客に対するアプローチ内容が全ての社員で共有できるため、特定のカリスマに頼らない営業が可能になります。
顧客管理クラウドサービスのデメリット
顧客情報漏洩の恐れ
顧客のあらゆる情報を社内で共有できるということは、いつでも漏洩が可能であるということです。多くの大企業が、顧客データの漏洩で窮地に追い込まれています。権限の設定や高度のセキュリティ対策が求められます。
情報の更新スピード
顧客のマスター情報(担当者名や役職、事業所の住所、電話番号)や在庫情報、売掛管理や買掛管理の残高など、リアルタイムでの情報共有は、裏を返すと、リアルタイムな情報更新が求められます。これは、全社をあげて取り組まなくてはならないことです。
顧客管理クラウドサービスの必要性
非接触型営業の必要性
新型コロナウイルスが蔓延し、複数回の緊急事態宣言を経て、私たちのビジネススタイルも、「顧客に合わなくても進められる」ことが求められるようになりました。
この状況はライバル企業も同じなわけですから、いかにこの営業しにくい状況でも成果が出せる仕組みを作り上げることが競争上も重要になってきます。
BCPの側面
さらに、地震や感染症の蔓延などで今後も業務が停止させられることも予測していかなくてはなりません。たとえ、ロックダウンのような究極の状況が起こったとしても、通信回線さえあれば、営業活動が続けられるのが顧客管理のクラウドサービスです。危機管理という意味からも求められるサービスであると言えます。
インサイドセールスの可能性
SFAなどの進化形として、「インサイドセールス」という新しい営業手法も胎動を始めています。インサイドセールスはアメリカで発達した営業手法です。アメリカは自国で時差があるほど広大な国土です。日本で言う「飛び込み営業」など効率が悪すぎて通用しません。
そのため、メールやホームページ、Web会議などのツールを活用し、見込み客を作る段階から非対面で進行します。
インサイトセールスは、日本ではまだ始まったばかりの手法ですが、コロナ禍の中、顧客管理のクラウドサービスの良さを最大限に生かして営業活動を効率化し、属人化しない手法として注目されています。
まとめ
顧客管理をクラウド化することで、従来の、どちらかというと守りの顧客管理から、情報の共有化を武器にして、インサイドセールスなど、「攻めの顧客管理」が可能になることをご理解いただけたのではないでしょうか?
さらに、クラウド化することにより、リモートワークにも対応できるため、働き方改革や事業継続計画(BCP)の側面もあります。
守りから攻めの経営に、クラウドを活用していきたいものです。
著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。