インターネットが充分に配備され、さらに5Gなど高速通信が可能になりつつある現代、コンピュータの利用形態は、一層クラウド方式が進むとみられています。クラウドサービスの仕組み、クラウドで行える社内業務などをご紹介します。
クラウドサービスとは
クラウドとは「雲」のことです。まるで雲の先にある場所のコンピュータを活用するように表現されたため、この名前があります。
つまり、「サーバー」と言われる、プログラムやデータが保存されている場所に対して、インターネット経由で接続し、コンピュータを利用する方式です。
コンピュータシステム利用形態の変化
そもそも、コンピュータを利用する形態は、自社でコンピュータを所有し、そのコンピュータの内部にプログラムやデータを保管し、会社の中で専門家が運用する方式が一般的でした。
今でも、文書作成や表計算などの事務処理用ソフトはコンピュータの中にソフトウェアをセットして使うケースが多いようですが、多くのソフトウェアがインターネット上で「利用」する形態が増加しています。
そのため、「SaaS」(ソフトウェア アズ ア サービス)、つまりソフトウェアをサービスの一種のようにして使う形式とも言われています。
クラウドサービスのメリット
クラウドでは、自社でシステムを持たないため、多くのメリットがあります。
高度な機器や専門人材が不要
クラウドサービスを利用する場合は、インターネットに接続できるパソコンだけでOKです。近年、家庭でもインターネットに常時接続できる環境が整いつつあり、テレワークには最も適していると言えます。
また、必要な仕組みはインターネットを経由してすべて提供されるため、コンピュータを運用したり保守したりする専門人材が不要です。
問合せはクラウド提供企業側でヘルプデスクを用意していることがほとんどです。
初期費用が安い
クラウドサービスのほとんどは、既に開発されたソフトウェアを目的に応じて選んで利用するだけなので、初期の開発費用がほとんどかかりません。
最初に必要なのは会社や業務に必要な情報を初期設定することだけですので、数万円程度から始められるケースがほとんどです。
24時間265日使用可能
クラウドで利用するソフトウェアは、常に使用することが出来ます。会社でも自宅でも、出先でも業務が可能です。そのことは、多様な働き方を可能にし、働き方改革にも寄与します。
また、自然災害が多い日本においては、被災後のスムーズな業務再開にも貢献します。BCP(事業継続計画)には必須なツールと言えます。
バージョンアップに自動対応
コンピュータのソフトウェアは、法律や税制の改正に伴い、変更が必要です。従来のコンピュータシステムでは、その度に顧客企業のソフトウェアを改修する必要があったため、その都度費用が掛かり、利用企業の悩みの種でした。
しかし、クラウドサービスでは基本的に同一のプログラムを使用するため、サーバーのプログラムを改修するだけで、全てのユーザーが最新のシステムを利用することが出来ます。
クラウドサービスのデメリット
一方、クラウドサービスも万能ではありません。いくつかのデメリットも指摘されています。
離脱が困難
利用度が高く、低価格で利用できるクラウドサービスは、ユーザーにとって欠かせない存在になっていきます。そのことは、裏を返すと、その企業のクラウドサービスを止められなくということにもなります。
分かりやすい例でいうと、GAFAに代表される巨大IT企業の市場独占が挙げられます。
つまり、ユーザーとベンダーの立場が逆転しかねない力関係になっていくわけです。
サーバーダウンの可能性
2019年8月23日、アマゾンのクラウドサービスであるAmazon Web Services(AWS)に障害が発生し、ECサイトやゲームサイトを含む国内の多数のサービスに大きな影響が及びました。
原因はデータセンターの制御システムのトラブルで、空調に異常が起こり、サーバーがダウンしたようです。
クラウドは従来の社内所有型のシステムより信頼性が高いと言われていましたが、アマゾのサーバーですらダウンするという事実は、私達に、「クラウドは万全ではない」ということを教えてくれました。
セキュリティに不安も
クラウドサービスでは、インターネット経由で特定のサーバーにあるプログラムやデータにアクセスするため、データやパスワードやIDを盗まれたり、大量のデータを送り付けたりすることによって、サーバーをダウンさせるようなセキュリティ上の不安もあります。
ISOやプライバシーマークなどのセキュリティ認証を獲得している事業者かどうかのチェックも必要です。
クラウドで行える社内業務
情報共有、販売、経理、給与、請求、経費精算など、多くの業務がクラウド上で完結できつつあります。
テレワークのネックとして取りざたされる「決済」や「押印」業務もクラウドサービスで対応できるようになりつつあります。
さらに、請求書や経費精算なども、現物の書類が必要ということで、テレワークのネックになっていましたが、近年、「電子帳簿保存法」が施行され、紙の保存が義務付けられていた国税関係書類に対して、電子データでの作成がOKになりました。
また、2005年には「e-文書法」が施行され、企業が扱う国税関係以外の書類にも電子化が認められるようになっています。
さらに、これらの法律も、電子化に際して、対象の書類の制限が緩和されたり、スマートフォンで撮影した書類が認められたり、改ざん防止のためのシステム制限が少なくなるなど、書類の電子化に対する規制緩和が加速度的に進んでいます。
クラウドサービスで全ての社内業務が出来るようになるのも、そう遠くない将来のようです。
まとめ
クラウドサービスは、非常にメリットの大きいコンピュータの利用形態です。そして、その流れは加速しています。これは、テレワークやBCP(事業継続計画)の面からも重要です。
反面、サーバーダウンやセキュリティ面で完全とは言えません。データの定期的なバックアップやセキュリティソフトの更新など、もしもの時も想定しながら、有効に活用していきたいものです。
著者:hanbaishi
中小企業診断士。専門は経営・マーケティング・起業家指導・IT化支援。・TBC受験研究会にて診断士講座講師、福岡県産業・科学技術振興財団ベンチャースクール講師を経て、現在、専門学校で販売士検定・起業論・就職指導を行う。著作「中小企業のためのASPサービス導入に関する調査・研究(中小企業診断協会)」「繁盛店への道(財団法人福岡県企業振興公社刊)」等。趣味は黒鯛の落とし込み釣り、魚料理。