メタバースとは何か
メタバースの定義
(1)狭義のメタバース、広義のメタバース
メタバース(Metaverse)とは、メタ(Meta:超越した、何にでもなれるといった意味)と、ユニバース(Universe:宇宙、森羅万象、全世界などの意味)を組み合わせた造語です。
日本では「アバターを通じて行動・体験・協働できるインターネット上の仮想空間」(JETROの定義)などと訳されることが多いです(狭義のメタバース)。
しかし、IT分析および市場調査会社Gartnerは「インターネット上に構築され、物理空間 (リアル) と仮想空間 (バーチャル) を融合した、フルデジタル化された新たな環境」と定義し、世界最大級のプロフェッショナルサービスファームPwCがまとめたメタバースの特徴は以下の通りです。
これらを見ると単なる仮想世界を示すものではなく、デジタル空間における活動と、現実社会での行動がリアルタイムでつながるようになると考えられています(広義のメタバース)。
(2)メタバースの特徴
(3)現実世界と仮想世界の関係
メタバースを現実世界とのリアルタイムでつながりのある仮想世界と捉えると両世界の関係は3つに分けられます。
①現実世界のいたるところに仮想世界が存在
②現実世界が仮想世界へ移動
③現実世界を超える仮想世界
メタバースで出来ること
メタバースで出来ることに関しては、「セカンドライフ」の前例があったため、エンタティメントやショッピングの印象が強いです。
しかし、技術の進歩で「現実世界に限りなく近い体験の共有」(旧Facebook(現meta)の定義)が可能になったため、ソーシャル・メディアとしての役割とタスクでの活用が重要です。
Facebookがmetaと改名した経緯やPwCが「電話やインターネットがコミュニケーションにもたらした変化と同じ規模の変化をメタバースも引き起こすだろう」と述べているのはこのためです。
仮想世界の構造図
(1)インフラ層・アプリケーション層
Amazonをはじめ様々な分野の有力企業に使われているデジタルツインプラットフォームがAIや自動運転の心臓といわれるGPUを開発しているNvidiaから提供されていること、ARアプリ開発キットを個人クリエーター向けに公開しているのが「ポケモンGO」で成功を収めている最先端AR企業Nianticであることから、この両社がプラットフォーム競争でトップを走っているものと思われ、今後もその動向に注視する必要があるでしょう。
(2)コンテンツ/サービス層・消費者層
人気コンテンツを提供している任天堂とEpicGames、GAFAMの旧FacebookとMicrosoftがサービスを提供している点が、一時的なブームに終わった「セカンドライフ」と異なりメタバースの将来性をうかがわせます。
市場としてのメタバースの可能性
メタバースの市場動向
市場規模・シェアともゲームが突出し現在のメタバースを引っ張っています。
しかし、2026年に向けてメタバースが一般化するとするGartnerの予想(第三章第一節(2))に大きな影響を与えているが、これから16倍も伸びるデジタルツイン等タスク分野です。
ゲーム系メタバース
企業と国の動き
(1)企業の動き
GAFAM、AI/自動運転の心臓GPUを作るNvidia、最先端AR企業Niantic、世界的プロフェッショナルサービスファームアクセンチェア、日本を代表するエンタティメント企業がメタバースに参入しています。
さらにメタバースとの入口となっているゲーム関連企業の買収等にGAFAMが動いています。それらはメタバースが夢物語には終わらない将来性の証拠です。
①独自のメタバースを持っている企業
②メタバース・プラットフォーム制作企業
③メタバース事業参入表明している企業
④参入準備企業
⑤GAFAM等のゲーム関連買収活動
(2)国の動き
世界のEC市場(BtoC)の過半数を占める中国の動きは特に重要です。
①中国
・中国の通信関連企業を束ねる業界団体CMCA(中国移動通信連合会)傘下に、メタバース産業委員会が発足
・中国:国家管理デジタル通貨「デジタル人民元」リリース予定
②韓国
・韓国:「デジタル新大陸、メタバースに躍進する大韓民国」を掲げ、市場のシェア5位、専門家4万人の養成、専門企業220社の育成などを目指すことを宣言
・韓国MSIT(科学技術情報通信部)、メタバース戦略を発表
メタバースが夢物語に終わらない理由
「セカンドライフ」の衰退原因と現状
セカンドライフとは、Linden Lab社が2003年に開始した仮想空間内での交流を目的としたサービスです。
空間内通貨「リンデンドル」で自分が制作した不動産やコンテンツが売買できることから日本でも人気を博しました。
しかし、以下のような原因で衰退しています。
もっとも、同じような課題は現在解決の方向に向かっており、さらにプラスアルファの要因もありメタバースは実装化に向けて確実に動いています。
メタバースの経営的意味
メタバースが及ぼす外部環境の変化
(1)密度の濃い時間の誕生 現在、メタバース=ゲームの印象が強いですが、PwCによれば「電話やインターネットがコミュニケーションにもたらした変化と同じ規模の変化」がメタバースによってもたらされるとのこと。その大きな変化とは具体的にどのようなものでしょうか?
Gartnerによれば次のような密度の濃い時間が訪れるという。
①②により、これまで以上にリアルな体験の提供と詳細な説明が可能となり、製品・サービスの差別化がしやすくなります。
③により、従業員とのつながりを強め、レコメンデーション機能の強化によりユーザーとのエンゲージメントが容易になることで、企業ブランドを形成しやすくなります。
④により、接続人数が増えることでマーケティング効率が高まります。
従って、この変化に対応したマーケティングができるか否かにより企業競争力に大きな差が生まれます。
(2)2026年までにメタバースが一般化?
Gartnerの予測では2026年には25%以上の人が1日1時間、この濃い時間を過ごすことになるといいます。
しかもエンタティメント分野だけでなく、ソーシャル・メディアやショッピング、仕事、学習でも実現するとのことです。
普及率25%といえば、「キャズム」といわれる一般消費者まで利用が拡大する成長期に入るカベ「普及率16%」を超える数値です。
成長期に入ると以下のような現象が生じるとマーケティングの権威マイケル・ポーターは述べています。
・一度、製品の良さが証明されると数多くの買手が市場に殺到
・企業による参入競争が始まり数多くの競争業者が出現
・合併や紛争が多発
従って、この濃い時間に対応できる準備していた企業がチャンスをものにし、準備していない企業はいきなり激しい競争にさらされます。
メタバースが及ぼす内部環境の変化(生産性向上の手段)
(1)アバター効果
アバターの外見は、私たちの行動に無視できない影響を与える(プロテウス効果)といわれます。
より魅力的なアバターを使うことで、デジタル空間における人々の新しい思考・行動様式が引き出されます。イノベーションを生み出す手段として期待できます。
(2)内部コミュニケーションの進化
世界的なプロフェッショナルファームアクセンチェアが内部コミュニケーション手段としてメタバースを活用しその有用性を実践しています。
(3)付加価値創出と生産性の向上
スマート工場では既にメタバースであるデジタルツインが活用され付加価値創出と生産性向上に役立てています。
おわりに
メタバースは単なる仮想空間エンタティメントの話ではありません。
デジタルだけでなくリアルも巻き込んだ新しいコミュニケ―ションと市場の話です。
日本企業はICT革命、第4次産業革命の対応に遅れ競争力が低下、世界とのデジタル格差が広がっています。
デジタルへの対応が遅れたまま、デジタルとリアルを融合する大きな流れが起きつつあります。
情報化社会のポジショニング競争でGAFAが生まれたように、メタバースのポジショニング競争で新たなGAFAが生まれようとしています。
メタバースでのこの競争は物理的インフラが整備されていない発展途上国をも巻き込んだかってない規模で行われるでしょう。
第2回記事ではメタバースへの中堅中小企業の対応方法を紹介していますので続けてお読み下さい。
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。