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日本的雇用慣行と大学教育

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こんにちは!栗原誠一郎です。

経団連と大学が通年採用で合意

先日の日経新聞で、2019年4月22日、経団連と国公私立の大学等で構成する就職問題懇談会が協議会を開き、通年採用の拡大で合意すると報じられましたね。

通年採用の拡大と表現は柔らかですが、簡単に言えば今までの横並び採用ルール(広報活動開始:卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降/採用選考活動開始:卒業・修了年度の6月1日以降/正式な内定日:卒業・修了年度の 10 月1日以降)を廃止することで合意した訳です。

超人手不足環境の中、経団連に加盟しない企業が所謂「青田買い」をどんどん行い、また経団連加盟企業もインターンシップという名の実質的な採用活動を行う中で、採用ルールを設定している意味がなくなったということでしょう。

 

制定と廃止を繰り返す採用ルール

前述の日経新聞には、今回の合意で「横並びの一括採用と年功序列に象徴される日本型の雇用慣行が大きく変わる転機にもなり得る。」とコメントがのっていました。これは日本の雇用慣行の歴史と本質を考えれば、全く意味の無いコメントだと分かります。

そもそも、今回のようなことは過去何度も繰り返し行われてきました。

現在、経団連が「採用選考の指針」として設定しているルールは、以前は「就職協定」と呼ばれていました。

歴史は古く、最初に就職協定が締結されたのは1952年にさかのぼります。

1945年の終戦後、戦後の復興景気と朝鮮特需による人手不足により、学生を卒業前に採用する「青田買い」が活発化する中で、学校側が学生の学業専念が阻害されると主張し、当時の日経連と大学側で協定締結に至ったのです。

しかし、人手不足が更に深刻化した1962年には結局協定は形骸化し、協定は廃止されます。

その後、二桁成長が落ち着いた1971年に再度、日経連は協定に復帰しますが、結局、その後も協定の形骸化は留まることはなく、1996年に協定は廃止されます。

協定廃止後、日経連は「新規学卒者の採用選考に関する企業の倫理憲章」を制定、更には2016年卒の採用活動からは安倍首相からの働きかけで現在の「採用選考の指針」を制定します。

しかし、上述したように採用ルールの形骸化は留まることはなく、今回、廃止することとなった訳です。

そもそも日本企業が新卒者の一括採用を行うのは、長期雇用慣行のある日本においては卒業というタイミングで採用しないと、優秀な人材を集められないからです。

今回の採用ルールの廃止により、通年採用が広がると言っていますが、過去から通年採用を掲げている企業は沢山ありますが、通年採用で必要な人員数を確保できている企業は皆無でしょう。

逆に言えば、新卒一括採用でなければ人材を確保できないからこそ採用ルールが形骸化する訳です。今回の採用ルールの廃止で日本の雇用慣行が変わると考える方が難しいと言えるでしょう。

 

企業は大学教育にそもそも期待をしていない

一方、大学側にとっては、企業の採用活動の早期化が進むことによって、学生が就職活動に時間がとられて、学業に専念できなくなるというのは確かに問題ではあるでしょう。

今回の企業と大学側との合意の中でも、「実質3年間の大学教育では、幅広く高い能力をもつ人材を育成するには不十分だ」と訴えています。

しかし、企業にとって新卒採用は長期勤続の中で育て上げることを前提にしたものですから、少なくとも学卒採用についていえば、そもそも大学での教育にそれほど期待していないと言ってもよいでしょう。

学卒レベルの専門性など、企業の中で役立つことはあまりありません。

実際、経団連が実施した企業アンケートによれば、新卒採用選考にあたって特に重視した点の第1位は「コミュニケーション能力」、第2位は「主体性」、第3位「チャレンジ精神」、第4位「協調性」、第5位「誠実性」で、「専門性」は第13位、「学業成績」にいたっては第18位でしかありません。

企業の本音から言えば、新卒採用選考上は4年生になるまで待つ必要はないのです。

院卒についても、大卒に比べれば多少専門性は大切になるでしょう。

それでも、特定分野における能力が求められるジョブ型雇用に相応しい分野はAIやITなど限られていますから、院卒者と言えども学卒と同じように採用後に成長するポテンシャル(=素地)が重視されることになり、採用の早期化は人手過剰にならない限り弱まることはないでしょう。

 

問われる大学教育のあり方

今回の経団連との合意において、大学側は「多様な採用形態をどう大学教育と結びつけるか、最適解を(経済会と)一緒に見つける」と話したそうですが、この発言には違和感を覚えます。

大学は職業訓練学校ではないのですから、企業の採用を考えて大学教育を考える必要は本来ないでしょう。

少子化が進み、大学自体が取捨選択される中で、就職に強いことも必要なのかもしれませんが、あまり小手先の対策をとると、大学のためにもならないし、日本の将来のためにもならないと思います。

学校教育法に規定されている大学の目的にあるとおり、「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授、研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させる」ことを純粋に探求すべきだと思います。

日本の大学では戦後、一貫して教養課程が軽視されてきましたが、「知的、道徳的及び応用能力を展開させる」ためには、この教養課程こそ重要だといえるでしょう。

そして、この教養課程の強化が、結果として、長期雇用慣行の中で企業においても活躍できる人材を輩出することにもつながるのだと私は思います。

 

さて、皆さんは今後の新卒採用、そして大学教育はどのように変わっていくと思いますか?

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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