「モノ」から「コト」への変化の実態

はじめに

この記事で使われる「モノ」「コト」は、平成27年度地域経済産業活性化対策調査報告書(経済産業省)及び平成25年版情報通信白書(総務省)を参考に以下の意味で使っています。

「モノ」とは、個別の製品やサービスの持つ客観化(定量化)できる機能的価値です。

「コト」とは、単品の機能的なサービスを享受するのみでなく、個別の事象が連なった総体である「一連の体験」です。

「コト」は「意味的価値」、「使用価値」、「創造価値」に分類できます。価値が生まれる時期も重要ですので注意してください。

「意味的価値」とは、販売時・購入時に顧客の解釈と意味づけによって創られる価値のことです。

「使用価値」とは、使用・サービス時に利用者が商品・サービスを使用することから発生する価値のことです。

「創造価値」とは、生産・創造時の優れた商品を作り出すための仕組づくり(活動、プロセスを含む)としての価値のことです。

参考URL

平成27年度地域経済産業活性化対策調査報告書:経済産業省

https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/chiiki/koto_shouhi/pdf/report_01_02.pdf

平成25年版情報通信白書:総務省

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/html/nc111310.html

「モノ」から「コト」への時代的変遷

インターネット登場前 1980年代から2000年頃まで

①歴史的背景
1991年バブルがはじけ、製造業の競争力が失われつつあった時期がありました。

多くの分野において「モノ」がコモディティ(汎用品)化し、「モノ」を売るだけでは利益を上げることが難しくなっていました。

このような状況から、「モノづくり」を補完する考え方として、あるいは「モノづくり」を超える事業モデルとして、主張されはじめたのが「コトづくり」です。

②経営環境
この時期のICT(情報通信技術)の進化は、CADシステムやPOSシステムなどを生み出し、優れた「モノづくり」のための企業「内」ネットワークが整備しやすい環境をもたらしました。

そのため、脱コモディティ化のための差別化と企業内バリューチェーンの強化が経営戦略の優先課題でした。

③「コト」の変遷
「コト」のはじまりは、顧客と直接対面する流通業・サービス業の「商品をより魅力的に見せる」売り場づくりという形でした。

製品自体もデザインやインタフェース、ストーリーなど意味的価値で差別化をはじめます。

例えば、掃除機の「ルンバ」は、人工知能技術を使って全く新しいヒューマンインターフェースを提供しました。

インターゲット普及後 2000年頃から2010年頃まで

①歴史的背景
1995年頃から、インターネット(Windows)が一般に普及しはじめました。2000年には、サブスクリプションで最初に成功を収めたのが、顧客関係管理ソフトをインターネット経由で提供する「セールスフォースドットコム」です。

そして、2006年頃からGoogleトレンドで「コト消費」が使われ始めました。

②経営環境
ICTの進化は、ウェブシステムによる企業間ネットワークを活発にさせ、IOTなどセンサーシステムにより顧客データの取得範囲を広げました

そのため、企業間サプライチェーンの効率化と顧客の囲い込みが経営戦略の優先課題でした。

③「コト」の変遷
「コト」は、メンテナンス・交換など、「モノ」に対するアフターサービスなどの使用価値により「モノ」が「コト」の一連の体験へ変換され、顧客の囲い込みが始まりました。

例えば、コマツが建設機械に装備する稼働管理システム「KOMTRAX(コムトラックス)」は、GPSを経由することでほぼリアルタイムで車両の稼働状況を把握し、部品交換などのメンテナンスサービスで差別化することで囲い込みし、「モノ(建設機械)」の価格競争を回避しています。

製造現場での「コトづくり」(創造価値)は、サプライチェーンの統合や企業間連携のしくみづくりへ変遷していきました。

スマホ登場後 2010年以降

①歴史的背景
2010年代に登場したスマートフォンは、「LINE」の登場と相まって、SNSでのコミュニケーションを常態化させました。

そして、2015年にはネットフリックス、2016年にはスポティファイが日本でサービスを開始しました。

サブスクリプションが一般社会に浸透し、2018年は会社の規模、業種業態に関係のないサブスクブーム元年となりました。

②経営環境
ICTは、SNSやスマート端末、クラウドを生み出しました。これらのツールにより消費者の欲求対象はリアルな「トキ」にまで広がり、自ら価値を作り出す側になることまで可能にしています。

そのため、経営戦略は新たな市場と成長機会への挑戦、オープンイノベーションによるユーザーとの共創段階に入っています。

③「コト」の変遷
「コト」は、ユーザーの利用状況データから生じる新たな価値としての「コト」及び、ユーザーの共同作業によって新しい価値が生まれる二次創作としての「コト」まで広がりました。

例えば、電子ブック「Kindle」は、ユーザーの読書状況をweb上で同期し、メモなどをSNS上で共有できる「新しい読書体験」を提供しています。

製造現場での「コトづくり」(創造価値)は、世界中の専門家とのオープンな課題解決・価値創造、及び一般ユーザーも巻き込んだソーシャルな「モノづくり」へ拡大していっています。

「コト」の分類と具体例

競争力を失った「モノ」に付加価値をもたらし、価格競争を回避させる「コト」とは何か、ここで具体例と共に整理します。

「意味的価値」

売り場づくりや機能以外に「モノ」に付加価値を与えるようになりました。

①感覚的なデザイン

感覚的なインタフェース
例「ルンバ

③ソリューション(提供物の組合せによる課題解決)
例「KINTO」(トヨタ):自動車サブスク

車の機能的価値に税金や保険料、メンテナンス費用などソリューションという意味的価値を加え付加価値を向上させ、機能的価値自体もサブスクで「モノ」から「コト」へ変化しています。各地のMaaS(交通インフラ)アプリも同様です。

「使用価値」

①製造業のモノに対するアフターサービス(メンテナンス・交換など)
「マネージド・プリント・サービス」(各社複写機メーカー):回線を通じて顧客の利用状況を分析し、メンテナンスサービスや消耗品の交換で差別化し囲い込み、複写機の単品売りからサービス事業へビジネスモデルを転換しました。

②ユーザーの使用データに基づく新たな価値
動画配信サービスのネットフリックスや各種のファッションレンタルサービス:ユーザーの使用データに基づくレコメンデーションで完全カスタマイズされた新たなコンテンツを提供し、隠れたニーズウォンツを刺激しています。

③ソーシャルな領域でのユーザー同士の価値の二次創作
「初音ミク」:ユーザーが共同でコンテンツを創造するという新しい経験「コト」を提供する音声合成ソフトウェアのキャラクターです。

「創造価値」

①社内の仕組・組織づくり(バリューチェーン)
「ナレッジデータベース」(ダイキン):顧客の声を共有するデータベースシステム。

②取引先との垂直な仕組づくり(サプライ・チェーン・マネジメント)

③中小企業同士の横の連携による仕組づくり
京都試作ネット」:京都府南部で機械金属関連を営む複数の中小企業が立ち上げた、試作特化のソリューション提供サービスサイトです。

④世界中の専門家とのネットワークづくり
99デザイン」:ウェブを使って世界中のデザイナー(個人を含む)に依頼できる仕組みを提供しています。

⑤利用者も巻き込んだオープンなエコシステムづくり
fab lab」:自らはデジタルからアナログまでの多様な工作機械を備え、デザインは一般の人々がネットワーク上で協働しながら作成する環境を整備しています

終わりに

第1章「モノ」から「コト」への時代的変遷をみると、各時期の経営課題が、歴史的背景とICTの進化の帰結であることがよくわかります。

「コト」は、売り場づくりやデザイン・インタフェースなど提供側が考える意味的価値から始まり、ユーザーの使用データに基づくカスタマイズ価値、そして一般ユーザー同士の価値の2次創作の使用価値へと変遷しています。

「モノづくり」の現場も企業内から企業間、そして一般人との共創へと「創造価値」が拡大しています。

この変遷の中で中堅中小企業は競争力を失った「モノづくり」を補完し、これを超える新たなビジネスモデルを模索し、収益化させなければなりません。その手法を第2回以降で紹介していきます。

著者:maru

2011年から中小企業診断士として経営コンサルタントをはじめる。
通常の企業経営コンサルから、無農薬農業経営、介護施設運営等の幅広い業種に関わり、
エンターテインメント施設の開業のための市場調査から、債務超過企業の事業デューデリジェンスまで、企業成長段階に応じたコンサルタントを行っています。

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