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中堅中小企業による人的資本経営参考事例

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町工場が人的資本経営を実現している事例

企業の紹介

企業名:株式会社山田製作所
事業内容:製缶・板金加工業・産業機械設計・製造
資本金:1,000万円
HP:https://www.yamada-ss.co.jp/

事業の概要

山田製作所は、ステンレスを中心に幅広い材料を使用した板金から産業用製造装置の組付け調整まで幅広く対応している町工場です。

図面作成から始まる受注生産のビジネスモデルで、独自に開発した工程管理ボートや進捗管理システムの販売も手掛けています。

人的資本経営に取り組むきっかけ

90年代、日本経済が「失われた10年」と呼ばれた平成不況の中、山田製作所も年商が半分になりました。

「最新の設備もなく、当社独自の技術があるわけでもない」状況で、山田会長は無料セミナー「よい現場は最高のセールスマン。徹底した整理整頓清掃」を受講。

成功事例を学びながら「製品を生み出す工場を『最高のセールスマン』にしよう」と決意したのが3S活動に取り組むキッカケでした。

さらに、労働環境の勉強会などに参加する中で、「やりがい」を押しつけ残業を肯定している「やりがいブラック企業だ」と自覚するに至り、残業時間削減活動にも取り組む決意をしたのです。

人的資本経営の具体的内容

(1)3S活動
3S活動は「何の強みもない会社」(会長談)の特徴づくりとして始まりました。

この時掲げたスローガン「全員で守ることを決めて、全員で決めたことを守る」を20年続け、企業文化となっています。

全員で守ることを「全員で」決める事で従業員が主体的に労働に参加する風土も生まれました。

海外を含め年間200社が訪れる町工場としてメディアでも取り上げられ、新規顧客獲得の機会を増やしています。

(2)残業時間削減施策
技術の差による割り当て増で残業時間が多くなっているベテランの負担を軽減すべく始まった残業時間削減活動は、半期ごとのKPIを定めPDCA回して行われています。

3S活動で養われた「全員で守ることを決めて、全員で決めたことを守る」の企業文化で、あと5分で終わる作業も定時になれば止めさせる徹底ぶりを実現。

PDCAのcheckとして「なぜ終わらなかったのか」を考える習慣を身に付けさせました。

また、ベテランの残業時間増加の原因となっている新人との技術の差を埋めるべく、ベテラン指導によるOJT体制も導入しました。

その結果、技術の差が埋まりベテランの割り当てが減少、残業時間のKPIをクリアすることが増えています。

(3)進捗管理
3S活動と残業時間削減施策の展開で、効率化と質の上がった作業工程の更なる飛躍のため、進捗管理が次の課題となりました。

他の工場を参考に導入された工程管理ボードが、これまでの活動で養われた「考える習慣」で改良され、山田製作所独自のものとなっています。

ボードに情報が一元化されデータが蓄積したことで、進捗管理システムも独自開発できるようになりました。

事例から学べる事

受注生産のビジネスモデルで労働環境を改善しつつ利益を出していくには、割に合わない注文は断る「選別受注」が必要です。

そこで山田会長は労働環境そのものを「最高のセールスマン」とする決意しました。

まず3S活動で働き易い環境を作り、課題に浮き彫りにするとともに課題に取り組める時間を作りました。

その課題とはベテランを中心とする残業時間です。
3S活動を通じて決まり事を守る企業文化を築き上げていたため、残業時間活動のKPIとPDCAがうまく回りだし、ベテランと新人のOJTも効率よく運びました。

新人・ベテランの技術差解消に伴う進捗管理の実践の中で生まれた独自の工程管理ボードと進捗管理システムは、医療現場等、他産業に販売されるほど優れたものになりました。

こうした活動を通じて労働環境全体の見える化に成功し、更なる企業価値のための課題発見とその解決に取り組む時間・ノウハウが生まれているのです。

出典:厚生労働省働き方改革特設サイト
「主役は社員。3S活動(*)をベースに一丸で取り組む働き方改革」
https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/casestudy/file113/

(*)3S活動とは、整理・整頓・清潔のことです。

ダイバーシティ経営を中心に人的資本経営を実現している事例

企業の紹介

企業名:スリーアールシステム株式会社
事業内容:スマホ関連機器・PC周辺機器・光学機器などの開発・販売・卸売業
資本金:1,200万円
HP:https://3rrr-hd.jp/

事業の概要

スリーアールシステム株式会社は、2001年創業ながら、工場・医療分野で使用される光学機器の製造販売から太陽光発電事業、eスポーツ事業、インフルエンサーマーケティング事業、越境EC事業までサービスを拡げている急成長企業です。

SDGsやダイバーシティへの取組みにも積極的で、九州で唯一、経済産業省主催の「平成30年度新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出されました。

ダイバーシティ経営に取り組むきっかけ

事業が急拡大していく中で、女性従業員の結婚・妊娠の時期が重なり、優秀な人材の大量離職の危機が訪れたことがキッカケでした。

そこで経営陣は労働市場を分析し、圧倒的に多い男性の求人に比し、働き易い環境を整えれば、優秀な女性を獲得でき将来的に会社が強くなると考えたのです。

ダイバーシティ経営を中心に人的資本経営を実現している具体的内容

(1)独自の短時間正社員制度
有能な女性を集める中心になった施策が、独自の短時間正社員制度です。

未婚・既婚問わず、子供の有無・その年齢も関係なく利用でき、活用理由も子育てや介護である必要なく、副業目的でも適用されるのです。

一般的な短時間制度のような「6時間以上」といった縛りもなく、1日3時間半を週3日だけという人もいるとのこと。2022年3月時点で総社員123名中14名が活用しています。

出典:「スリーアールの働きかた」スリーアール
https://3rrr-hd.jp/culture/workstyle/

(2)多様な人材の受け皿
多様な事業を展開している中には、Webマーケターやデザイナーのようにテレワークでも問題のない職業もあり、テレワークと出社勤務を使い分けできるハイブリッドワークが導入されています。

外国籍社員も11名おり、アジア圏のみならずフランス、スペイン国籍社員も活躍中です。

(3)自由な社風
入社2か月の新人が社内図書館の責任者に抜擢される等、自由な社風もスリーアールの魅力です。

社員提案による様々な施策も展開され、これまで有料アプリ活用補助金や禁煙手当などが採用されています。

「気軽に来て欲しいい」と代表が述べるほど、開放的な職場で、社内ツアーも開催中です。

事例から学べる事

従業員獲得が、多くの中堅中小企業の一番の課題となっている中、商社として多様な事業を展開して常に時代の最先端に触れる経営戦略上の必要性がありました。

また、女性従業員の離職時期が重なったという人材戦略上の課題の発生で、両戦略が連動することになりました。

労働市場の分析により、中堅中小企業でも有能な女性を中心とするダイバーシティ経営は可能との決論に至ります。

有能な女性を集めるためには従業員エンゲージメントを高める施策が必須です。

ここでエンゲージメント向上の方向で経営戦略と人材戦略が連動することとなったのです。

連動して展開された施策や自由な社風で、幸福感を感じられる職場となり、女性のみならず、有能なデジタル人材や外国籍の社員も獲得し、ダイバーシティ経営を実現しています。

出典:厚生労働省働き方改革特設サイト
「多様性を認めるダイバーシティ経営で強くしなやかな組織を作る」

https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/casestudy/file134/

おわりに

「工場を見てもらえば、競合企業があっても90%は受注できる自信がある」(山田製作所)、「気軽に来て欲しい」(スリーアールシステム)。

今回紹介した最初の事例は町工場、次の事例は面白いこと新しいことに挑戦する企業として、労働環境を最高のセールスマンと捉えています。

労働環境を見てもらい仕事を獲得するには、遣り甲斐をもって働く従業員が欠かせません。

「自律的動機が生まれる職場」「幸福感を感じられる職場」として、従業員エンゲージメント向上の方向に経営戦略と人材戦略が連携しています。

CHRO設置や動的人材ポートフォリオ実現しなくても、「人材価値を最大限引き出して、中長期的な企業価値向上につなげること」は出来るのです。

著者:maru
2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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記事監修者

栗原 誠一郎
大阪大学基礎工学部化学工学科卒業。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(旧三和総合研究所)に入社。
経営コンサルタントの中核メンバーとして、人事関連分野を中心に活動。

2016年2月、20年来の業務提携関係にあった株式会社日本経営開発研究所にシニアコンサルタントとして入社。
2017年4月、株式会社日本経営開発研究所の代表取締役所長に就任。

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